第六のページ

 致命的な過ちを犯してしまったのだ。

 そもそも、考えてみれば最初からわかっていたことだ。


 叶ちゃんがバケモノに襲われた。


 あの日、僕らは無事に助かったと思っていた。思わされていた。

 それがどれだけ愚かしいことかは翌日に僕が叶ちゃんの家で見た光景が全て物語っている。


 叶ちゃんの両親は、僕の記憶にある姿とは似ても似つかぬ血と肉の塊へとなり果ててしまっていた。

 同時に、叶ちゃんの安否も分からない。

 夢衣からバケモノに連れ去られたと説明を受けたので、早く彼女を助けなければという焦燥感だけが肥大していく。


 けれども、あの恐ろしいバケモノから本当に叶ちゃんを助けることができるのか。

 そもそもどこへ向かえばいいのか。

 この時の僕はそれら様々な不安と恐怖が同時に押し寄せて来て、何も考えられない位にぐちゃぐちゃの気持ちになっていた。


 叶ちゃんがさらわれて、今まさに彼女の両親が受けたような仕打ちを受けているかもと考えると、気が狂いそうだったのだ。


 叶ちゃんの両親は残念ながら死んでいた。

 それは妹からもはっきりと告げられたし、なにより直接その死体を確認した僕が断言できる。


 叶ちゃんの両親は僕らもよくお世話になった恩人だ。

 僕らの両親は海外で働いているために、めったなことでは家に帰ってこない。

 だから昔からのよしみで、大人が必要な場面では常に助けてもらっていた。

 妹だって同様だし、食事に呼ばれた回数も数えきれないほどだ。


 今は彼らの死体すら存在しない。

 面倒ごとになったら嫌だからと、妹が"消滅"させたからだ。

 消えた死体がどこへ行くのかは分からないらしい。


 彼らはどうなったのだろうか?

 その遺体が、消した本人すら理解できない場所へと捨てられるのだとしたら、僕がお世話になったおじさんとおばさんの魂はどうなるのだろうか?


 夢衣は「きっと天国に行ったんだよ」と優しい声音で僕を慰めてくれた。


 本当はそんなこと欠片も思っていない。

 そのことを誰よりもよく理解していたから、僕にはその言葉がなによりも辛かった。

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