第一のページ

 夏の日だ。

 暑く、じめっとしていて、不快感が強い。

 さらには蝉の鳴き声が酷く煩い。

 こんな日は、あの恐ろしい日々を思い出して陰鬱いんうつとした気持ちになる。


 あの一連の事件を誰かに話すつもりはない。

 僕の身に起こった荒唐無稽こうとうむけいに思える出来事を相談するのは不可能に近いだろうから。

 だからこの手記を書くことによって、僕の気持ちに区切りをつけたい。


 僕の妹――夢衣ゆいは、ちょうど今日のように蒸し暑い日に死んだ。

 特別な理由もない、ただ普通の交通事故だ。

 運が悪かったと言えばそれまでだろう。


 発端はとある夏の日まで遡る。

 妹の命日は……いつだったか。なぜかはっきりとは思い出せない。

 でも恐らくその日がちょうど妹の一周忌だったのだろう。

 なぜなら、朝目覚めた僕を迎えたのは、


 他ならぬ死んだはずの妹だったからだ。


 妹は在りし日と同じように僕に微笑みかけ、そして同じ日常を過ごそうとしてきた。

 奇跡が起きたのか?

 そう問う僕に対して妹は一言だけ、「死んだ人間は生き返らないよ」と答えた。


 あの日の言葉が、ずっとずっと頭からこびりついて離れない。

 全てがあの日に始まり、今も続いているから……。

 僕の妹は死んだ。そして目の前にいる。



 ……僕の妹はバケモノだ。

 今日もあの頃のように眩しい笑顔を見せている。

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