迷惑メール

@Kosuke2410

第1話

「また迷惑メールだよ」

苦々しい顔でユウヤが言うと画面を僕に見せてきた。

件名には”吉田さんからのメッセージ”とかいてある。

とはいえその吉田さんが誰なのか見当もつかないそうだ。


「この間もきたんだけどさ、間違ってそのメールをあけちゃったんだ」

ユウヤが言った。


「そしたら内容は、たった一言、”マモル”って書いてあるんだよ。誰だよまもるって。俺ちげーし」

「しかも添付ファイルがあってさ、思わずそれを開いたら音声ファイルで、ノイズがひどくて何も聞こえないんだな。もよーく耳をすましていたら、荒い息遣いみたいのが聞こえて、マタアイタイとか言って、そんでそれっきり。な、こえーだろ?」


「何々、あえぎ声?」聞いていた皆がいっせいに笑った。

「ちげーって。もっとなんか苦しそうっつーか、死にそうっつーか、そんな感じ」


そのとき、ユウヤの話を聞きながら、僕の頭の中に蓋をしていた記憶があふれ出てきた。

頭の中に浮かんだのは、幼いころにどこかで拾った携帯電話だ。


週末、実家に帰った僕は昔しまいこんだ荷物を探してみた。

しばらく押入れをひっくり返していた僕は、とうとうその携帯電話を見つけ出した。

当時の記憶のまま、土とほこりにまみれたその携帯電話は電源をおしてみるがうんともすんとも言わない。

それも当然だろう、もう30年以上のあいだほってあったのだからバッテリーがとっくに死んでいるはずだ。

「たしかこの辺になかったかな、、、」

僕は押入れをさらに引っ掻き回して同じメーカーの充電器を見つけた。

コンセントに携帯電話をつなぎ、今ではあまり見かけなくなった折りたたみ式のフタを開いた僕は、ボタンを操作して保存された動画を呼び出した。



すぐに、真っ暗な画面から複数の若い男性の笑い声が聞こえてきた。

同時にシュウシュウという音が聞こえ、辺りが閃光に照らされた。

その花火に照らされて、ひげ面の男の顔が画面いっぱいに映し出される。

繰り返される光の点滅の中で、ひげの男が向けられる敵意から身を守るように体をちぢこませる。

画面の端には、石を投げつける男たちもいるのが見て取れた。同時に打ち上げ花火の破裂音がくりかえされる。


いつか見た光景にあらくなった呼吸を精一杯抑えながら、それでも僕は凄惨なリンチの光景から目をそらすことができなかった。

画面の中の男たちの笑い声がいっそう大きくなり、その合間にかすかにうめき声も聞こえる。


カメラのフラッシュがたかれたように、閃光は繰り返しひげ男の姿を浮かび上がらせる。

と、突然ひげ男がうなり声を上げながら、画面に向かって突進してきた。

命の危険を感じ、活路を求めて必死の反撃を試みたのだろう。

痛みと恐怖に、歯をむき出し、よだれと涙で顔中をぬらしながら逃げようとするひげ男を映し出した次の瞬間に風景がぐらりと大きく揺れ、そこで画面は真っ暗になってしまった。

おそらくひげ男の体当たりを受けた拍子に携帯電話を落としたのだろう。

それでもとぎれとぎれの音声だけはまだ聞こえてくる。

携帯電話は、男達の怒声と何かを殴るような鈍い音を拾い続ける。

どれくらい続いたのか、喧騒は遠くに響くサイレンの音でふつと途切れた。

「やべっ、いくぞっ!」「なにしてんだよ、ケンジっ!」「ケータイが。。。」

慌ただしく、走り去る足音と対照的に徐々に大きくなるサイレンの音。

そして、うめき声と、その合間にとぎれとぎれの声が聞こえた。

「、、、み、、き、ごめ、、なぁ、、、まも、、る」

そのか細い声を聞いた僕は、悲しみにつつまれた。

そして、携帯電話の電源を切ると、押入れの奥にしまいこみ、実家をあとにした。

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