第20話 カラフルな光の向こう側

「xo魔梨亜oxは、鈴木たちが塔に仕掛けた爆弾によって、死んだんだ」



 信じてもらえないと思いつつも、僕はox琉奈xoに言った。

 案の定彼女は、何言ってるんだこいつというような顔をする。

 しかし、本当のことなんだ。



「鈴木が、そんなことするわけないにゃ……! 鈴木は……、琉奈たちの味方にゃ……!」



 鈴木は何も言わなかった。


 やはり、鈴木は本当のことをox琉奈xoに教えていない。

 それが知られてしまっては、不都合だからだ。

 もう彼女を利用できなくなるから。


 そう考えると、腹が立ってくる。 



「僕はxo魔梨亜oxを倒していない」


「あたしも、瀬津那はxo魔梨亜oxを倒してないと思うけどな……?」



 僕に続いて、遥が言う。

 とは言うものの、遥は、xo魔梨亜oxの最期を見ていたわけじゃない。

 僕が自らの口でox琉奈xoに、この目で見たことを説明したいという気持ちになった。

 その方が、きっと、信じてもらえる。



「それは信じられないにゃ……。瀬津那がお姉ちゃんを倒していないという証拠はあるのにゃ?」



 ox琉奈xoは僕に魔法銃の照準を合わせていたが、それを一旦下に向ける。

 そして、片膝立ちの状態から、ゆっくりと立ち上がった。

 僕の方を見ながら前髪を整えている。



「証拠はない。僕とxo魔梨亜oxだけが知っている。でも、もうxo魔梨亜oxに聞くことはできない。他にそれを見ていた人もいないからね。そこで僕が見たことを今から話すよ。信じるか信じないかは任せる」


「鈴木はそこにいなかったのにゃ?」


「鈴木は、xo魔梨亜oxを残して逃げていたからね。その時」


「そ、そうなのにゃ? 鈴木?」



 鈴木は何も言わなかった。

 ポケットに手を突っ込み、ただ遠くを見つめている……ように見えた。

 サングラスだから、どこを見ているかがよく分からないのだ。



「鈴木と、卍地獄卍というやつと、xo魔梨亜oxの3人が塔に入り、僕らを倒すためにその塔に爆弾を仕掛けていたんだ。そこで僕らは彼ら3人と戦うことになって、まず卍地獄卍がやられた。それを見て、鈴木はさっさと逃げてしまったんだ。xo魔梨亜oxを置いてね」


「鈴木は……そんなこと……。お姉ちゃんを見捨てたってことにゃ?」


「その直後くらいから、みるみるうちに、塔が壊れていった。鈴木たちが仕掛けた爆弾によってね。僕らは何とか飛空艇に乗って脱出したんだけど、xo魔梨亜oxは塔の中に残されていた」


「何でお姉ちゃんは逃げようとしなかったにゃ……?」


「間に合わなかったんだ。僕らに投降するということも、考えていなかったと思う。xo魔梨亜oxの性格からして」


「で……でも……、まだ信じられないにゃ……」


「僕は最後、崩れゆく塔の中で、xo魔梨亜oxの姿を見た。そして、その時xo魔梨亜oxと、会話をかわした」


「それが本当なら……、教えて……ほしいにゃ……。お姉ちゃんの最期。何て言ってたのにゃ……?」


「xo魔梨亜oxは『元の世界に帰りたい気持ちは同じはずなのにどうしてあなた達は彩雨を守ろうとする?』って、まず言ったんだ」


「琉奈も、今、同じ気持ちにゃ……」


「その次に『鈴木に裏切られた今、どうしたらいいか分からない』って言っていた」



 ox琉奈xoは黙って僕の話を聞いていた。

 そこで、僕の話を遮るように、鈴木が口を開く。



「さっきから聞いていれば……。死人に口なしと言うが、瀬津那君の嘘には恐れ入るよ。あまり適当なことを言うものじゃないな」


「セツナ……。続けてほしいにゃ……」


「xo魔梨亜oxは崩れゆく塔の中で、最期の瞬間、こう言っていた。『元の世界に戻れる方法が見つかったら、魔梨亜にも教えてね!』って……。そう言って……ウインクしたんだ。それが僕との最後の会話だった。そこで塔は、……xo魔梨亜oxのいた場所は、完全に崩れていった」


「ウ……ウインク……にゃ……」



 ox琉奈xoは魔法銃を地面に落とし、その場にがっくりと両膝をついた。

 僕はその銃を持ったことがなかったが、その落ちた音によって、それがかなりの重さを持つものであることが分かった。


 彼女はただ、しくしくと泣いていた。



「お……お姉ちゃん……。お姉ちゃんは、親しい人と別れる時に、『またね』って意味を込めてウインクするのにゃ……」


「僕が見たのはそれだけだ。嘘は言っていないよ」


「お姉ちゃんは、最期、セツナを……信じたんだにゃ……」


「xo魔梨亜oxは鈴木に利用されていただけだ。自分がピンチになったらさっさと逃げてしまうような鈴木にね」


「お姉ちゃんは……もう……元の世界には戻れないのに……! 『魔梨亜にも教えてね!』って言ったにゃ……。もう戻れないことは自分でも分かっていたのに……」


「僕が見たことは以上だよ。悲しい気分にさせたなら申し訳ない」


「瀬津那君の言うことを信じるのか? xo魔梨亜oxは瀬津那君が殺し……」


「セツナの言ってることは……本当にゃ……」



 鈴木は顔をしかめる。

 ox琉奈xoは、涙をぬぐいながら魔法銃を拾った。

 その銃に、彼女の涙がこぼれ落ちていく。

 姉とお揃いの、その銃に。 



「お姉ちゃんなら……きっとそういうこと言うにゃ。琉奈には分かるにゃ。最期にセツナに見せたウインク……。それはお姉ちゃんにゃ……」



 そう言い、ox琉奈xoは魔法銃を鈴木に向けた。

 あの片膝立ちの構えをする間もなく。

 鈴木の眉がピクリと動いた。



「鈴木がお姉ちゃんを見殺しにしたにゃ!」



 ox琉奈xoがそのまま引き金を引こうとする。

 鈴木が彼女に何か言おうとした。

 その次の瞬間、クソ野郎先生の飛び蹴りがox琉奈xoに炸裂した。



 ドゴォォン!



「にゃ…………!!」



 ox琉奈xoは広場の端まで飛ばされていった。

 彼女はゴロゴロと転がっていき、広場を囲う柵に激突し、止まった。

 魔法銃は手に持ったまま。


 彼女は少し起き上がろうとするそぶりを見せるが、そのままうつ伏せに倒れて動かなくなってしまった。

 魔法銃だけはまだ、紫色に輝いている。


 ……何て酷いことをするんだ。



 アエイスが何やら詠唱し始める。

 今のを皮切りに、また戦闘が始まったようだ。

 何て無慈悲なやつらだ。



 絶対に倒してやる……!



 ……と意気込んだ僕だったが、早速動けなくなった。



「ま、また……スタンか……!」



 僕にまた、スタンがかかる。

 アエイスはまたしても僕に、スタンをかけてきたのだ。 

 何てしつこいやり方なんだ……!

 完全に僕を倒しにきている。


 クソ野郎先生が走ってくる。

 彼は斧を大きく振りかぶった。



「キェェエエエエ!! 死ネェー!!」



 あと一発は耐えられるか……?

 どうか……?

 くそ……!!



 ガキィィィン!!



「瀬津那は死なせない!」



 遥だ。


 遥が加速してここまで来てくれた。

 僕の目の前で思いっきりクソ野郎先生の攻撃を防御してくれたのだ。


 が、ダメージはくらっていないものの、クソ野郎先生の攻撃の勢いで、遥は僕の後ろの方へと軽く飛ばされた。



「うっ……! 瀬津那……!」



 遥はそう言い、何とか受け身を取って立ち上がる。

 遥……。



「邪魔者ガァ……! 今度こそ死ネェ……!」



 クソ野郎先生が叫ぶ。

 その時、僕のスタンが解除された。


 くそ……! 

 解ければこっちのものだ!

 よくも今まで散々やってくれたな!

 これでもくらえ……!


 クソ野郎先生に一発くらわせてやろうかと思ったその時、

 僕の身体は、また動かなくなる。


 またスタンかよ!


 僕のスタンが解除されるやいなや、アエイスがまたスタンを撃ってきたのだ。

 何てやり方だ……。



「甘いですわよ……」



 聞き慣れた声。

 今までもっと近くに感じていたその声。

 僕は声のする方を見る。


 アエイスと……目が合った。



「瀬津那ちゃん……」



 アエイスは何を思っているのだろう。

 彼女は僕から目を逸らした。


 アエイス……。

 もう、敵なんだ。

 こんな感覚は初めてだ。

 裏切られるということは、こんなにも悲しいことなのか。


 彩雨ちゃんの方を見てみると、鈴木と1対1になっている。

 鈴木は彩雨ちゃんと、かなり距離をとっていた。

 鈴木が、あのマスケット銃を警戒しているのだ。

 あまりに至近距離に行けば、あれに当たってしまう。

 それに彩雨ちゃんは回避上限突破がある。

 鈴木は慎重に出方をうかがっていた。


 彩雨ちゃんが時間を稼いでくれている間に、僕は他のやつを倒さなければならない。



「キェェエエエエエエ!!!!」



 クソ野郎先生の大きい斧が振り下ろされる。

 本当に、卍地獄卍とタイプが似ているな……と思う。

 いや、そんなことは言っていられない。

 僕は今スタン状態だ。

 割とまずい。


 ほんのわずかに動く身体で何とか、できる限り防御を……。



 ドゴォォォォン!!



「てめぇっ!」



 遥がまたしても攻撃を止めてくれた。

 ありがとう……。


 遥はそのまま反撃に転じる。

 クソ野郎先生はそれを斧で受けた。



 ガキィン!


 キィン!



 だがお互い、あまりダメージが通らなさそうだ。

 遥は防御が上限突破している。

 クソ野郎先生は、見た感じなかなか防御力がある。

 それにアエイスの補助魔法もかかっているから、なおさら防御力は上がっているのだ。 


 遥とクソ野郎先生の一騎打ち状態は続く。



 キィィィン!



 ガキィィィン!



 キィン!



 鎧と剣と斧がぶつかり合う音がする。

 僕は何もすることができない。

 クソ……。

 スタンめ。



「遥……。もう少しだけ粘ってくれ……! スタンが解ければ……!」



 スタンは時間的に、もうすぐ解除される。

 しかし解除されても、またすぐにアエイスのスタンが来るだろう。

 アエイスのスタンに当たらないようにするためには、アエイスとの距離を取る必要がある。

 単純に、距離が遠ければスタンは当たらない。

 スタンが解除された瞬間にアエイスからかなりの速度で離れることができれば……。


 ……その時、僕のスタンが解除された。



 今だ!



 僕はアエイスのいない方向へと猛ダッシュをかける。



「嘘だろ……」



 思わず声が漏れた。

 それと同時に、僕の体はまたしても動かなくなる。

 スタンがかかったのだ。


 いきなり身体が硬直し、僕は転んでしまった。

 情けない。

 何でこんなにスタン対策を怠ったんだ僕は。


 ここまでスタンに弱いなんて自分でも知らなかった。

 アエイス……アエイスは知っていたんだもんな……。

 僕の弱い部分を。

 本当に僕のことをよく知っているよ。

 アエイスと共に過ごした日々が、全て、僕を今不利にさせているんだ。


 そしてアエイスは、僕だけじゃなく、僕の仲間の情報も集めていたわけだ。

 この戦いのために。

 考えれば考えるほど、悲しみが募る。


 僕は初めて負けるかもしれない。

 こうなる運命だったのかもしれないな。


 僕が少し離れた分、アエイスも僕の方に近づいてくるのが見えた。

 アエイスのMPは無尽蔵。

 このまま僕がスタンをかけ続けられて、動けなくされたまま、じわじわと味方が苦しめられ、徐々に削られていき、最終的に僕らは負ける未来なのか。


 アエイスを敵にまわすとこんなにも……厳しい戦いになることを知った。

 本当に……、力だけじゃダメなんだな。



「瀬津那! す、すまん!」



 目の前で遥がクソ野郎先生に弾き飛ばされた。

 何てパワーだ。

 またしても遥が地面を転がる。

 転がった勢いでそのまま立ち上がったと思いきや、ゆっくりと倒れた。


 遥はこんなにも、僕に身体を張ってくれてる。

 それに比べて僕の不甲斐なさは何なんだ。



「キェエエエエエエ!!!!」



 クソ野郎先生は、先ほどと同じ叫び声をあげる。

 僕を威嚇しているのだろう。

 クソ野郎先生は僕の方へ、素早い動きで向かってくる。

 図体がでかいのに素早さもあるのだ。


 来るぞ。

 思いっきり来るぞ。

 そして、僕のスタンはもうすぐ解除されそうだ。


 スタン解除が先か……?

 それともこいつが先か……?


 アエイスは、待ち構えている。

 僕のスタンが切れるタイミングを。

 その瞬間にまたスタンをかけるんだ。



「瀬津那ーっ!」



 遥が、倒れた状態から、上体だけを起こして叫んだ。

 スタン解除か、僕か……!



 スタンが解除された!



「にゃぁぁぁぁぁああああああ!!!!」



 その時、カラフルな光線がアエイスに向かって発射されるのが見えた。



 ox琉奈xoの魔法銃だ……!



 アエイスは一瞬苦しそうな表情を見せ、後ろに何歩か下がる。

 そして瞬時にリフレクターを張った。



「甘いですわよ!」



 アエイスが叫んだ。



 ビシィィィィィィィィ!!



 アエイスの張ったリフレクターに光線が当たる音が、広場にこだまする。

 同時に、暗い広場が七色に照らされた。


 距離もあるが、あの魔法銃が撃たれてからリフレクターを張れるなんて人間技じゃない。

 詠唱スピードと……経験と……。

 どれだけこのゲームをやりこんだんだ。

 しかも一度ではなく、さっきもこれを成功させている。


 カラフルな光線銃はリフレクターによって跳ね返された。

 跳ね返された光線は、ox琉奈xoのいる方へと向かっていく。



「……にゃ、にゃぁ……」



 ズガァァァァァン!!!!



 ox琉奈xoの小さな声が聞こえ、続いて爆発音が響く。

 光線は、ox琉奈xoの背後にあった家のど真ん中に命中した。



 ガラガラガラガラ!!!!



 その家は大きな音を立てて崩れていく。

 逃げる体力のないox琉奈xoは、壊れゆく家の下敷きになった。


 ox琉奈xo……!

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