第17話 一撃必殺アビリティ「即死」

 狭い路地から、xo魔梨亜oxによく似た女の子が現れる。

 髪や顔つきがソックリだ。

 あと、持っている魔法銃も似ている。

 背丈までもも同じくらいだ。


 だが、着ている服は少し違った。

 彼女は、ゴシックロリータファッションというのだろうか、人形のような白と黒のフリフリのドレスを着ている。

 そしてその少し膨らんだ短いスカートからは細い脚が伸びていた。

 特筆すべきは、頭についているネコ耳である。

 その女の子は言う。



「……その中にアヤメがいるにゃ? あれ、女の子が2人……。アヤメはどっちにゃ……」



 その女の子は前髪を気にしながら喋っている。


 どうやら、敵のようだ。

 語尾もなかなかヤバい。

 キャラ作りが徹底しているのか、素なのか。



「男の方はセツナにゃ?」


「……僕が瀬津那だけど、何か用ですか?」


「ついさっき、お姉ちゃんがあなた達に殺されたにゃ……」



 お姉ちゃん……?

 まさか。



「xo魔梨亜oxのことか?」



 遥が顔をしかめながら言う。

 同時に、左右の腰についている鞘に手をかける。


 そのネコの女の子は、今すぐに撃ってくるというわけではなさそうだった。 



「そうにゃ。お姉ちゃんの、かたきを討つために来たのにゃ」


「お前、ox琉奈xoって名前だろ? あたし、聞いたことあるぞ」


「そう、琉奈だにゃ。お姉ちゃんは、元の世界に帰ろうとして、アヤメを倒そうとしたにゃ。でもセツナに殺されたって聞いたにゃ。許せないにゃ」


「僕が殺したわけじゃない」


「嘘にゃ。琉奈が怖いからそういうこと言うにゃ?」


「僕じゃない。鈴木がやったんだ。勝手に爆弾を仕掛けて……」


「……スズキがやるわけないにゃ……。スズキは琉奈たちの味方にゃ」


「鈴木に『瀬津那ってやつに姉が殺された』って聞いて、瀬津那ってやつと、ついでに姉が倒そうとした彩雨ちゃんを倒しにきたっていうことね」


「そうにゃ。かたき討ちにゃ。ところで、アヤメはどっちにゃ?」


「彩雨は、わたしです」



 彩雨ちゃんが手を挙げた。

 ちょ、ちょっと、何してるんだ。

 僕は青ざめる。



「彩雨ちゃん……」


「誰かがわたしと間違えられて倒されちゃったら、わたし責任取れない。瀬津那くんがくれた回避の腕輪もあるし、大丈夫だから」


「琉奈の魔法銃は、強力にゃ。お姉ちゃんと全く同じ銃にゃ。 ほら、もう怖くなってきたにゃ?」



 あれと同じだと自分から言ってくれた。

 あの魔法銃はチャージが必要なものだ。

 だから、味方一人の時は厳しいだろう。



「5,6人いるって聞いてきたんだけどにゃ、……もう3人に減っちゃったのかにゃ? お姉ちゃんを見くびるからこういうことになるにゃ……。あとの3人は琉奈が殺してあげるにゃ。お姉ちゃんの、かたきにゃ……」



 よく喋るネコである。

 そう言うとox琉奈xoは、民家の屋根の上に跳び乗った。

 それには流石に驚いた。

 まぁ恐らく、ジャンプ力が上がる靴を装備しているんだろうけど。


 

「お姉ちゃんを……殺した罪は重いにゃ……!」



 ox琉奈xoは真剣なトーンでそう言い、屋根の上で片膝をついて魔法銃を構える。

 そして前髪を整えた。


 その魔法銃は姉と同じように、紫色の光を帯びている。 

 彼女の長く赤い髪がサラサラと揺れた。


 彼女が屋根の上で片膝をついていることで、その細い脚がよく見える。

 下からのアングルは、絶景と言えるだろう。

 特に、僕のいる位置は完璧だった。



「瀬津那、何ボーっとしてんだよ! はやく彩雨を守れ!」



 遥がブチギレた。 



 バゴォォォォォン!!!!



 ox琉奈xoの魔法銃から発射されたカラフルな光線で、雑貨屋の入り口が完全に破壊された。

 確かに、あれはxo魔梨亜oxと同じ銃だ。



「ちょ、ちょっと、またこういう感じ?」



 それを余裕でかわしながら、彩雨ちゃんは言う。


 遠距離射撃型のプレイヤーが一人で来るとは、なかなかの根性である。

 ああいうスタイルの戦い方は、パーティーの中でこそ役に立つものだからだ。

 姉のかたきを討ちたい一心でここまで来てしまったのだろう。


 彩雨ちゃんがマスケット銃に弾をこめる。



「な、何、生意気にゃ! アヤメの銃よりも琉奈の銃の方が強いにゃ!」



 明らかにox琉奈xoがビビっている。

 同じ銃使いとして、このマスケット銃がヤバいものだということが分かったのかもしれない。

 超改造によって、見た目もどこか妖しげになっているから。



「彩雨ちゃん、ちょっと一発撃ってみて」


「南のダンジョンだっけ? そこで撃ったの以来かも……いけるかな?」


「流石に僕らには当たらないでしょ……」



 そう言いつつ怖くなったので、僕は彩雨ちゃんの後ろに下がった。

 続いて遥も下がる。

 彩雨ちゃんがマスケット銃を構えた。



 バァァァァァァン!!



 構えるや否や、彩雨ちゃんはいきなり発砲。

 初めて近くでこの銃声を聞いたが、かなりヤバい。


 撃った反動で彩雨ちゃんは後ろに下がる。

 彼女のスカートがはためいた。


 ox琉奈xoが立っている屋根の近くの、樹齢何百年か分からない大木にその弾は当たる。

 そして、その木はゆっくりと倒れていった。



 ズシィィィィィン!!!!



「え? え? ちょっと? こんなことってある?」



 ox琉奈xoは驚きすぎたのか、語尾から「にゃ」がなくなっていた。

 やっぱりあの銃は危険だ。

 人から語尾さえも奪う。



「今のは威嚇射撃だ。次は本気で狙うからな!」



 遥がox琉奈xoのことを指差し、言った。

 本気で狙っても当たるかどうかは分からないが、脅しには十分だろう。

 ox琉奈xoは、二、三歩後ずさりした。



「え? あ、そうにゃ? る、琉奈もさっきのは威嚇射撃にゃ! そっちが本気で撃つつもりならこっちも本気で撃つにゃ! この銃、『即死』のアビリティ付きなんだにゃ?」



 即死のアビリティ……?


 なかなか珍しいやつだ。

 そのアビリティがついた銃を作るためには、相当な廃人じゃないと手に入らないアイテムが必要なのだ。



「結構頑張ったんだな、お前」



 遥がox琉奈xoに言った。

 きっと彼女も苦労したんだなと思う。

 それであんな喋り方になってしまったのかもしれない。 



「お姉ちゃんが作ってくれたんだにゃ! お姉ちゃんとお揃いのやつをにゃ! だからこの銃を見るとお姉ちゃんを思い出すにゃ……」



 お姉ちゃんと同じ……か……。

 僕らだってそのお姉ちゃんに、銀座さんがやられてるんだ。

 その銃で……。



「『即死』アビリティは当たったらもちろん即死だけどにゃ……、ちょっとかすっただけでも即死なんだにゃ! ビビったにゃ?」



 かすっただけ……?

 死……?

 待てよ。

 僕の思ったことが正しければ……。


 僕はox琉奈xoにあることを聞いてみることにした。



「『即死』アビリティがついていた場合、HPに関係なく『死』っていう状態になるんだよね?」


「……ん? そうにゃ……。ビビったかにゃ?」


「そうだ、僕は今、とても怖い。それが当たってしまったら一体どういうことになってしまうのか……。一体『即死』とはどんなアビリティなんだ?」


「HPが3万あろうが10万あろうが100万あろうが、死ぬにゃ。この銃をくらった場合、魔法ダメージ+『即死』という状態になるにゃ」


「銃による魔法ダメージに、加えて『即死』アビリティが発動するということなのか……!」


「魔法ダメージだけで死んでしまう場合ももちろんあるにゃ。逆に、魔法ダメージが少ししか入らなくても、その後に『即死』アビリティが効いてきて死ぬのにゃ。当たれば死ぬということにゃ。死からは逃げられないにゃ」


「丁寧なご回答、どうも」


「琉奈は『即死』アビリティについてはめっちゃ詳しいにゃ。ちゃんと勉強したにゃ……」



 銀座さんは、あの銃から放たれたものがかすった。

 その時銀座さんが喰らったものは、魔法ダメージ+「即死」のはずである。

 しかし銀座さんのHPは1残っていた。

 なぜか「死」状態になっていなかった。


 魔法ダメージによってたまたまHPが1まで減ってしまったところまでは分かる。

 しかしそのあと「即死」のアビリティが効くはずなんだ。

 でもなぜか銀座さんは生きていた。

 何らかの原因で「即死」アビリティが上手く効かなかったことで、半端な状態が持続してしまっているのか。



 ピコーン!



 魔法銃のチャージ完了音だ。

 彼女の魔法銃が紫色の光に包まれる。



「今度こそ、死ぬにゃ!」



 屋根の上で、片膝をつく射撃体勢に入った。

 炎のようにゆらめく紫色の光と、揺れる彼女の赤い髪が綺麗に混ざり、それは神々しい光景となる。


 狙いは彩雨ちゃんだろう。

 あの程度、あの距離ならほぼ確定で回避できる。



 ズゴォォォォォォン!!



 彩雨ちゃんの回避によって、それは遠くの家に当たった。

 僕らがいた宿屋の近くだ。

 この騒ぎで、うっかり銀座さんが目覚めたりしないだろうか。



「何で外れるにゃ? あんなにお姉ちゃんと練習したのに……。目の前にかたきがいるのにどうしてにゃ……。どうして当たらないにゃ……」



 ox琉奈xoは少し涙ぐむ。

 そして、がっくりとうなだれた。

 風を受けて、その膨らんだスカートが揺れている。



「だからあたしたちは、あんたの姉を殺してないっての……」


「うるさいにゃ! 琉奈の気持ちも分からないでにゃ!」



「何があったんですの!?」



 アエイスの声。

 この騒ぎで、アエイスが走ってこっちにやってくる。

 これだけうるさくしていれば、来てもおかしくない。



「僕らは今あの屋根の上にいる刺客と戦っているところなんだけど、そいつの魔法銃が外れて近隣の家屋を破壊してるところだよ」


「そ、そうでしたの……」


「何か銀座さんに変化はあった?」


「銀座ちゃんは……、どんな状態異常を回復させる魔法を使っても無理でしたわよ。毒、眠り、スタン……。色々試してみたのですが」


「さっき、あの屋根の上にいるやつから、僕らにとって重要かもしれない情報を聞いたんだ。あの魔法銃に当たると、魔法ダメージに加えて『即死』と呼ばれる状態異常がつくらしい」


「つまりどういうことです?」


「銀座さんはちょうどHPが1になる魔法ダメージをくらった後に、『即死』状態になったんだけど、あまりにもその魔法の弾丸というかビームに軽くかすったために、半端な『即死』状態になってしまったんじゃないかって思うんだ」


「ではもう銀座ちゃんは死んでいると……?」


「でも死んでいない。ゲームのバグでかは分からないけど、ゲーム的にHP0ではないけれども半分死んでしまった状態みたいになってるんじゃないかなって。言うなれば『仮死』状態になってしまってるんじゃないか、と」


「瀬津那ちゃんの言ってることがよく分からないですわ……。つまりどうすればよいということです?」


「リザレクションを使ってみたらということなんだ。僕はその『仮死』状態がこのゲームにあるかどうかは知らないけど……。偶然生まれてしまった状態かもしれない。でも僕はその『仮死』状態みたいな気がするんだ。一回、銀座さんに死者蘇生の魔法を使ってみてほしいと思う」


「……それは私もまだ使ってませんでしたわ。でも、死んでいない者にリザレクションかけてしまったらどうなってしまうか……、分からないですわよ。そのあたりのこともあってまだ試していなかったですけれども……」


「このゲームにおける死は非常に重いものだからね……。その辺ミスって銀座さんが帰らぬ人になってしまったらとも思うけど……。でも恐らく大丈夫だ。根拠はないけど……、でもそんな気がする」


「元々もう、なす術もないですし……。分かりましたわ。銀座ちゃんにそれを……」



 ピコーン!!



 魔法銃のチャージ完了音。



「ごちゃごちゃうるさいにゃ、まとめてくらうにゃー!!」



 僕らのいるちょうど真ん中あたりに向けて、魔法銃が放たれる。

 そのあたりに、アエイスが片手をかざす。


 リフレクターだ。

 アエイスの手からバリアのようなものが出て、僕らを守った。



 ビシィィィィィ!!



 その衝撃は全て、ox琉奈xoの方に跳ね返っていった。



「は、速いにゃ!! 撃ってからリフレクター……間に合うものじゃ…………」



ドゴォォォォォォォォン!!



 光線は跳ね返り、ox琉奈xoのいた屋根に直撃する。

 屋根は完全に破壊された。

 足場を失ったox琉奈xoが、悲鳴と共に家の中に落ちる音が聞こえる。


 そして、辺りは急に静かになった。



「では瀬津那ちゃんが言っていたのを、銀座さんに試してみますわね」


「うん、頼むよ」



 僕はそう言って、アエイスの後に続いて宿屋へと向かう。

 遥と、彩雨ちゃんもそれに続いた。



 僕らが宿屋に着くと、銀座さんが仰向けで寝ている横に、ロックさんがうつ伏せになって床に寝ていた。



「カウボーイは、花魁がこんな状態だってのに何呑気に寝てんだ? しかもこんな床で……」


「まぁまぁ遥ちゃん……。疲れて寝てしまっていたのですわよ。ずっと銀座ちゃんにつきっきりでしたから……」


「アエイス、じゃあ僕が言った通り、頼むよ」


「リザレクションですわね……」



 アエイスの杖の先端と、それを持つ両手が青く光る。

 彼女の髪も広がっていく。

 室内だと、一層それは明るく見えた。



「今、かけましたわ。もし効くのだとすると、数分で効いてきますわ……」


「銀座さん……」



 彩雨ちゃんが祈るようなポーズをする。

 そんな中、僕は気になることが一つあった。

 ロックさんが、銀座さんに足を向ける形で、うつ伏せに寝ていることだ。

 なぜ身体の向きが、銀座さんの方を向いていない……?

 あれだけ銀座さんのことを思っている人だ。

 うっかり寝てしまったにしては、何だか違和感がある。


 さらに、こんなうつ伏せの格好で眠ることなんてあるのか。

 ここは普通の床だし……。


 ……僕は考えすぎなのだろうか?

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