第14話 再会
「瀬津那ちゃん、あれですわよ。あのカギを使って、その、今左に見える大きな鉄扉を開けるのですわ」
「あの鉄扉の先に、飛空艇が……?」
「もっと詳しく言えば、あの扉を開けると階段があるのですわよ。この丸い塔の外壁に沿って……。それを使って屋上まで行けるのですわ。私が以前来た時の記憶だと、その階段に手すりなどはないので、うっかりしていたら下まで落ちてしまいますわよ」
「ちょっと待って。ボスよりそこの方が難しいじゃん。僕高いところ本当にダメなんだけど……」
「ウチも……。何よりこの着物だと、階段、辛いところですワ」
「そんなの、俺がおぶってやるぜ? 高い所は、俺、好きなんだ。銀座、お前さんをおぶって高いところを歩くために、俺は生まれてきたようなものだからな」
「アンタ……」
また何か変なのが始まった。
その時、僕らから見て正面の扉が開いた。
もし普通に登ってきていたらそこから登場するはずだった扉だ。
扉から出てきたのは、三人。
たまたま登ってきたプレイヤーだろうか。
一人、やけに赤い服装のやつがいるが……。
鈴木だ。
鈴木がいる。
運営に消されたはずではなかったのか。
鈴木の他には……、知っているやつが二人。
卍地獄卍 と、xo魔梨亜ox だ。
ただならぬ雰囲気を醸し出している。
「瀬津那、あれ、鈴木だよな……? あとの二人も見たことあるぞ。有名なプレイヤーだ……」
遥がストールをいじりながら、言う。
その3人は、鈴木を真ん中にして、1人ずつ左右に等間隔に広がる。
これは、戦闘の陣形。
事態は、思っていたよりも深刻そうだ。
真ん中にいる鈴木は、相変わらず真っ赤な袴・真っ赤な羽織に身を包み、日本刀を携えていた。
帯が黒いことで、そこがアクセントになっている。
銀髪で逆立った髪。
黒いサングラス。
相変わらずこれ以上なく目立つスタイルだ。
一見動きづらそうだが、僕や遥をも超える加速ツールを持っている。
そして対人戦に特化したステータス、武器を徹底しているのだ。
向かって右にいるのは、「 xo魔梨亜ox 」だ。
紺のブレザーに灰色のプリーツスカートにニーハイ。
赤く長い髪が目立つ。
かなり大きい紫色の光を纏った魔法銃を両手に抱えて持っている。
オデッセイ・バトルであの銃を使うxo魔梨亜oxを見たことがあるが、魔法攻撃力・命中共に異様に高かった。
バグ使用かは知らないが、かなりの腕前だ。
そして可愛らしい顔をしている。
しかしナルシスト傾向があり、よく痛い発言をしているので、その意味で有名人になっていた。
魔法銃を使うに至った理由も、片目で照準を合わせる時にウインクをする自分が可愛いからという理由であると聞いている。
向かって左にいるのが、「 卍地獄卍 」だ。
あれはとにかく対人戦が好きなプレイヤーで、黒い特攻服を着ている。
武器は長い槍だ。
身長が190くらいあることもあり、攻撃範囲はなかなか広い。
痩せ形で、鈴木と同じくサングラスをかけている。
パッと見、キャラが少し被っているかもしれない。
卍地獄卍は対人戦ができればどこへでも行くといった性格であり、多分何らかの理由で鈴木に雇われたものだと思われる。
こいつは僕が悪夢のナイトメアにいたころ、同じくそのギルドにいたやつだ。
これも危険人物だ。
いきなり、鈴木が日本刀を抜く。
「瀬津那君、久しぶりだね。鈴木だ」
鈴木が口を開いた。
何年振りの会話だろうか。
このゲーム始まって何年も経っていないが。
大広間に緊迫感が走る。
僕らの方も戦闘の陣形をとる。
僕らの場合は、特に陣形の打ち合わせをしていなかったが、何となく、アエイスと彩雨ちゃんが後ろに下がり、その他の人間でそれを囲むような陣形をとった。
一番前の真ん中には、僕がいる。
鈴木たち3人は、大広間の真ん中に向かって歩いてきた。
僕らはエレベーター寄りのところに立っている。
「久しぶり、鈴木。……鈴木は、運営に消されたんじゃなかったの?」
「……運営に……? 何だい、それは」
「鈴木が加速ツールをオデッセイ・バトル中に使って、僕は鈴木がアカウント停止になったとばかり思っていたんだよ。オデッセイ・バトルから急に消えたからね」
「あぁ、それか。瀬津那君。それは君の考えすぎだ。確かに俺は例のオデッセイ・バトルの時、あそこから飛ばされてしまった。ただ、あれはアカウント停止じゃない。加速ツールを使っていたら、あの時の強烈なバグによって座標がおかしくなって、俺だけ全然違う街にいきなり飛ばされていたんだ」
「そういうことだったのか……。あの日から、全てが変わってしまったよね。僕も増殖バグが使えなくなったんだ」
「あのオデッセイ・バトルの途中、謎のメンテをやっていたらしいね。そのメンテ中に、俺の加速ツールを起動させていたら、完全にバグってしまったんだ。気が付いたら全然知らないところにいた。そのまま意味不明な座標の狭間に閉じ込められて出られないなんてことにならず、たまたま良い所に飛ばされて、今こうして生きていて良かったと思う」
「それは鈴木、災難だったね。鈴木が今までどうなっていたか、というのは分かったよ。でも、なぜ鈴木は今僕らを倒そうとしているのか、それを教えてくれないか」
ピコン!
xo魔梨亜oxの魔法銃のチャージが終わった音が大広間にこだまする。
あれは撃つたびにチャージしなければならない銃。
しかしあれに当たれば、僕以外なら多分即死するレベルのパワーを持っている。
僕に当たったとしても結構危ないやつだ。
「瀬津那君。君のパーティーに、彩雨という人間がいるだろう?」
答えるのに一瞬ためらった。
が、その鈴木の言い方からして、もうバレているようだ。
……しょうがない。
「僕のパーティーにいるよ」
「その後ろにいる、黒髪の女の子だろう? 知っている」
知ってるなら聞くなよ……。
そもそも、何で知っているんだ。
ストーカーなのか。
「その、彩雨ちゃんがどうしたって言うんだ?」
「……瀬津那君、この世界がおかしくなった原因を聞きたくないか?」
「それは、聞きたいけど……。でも鈴木、今それが関係あるのか?」
「この世界がおかしくなった原因は、その、彩雨にあるんだ」
……何だって。
僕は彩雨ちゃんの方を見た。
彩雨ちゃんと目が合う。
彼女はいつになく真剣な眼差しを僕の方へと向けていた。
「鈴木、適当なことを言うのはやめてくれ。何がどうなって、彩雨ちゃんのせいになる? 初心者である彩雨ちゃんがこの世界をどうやって変えたんだ……」
「彩雨がこの世界にログインした瞬間、彩雨周辺の空間がおかしくなっていなかったか? そこからこの世界は壊れていったんだ。瀬津那君はそれを見ていただろう?」
……なぜだ。
鈴木はなぜそれを知っている。
確かに彩雨ちゃんがこの世界にログインし、その後にこの世界はおかしくなった。
……言われて見ればそうだ。
空間だとかも歪んでいたように記憶している。
何より、彩雨ちゃんは変な場所から出てきていた。
「鈴木、なぜそれを知っている?」
「今は言えないが、瀬津那君。そういうわけで、彩雨を倒さなければならないんだ。君は彼女のことを好きかもしれないがね。しょうがないことなんだ」
なぜここまで僕と彩雨ちゃんの状況を知っているんだ……?
まるで僕らと一緒にここまで来たかのような口ぶりだ。
やっぱりストーカーなのか……。
「だから、なぜ彩雨ちゃんを倒さなければならないんだって聞いてるんだよ! もし、仮に鈴木の言う通り、彩雨ちゃんが来たことによってこの世界が変わったとしても、彩雨ちゃんを倒す理由にはならないだろ。彩雨ちゃんを倒してこの世界が元に戻ると、なぜそう言いきれる?」
「いずれ分かる。瀬津那君もいずれ事実を知る時が来る……」
xo魔梨亜oxが片膝をつき、魔法銃を構えて僕にウィンクする。
つまり、僕へと照準を合わせたということだ。
彼女の長く赤い髪が、サラサラと揺れる。
まずい!!
ズゴォォォン!!
轟音と共に七色の光が魔法銃から放たれる。
僕が気づく方が一瞬速かった。
前回り受け身のような形で、横に転がり間一髪で避ける。
違う。
これは僕を狙ったんじゃない。
後ろにいる彩雨ちゃんだ!
バゴォォォォォン!!
その魔法銃から放たれた光はエレベーター付近に直撃し、小爆発を起こす。
xo魔梨亜oxは正確な射撃で有名である。
彼女は、今の射撃で乱れてしまった前髪を整えていた。
が、エレベーターから少し離れた位置に彩雨ちゃんは立っていた。
「ちょっと……。いきなり何なの、あの人……?」
しかも彩雨ちゃんは普通のコメントをしている。
どうやってかわしたんだ……?
とにかく無事で良かった……。
「彩雨ちゃん……! 大丈夫……?」
「うん……。何か、向かってくる光が見えて、身体が勝手に動いた!」
「魔法銃を目視でかわした……? そうか、忘れてたけど、僕の回避上限突破の腕輪をつけていたんだ……!」
危なかった。
あの回避の腕輪は伊達じゃない。
それを見ていたxo魔梨亜oxが叫ぶ。
「ちょっとちょっと~!? 何で何で!? 何で今のが外れたの!? 信じらんない……!!」
当たり前だ。
信じられないパラメーター上昇値を持つ装備なのだから。
チートは人を救うのだ。
「xo魔梨亜ox、勝手に撃つな。まだ話は終わってないんだぞ」
鈴木は、xo魔梨亜oxを制した。
彼女はそれを受け、銃を下ろして立ち上がる。
前髪をやけに気にしながら。
「だって……だって……」
「おい! 鈴木! まだこいつら殺しちゃダメなのか? はやく殺してえ! ヒヒヒ!」
卍地獄卍が叫ぶ。
そして槍をブンブン振りまわした。
ブンブンという音がここまで聞こえてくる。
本格的にヤバそうなパーティーだ。
「瀬津那君。勝手に撃ってすまなかった。もしおとなしく彩雨をこっちに引き渡してくれるなら、穏便に済まそう。君は、人が死ぬのを見たくないね? 君はそういう性格だ。引き渡してくれないのならば、実力行使しかない」
「すまなかった、じゃない。こうやって話している時にいきなり撃つのは卑怯だろ。……最も、生半可な攻撃じゃ僕らは倒せないけどね。もし彩雨ちゃんを引き渡したとしても、鈴木が結局、彩雨ちゃんを倒すということだろ? そうなることが分かっていて引き渡すのはアホだろう」
「アホはお前だろ! もうすぐ死ぬのも知らないで……! ヒヒヒ!」
卍地獄卍が横から口を挟んでくる。
何なんだお前は……。
卍地獄卍は続ける。
「俺達は、下から一階ずつ上がってくる間に、全ての階に爆弾を仕掛けてきたんだ! このボタンを押して数分後、爆発するんだ! ヒヒヒ!」
卍地獄卍は爆弾のスイッチを高く掲げる。
物騒なやつだ。
そして、何と、彼はいきなりそのスイッチを押した。
「おい、お前、それをなぜ今言う必要がある! そしてなぜ今押すんだ!」
焦り出す鈴木。
全然仲間同士の意思疎通が取れていないだろ、そのパーティー。
……って、爆弾?
どういうことだ。
「まぁいい。瀬津那君たちに教えてやろう。そこにいた何とかケンタウロスとかいうボスは、俺達が倒すはずだったんだ。君達よりも早くここに来て、先にボスを倒しておいて、ここで君達を迎え撃つつもりだったんだ。しかし、まさかこんなに早くここに来るとは……。エレベーターがまだ生きていたとは、誤算だった」
鈴木の方に颯爽と歩いていく遥。
赤茶色のストールをなびかせている。
彼女は言った。
「先にここに来ておいて、飛空艇をスタンバイさせておいて、この大広間で私らを倒そうとしたわけだな。しかし相手は瀬津那。もしかしたら倒せないかもしれない。ピンチになった時、その爆弾を起動させて、自分らは飛空艇で逃げようと、そう思ったわけだな、鈴木」
「遥君、久しぶりだね。また君と会えるとは。……悔しいが、その通りだ。どちらにせよ、俺達はここで勝つつもりだ。そこのバカが爆弾を起動させた。タイムリミットは5分だ。一階から順に壊れていく」
タイムリミットは5分。
僕らは、どうしたらいいのだろうか?
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