第11話 想定外のザコモンスター

 急に現れたロックさんと銀座さん。

 彼らの出現により、僕らのいる家は一気にやかましくなる。



「ウチ、銀座と言いますワ。怪しい者じゃないですノ。そこのロックは……、ウチの相方みたいなモンですワ」



 銀座さんは、立ったまま話し始めた。

 立ち姿が美しい。

 とても姿勢が良いのだ。

 喋り方は変だけど……。



「……銀座……?」



 遥は銀座さんを凝視する。

 彩雨ちゃんも銀座さんを凝視していた。

 僕も銀座さんを凝視してみる。



「ハルカちゃんですわネ。久しぶりですワ」



「あ、あの銀座……? 昔はもっと地味じゃなかったか? ……何でこんなに派手な花魁になってんだ? 久しぶりすぎて気づかなかったぞ……。」


「色々あったんですワ」


「まぁ、……どうでもいいけど」


「ハルカちゃんは何も変わらずですネ」



 銀座さんのそのいかつい着物は、だいぶ動きにくそうだ。

 そして、遥とは知り合いのようだった。

 じゃあそこまで怪しい人ではないのかもしれない。



「……実際、久しぶりに会ったところで、積もる話も全くないし、用が済んだら帰ってくれよ。あたしらだって暇じゃないんだからな?」


「遥。これも何かの縁だよ。僕はこの人達は悪い人達だとは思えないし、このゲームからログアウトしたいという気持ちも一緒なんだ」


「瀬津那はこいつらと一緒に、これからクエストとかこなしていくつもりなのか……?」


「うん……。何か話してるうちに、僕は親近感が沸いてきたよ。なぜか」


「瀬津那、よく見てみろ……。カウボーイに花魁……。どう見たって怪しいだろ……?」



 確かに怪しい……。



「そうだけど……。でも放っておいたらまた何かに追いかけられてやられちゃうかもしれないんだよ。すごく狙われそうな人たちだよ。これは」


「瀬津那、こいつらは好きでこういう格好をしてるんだ。何かあってもしょうがない」


「ロックさんたちだって、僕らといた方が安心すると思うし、僕らも、味方は多い方がいいんじゃないかって……」


「……瀬津那の言う通りなんだよな、実際。世界がこんなになってしまった以上、確かに味方は多い方がいい。でも何だかな……。二人とも気に入らないんだよな……。そもそもこいつらは、戦力にならない」


「そ、それは……。そ、それなりには……。僕は、やってくれると思うよ……」



 僕はロックさんと銀座さんがモンスターなどに倒されてしまうのは嫌だった。

 彼らを放っておいたら多分そうなってしまうと思う。

 もしここで別れたら、心残りになってしまうような気がした。

 助けられるものなら、助けたい。

 また、彼らがいることで、何らかの元の世界に帰れるヒントが得られるかもしれない。

 それに、僕がいれば大丈夫だろう。



 バタン!



 今度は玄関のドアを開け、アエイスが帰ってきた。

 アエイスは家の中を見回して、固まった。

 固まるのも無理はない。



「え? 何なのかしら? この人達は……? 1,2,3,4,5,6……。もしかして、瀬津那ちゃんが6人揃えておいてくれたのかしら?」


「僕が揃えた? 6人? よく分からないんだけど……」


「次のクエスト、ハイパーキングケンタウロスは、6人パーティーじゃないとクリアできないクエストですわよ」


「6人パーティーを組めって言われてないと思うけど……?」


「ハイパーキングケンタウロスは塔にいるのですが、そこに入るためには6人いないといけない仕掛けがあるのですわ」


「まぁ、そういうことならしょうがない。カウボーイ、花魁、良かったな。足手まといになるなよ?」



 そう遥は言った。

 ロックさんと銀座さんは黙って頷く。


 僕、遥、彩雨ちゃん、アエイス、ロックさん、銀座さん。

 よくもこんな色んな人が集まったものだ。

 皆一通り自己紹介をし、とりあえず、そのクエストに向かう準備をする。



「そっちの黒髪のお嬢ちゃん? 可愛いねぇ。何つぅ名前なんだ?」



 ロックさんがテンガロンハットを直しながら聞く。

 そんなに直すなら、接着剤かなんかで止めておいたらいい。

 見るからにバランス取るのが難しそうな帽子だし。



「それは教えられません」



 ロックさんの質問に、僕が間に入って答えた。

 彩雨ちゃんは僕が守る。

 こんなよくわからないやつは、彩雨ちゃんと話す資格なんてないのだ。



「ロックさんが彩雨ちゃんと話す時は、僕を通さないとダメです」


「ほぅ……。彩雨……と言うんだな? イイこと聞いたぜ……」



 ロックさんをこの家に放置していきたくなってきた。

 寝る場所はあるし、モンスターも来ないだろう。

 そのやり取りを見ていた彩雨ちゃんは、ちょっと笑っている。



「カウボーイ、この世界については何か知っていることはあるのか?」



 遥がカウボーイに、いや、ロックさんに尋ねる。

 ロックさんは鎖をジャラジャラさせながら答えた。

 僕もちょっとあの鎖欲しいな……。



「いや……何も分からねぇ。……銀座、お前はどうだい。何か知ってること……」



 あれ?



 銀座さんがいない。



 ……と思ったら、銀座さんと彩雨ちゃんの声が聞こえてきた。



「え、銀座さん……、何か頭にいっぱい刺さってますよ~?」


「アラやだ、アヤメちゃん、これはかんざしと言って、そういう髪飾りなノ」


「痛くないんですか~?」


「オホホ……、面白い子……」


「モンスターに刺されたまま……、ずっと抜けないのかと……、すみません……」


「ウチはそんなヘマはしないですワ」


「わーい、良かったです!」



 別に、良くはないだろう。

 良くはない。

 彩雨ちゃんは相変わらずよく分からない。



「銀座さんは、このゲーム、長いんですか~?」


「どれくらいでしょう……? 結構長いですワ。もう何年もやっていますネ」


「花魁。このゲームはまだ始まって何年も経ってないぞ!」



 遥が話に入ってきた。

 銀座さんのことがあまり好きではないのだろうか、遥は。

 どこか怒っているようにも見える。



「オホホ……。『アルカディア・オデッセイ』に関しては……、オープンβあたりからいますワ」


「オープン……? よくわからないですが、強そうですね!」


「そうでもないですワ。主に街にいるだけですから……」



 彩雨ちゃんはすぐ色んな人と打ち解けられる。

 僕にはない能力だ。


 それにしても、銀座さん、謎が多い人物である。

 オープンβからいると言うが、本当に全くの非戦闘員なのか……?

 ロックさんに守ってもらっているだけの……?

 多分、ロックさんよりは戦えるだろう。

 何だかそんな気がした。 



 色々と話を聞いてみる限り、ロックさんと銀座さんも、元の世界に帰りたいという気持ちは一緒のようだ。

 ただ、僕らと同様に、どうすればよいのかは分かっていなかった。


 次のクエストは6人制。

 あのでかいゴブリンの時の余裕さから考えて、今回も僕と遥とアエイスがいれば何とかなるだろう。

 バズーカ砲(笑)を持った彩雨ちゃんもいるし。

 ロックさんと銀座さんは……、きっと自分の身は自分で守れるだろう。

 きっと、大丈夫だ。


 早速、アエイス先導の元、次のクエストの場所へと向かう。

 6人は大人数パーティーである。



「ハイパーキングケンタウロスがいるのは、ムサイ荒野にある塔ですわ。そのためには、ビア平原を通過していかなければならないですわよ。ビア平原はこのはじまりの街の西の出口から直接行けるので、私に着いてきてくれれば大丈夫ですわ」



 アエイスは右手で髪をかきあげながら、そう言った。

 実に頼りになる。

 彼女がいてくれてよかった。





アルカディア・オデッセイ -ビア平原-




 大人数で学校から帰ったりする時、結局前後に3人と3人に分かれてしまっていることなんてよくある。

 というか、絶対分かれる。

 中学高校と僕は一人で帰っていたから、小学校の時の記憶なのだが……。

 それと同じ現象が、今もここで起きていた。

 アエイス、遥、彩雨ちゃんは先を歩き、僕はロックさんと銀座さんと歩いていた。

 多分ロックさんと一番仲が良いのは僕だ……。

 皆の架け橋とならないといけないのだ。



「ロックさんと、銀座さんは、普段このゲームで何をしてるんですか?」



 僕は二人に話しかける。

 ロックさんと銀座さんは同時に僕の方を向いた。

 聞いたのは僕なのに、ちょっとビックリしてしまう。

 彼らの見た目の威圧感はなかなかだ。 



「俺らは、はじまりの街に主にいるぜ?」



 ロックさんはポケットに手を突っ込みながら答える。

 銀座さんは三枚歯の高下駄を履いているから、とても歩きづらそうだ。

 草履とかで代用できないのだろうか。



「ウチら、街から出たことないんですワ。ウチのロックが、『ザコモンスターを倒すのは可哀想だ』なんて言うモンですから」


「俺は、モンスターなんて倒さなくていいんだ。お前と一緒にいられれば、それでな」


「アンタ……」



 僕は会話に入れなくなった。

 何だこれ。

 とても絡みづらいぞ……。



「銀座さんは、モンスターを倒したことは?」


「……ロックと出会う前に、少しありますワ……」


「おい、お前、初耳だぞそれ! 本当なのかよ? 何で今まで俺に黙ってた!?」


「聞かれなかったですもの……」


「……そうか……」


「いいのですワ、アンタがいればそれで……」


「お前……」



 またこの流れだ。

 何がいいのかよくわからないけど……。

 お決まりなのか……。


 前を見れば、アエイスと彩雨ちゃんが楽しそうに喋っている。

 あの輪に入りたい……。


 そうだ、僕はもっとこの世界から帰ることを真剣に考えなければいけないんだった。

 ……気を引き締めていかなければ。



 そんな時、銀座さんが急に座り込んだ。



「おいお前ら、ちょっと待ってくれねぇか!」



 ロックさんがそう叫ぶ。

 前を歩いていた3人が立ち止まった。

 そして、何事かと振り返る。



「少し、ここらで休んでいかねぇか? コイツ、疲れてるようだし……」


「アンタ……」



 確かにあんな重量級の着物を着ていたら、すぐ疲れてしまいそうだ。

 高下駄も辛そうだし。

 そのやり取りを見ていた遥がスタスタとこちらに歩いてくる。



「おい! モタモタしてんなら置いてくぞ?」


「まぁまぁ……。遥ちゃん……。そういう言い方はダメですわよ。もっと優しくしてあげなくては……」



 アエイスが割って入ってきた。

 このパーティー、はアエイスがいなかったらとっくに崩壊していただろう。

 最早アエイスはこのチームのリーダーだ。 



「もうそこはムサイ荒野ですわ。ロックちゃん、銀座ちゃんをおんぶしてあげたらどうです? 女性をおぶってあげるなんて、男らしいですよ」


「おう! OK! お、俺も今そう思っていたところだぜ? そうしよう!」



 アエイスはロックさんの扱いが上手い。

 それにしてもビア平原……。

 ザコモンスターすらいないとは。

 嵐の前の静けさ、なのか……?





アルカディア・オデッセイ -ムサイ荒野-




 急に辺りが暗くなる。

 さっきの平原と比べてきっとモンスターのレベルが上がったのだろう。

 平原と荒野だったら荒野の方が強そうだし。



「あれがハイパーキングケンタウロスか?」



 遥が指差した方向を一同、見る。

 遠くに、牛のようなモンスターの群れがあった。

 あれが全員そうなのか。



「いや、あれは、ただのケンタウロスですわ。ハイパーキングケンタウロスは、塔にいます。ちなみにその塔に入るためには、6つのスイッチを同時に押さなければならなくて、それで6人パーティーが必要だったというわけですわよ」


「何であんなに、走ってるんだ?」



 遥は花の髪飾りをいじりながら、アエイスに聞く。

 遥のストールが風になびいた。

 それが近くにいた僕の顔を覆う。



「さあ……。ケンタウロスは、群れて走ってるものなのですわ。特に意味はないかと……」



ドドドドドド……。



 遠くからだんだんと足音が大きくなってくる。

 遥のストールを振り払い、音のする方を見てみる。

 すると、何十頭ものケンタウロスがこちらに向かってきているではないか。



「瀬津那くん……、これ……、まずいよ……?」



 彩雨ちゃんは言う。

 この程度、全然まずくない。

 余裕だ。



「大丈夫、僕が倒すよ。見てて、彩雨ちゃん」


「瀬津那ちゃん、いくら瀬津那ちゃんでも……」



 アエイスの心配を気にせず、僕はケンタウロスの群れへと向かっていった。

 向かっていく途中に気づいた。

 彩雨ちゃんの言う通り、これは、マズい。

 遠くにいた時は余裕そうに見えたが……。

 でも言ってしまった手前、後には戻れなかった。



 近くに来てみて思う。

 50頭くらいはいるぞ。




 は、速い!




 ドゴン!




 僕はケンタウロスの群れの先頭で大剣を振り回す。

 大剣の射程範囲内にいた2、3頭が倒れた。

 その後に大量のケンタウロスが迫る。

 しかし僕の回避は上限を突破している。

 大丈夫だ。


 どんどん向かってくるケンタウロスを、ひらりひらりとかわしていく。


 もう一度剣を振りかぶろうとしたその時、



 ドン!



 ケンタウロス一匹の突進が僕に当たった。

 僕は吹っ飛んだ。



 30頭くらいかわした後だっただろうか、流石に同時にそれだけの突進が来たら僕でもキツかった……。


 一匹ずつなら何とか耐えたのだが……。

 防御力も上限突破しているから痛みがあるわけではないが、ケンタウロスの勢いによって僕はぶっ飛ばされていた。



 僕は華麗に宙を舞い……地面に落ちた。

 いや、全然華麗ではない。


 ゴロゴロとものすごい勢いで地面を転がり、うつぶせの状態で止まった。

 目が回る……。



 めちゃくちゃ痛い。

 これはザコモンスターじゃないレベルだ。

 上限突破装備でもこれだし……。

 普通の人が喰らったら即死だぞ。 


 大量に来られると、いくら回避上限突破の僕でも当たってしまうということが分かった。

 僕は対人戦しか慣れていないから、こういうスタイルの戦闘はキツい。

 にしても、こんな危ないやつがこのゲームにいたのか?

 しかもザコキャラで……。

 あのメンテのせいか?



 ケンタウロスの群れは真っすぐ、パーティーの方へと向かっていた。


 ま、まずい……!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る