2─6人の魔法屋
ここは王政国家エルミア。
首都エルニースに、6人は、自分の店を構えている。
それぞれが、魔法やそれを用いた商品を売ること、また魔法による種々の問題解決を主要な業務としている。
つまりそういう事業者を、ここでは「魔法屋」と呼ぶわけだ。
ローは、鍛冶職人である。
自らが吹いた火で鋼を熱し、魔力を折り込んで鍛え上げる。
そうして作られる武具は、魔法の力を得て、類い希なる性能をその身に宿し、使い手を十二分に守る。
鍵など他の金物も作る。金属と魔法を融合させることで、物理だけでは不可能な価値を生み出すのだ。
シグマは、名目上は万屋だ。
そこらの万屋と違うのは、問題の解決手段に魔法を用いること。
元来魔力の扱いに長け、強力な魔法を使役する男である。警備、解錠、密偵、駆除作業その他、日常の困り事を処理する程度の仕事に、不可能など何一つない。
金が舞い込みさえすれば、万屋の名の通り、何でもやってのける。
イプシロンは、魔法を使って薬を作る。
彼は草木と心を通わせ、植物たちに魔力を注いで、特別な性質を持つ魔法植物を育てることができるのだ。
その植物をもとに作った彼特製の薬は、瞬時に絶大な効力を発揮する。さほど不味くもない。
人を見る目があり経験も豊富で、客を見ればすぐに薬を作れる熟練の技を持つ。
ファイは、古代から伝わる魔法を研究している。
そうしてそれらの魔法を、魔法を呼び出すための本「魔導書」として綴りなおすのだ。
古来の魔法文化が消滅しないよう、古びた魔導書をうつしとり、新しく製本する。
作った魔導書は、博物館などの展示用や書架向けに、あるいは個人の希望者に買われてゆくのである。
オメガは、魔法屋の中でも異色の商売をする。
彼自身の魔力そのものを、売るのである。
本来魔力は、魔法技術を鍛え上げて得る体力のようなものだ。
しかし、彼は元来、体躯に強力な魔力の源を持つ。枯れることのない湧水のように、常に魔力を生み出している。
一時魔法が使いたい、そんな人に、放っておけば湧いて出る自分の魔力を分け与える。実に楽な仕事である。
ゼータは、新しい魔法の生成を生業としている。
古来の魔法をもとに、新たな種類の魔法を生み出すのである。
その魔法を用いて、滅びない紙や消えないインクなど、魔法を使った道具「魔導具」を生産し、扱っている。
もちろん、自分で開発した魔法の魔導書も売っている。
魔法使いの中でも、かなり幅広いジャンルをカバーする人物であるといえよう。
6人が6人とも、かなりの実力者である。
ただし、儲けはよろしくない。
原因は分かっている。
この国の魔法の普及度が低いからである。
エルミアでは、魔法というのは、太古の昔に使われなくなった、歴史の課程に過ぎない。
生活の基盤であったはずの魔法は、いつからか、科学に取って代わられた。
今では、魔法使いなど単なる変わり者でしかない。
当然、魔法屋に寄り付かない者は多くいる。
だが彼らは、それさえも良しとする。
そしてもう一度、世界に魔法を広めたかった。
魔法は素晴らしいものであると信じ、それに共感する者が増えることこそ、彼らの最たる喜びであった。
それに、彼らがこうしてとりあえず食いつないでいるということは、そういうことである。
客は、少なからずいるのだ。
デリケートで些細なことから、この国の技術では解決できない問題まで。
あまり表舞台に出ない、おおっぴらにできない秘匿の依頼こそ、すなわち彼らの経営を支える需要なのであった。
そして今日、ローに舞い込んだ依頼も、そういう類の代物であった。
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