1─酒場の集会
ゼータは酒場のドアを蹴破るように開けた。
「いらっしゃい」
マスターが、いつも通りの笑顔で迎える。
「もう来てるよ、皆」
「おう、ありがと!」
「やれやれ」
はやる足を止められない彼に、マスターがオーダーをうかがう余地はない。
「でも、店内は走らないようにね」
店の一番奥のテーブル席は、彼らの定位置。
やはりいつもと同じように、5人の影が、そこにあった。
「はい、チェックメイト。
今日は私の勝ちですね」
チェスを打つのは、ファイ。
紺髪の艶やかなさまに、今日は珍しく表情まで明るい。
相当いい対局だったのだろう。
ファイの相手をするのが、獣人のロー。
「…ふ、…やはり、ファイは強い、な」
つっかえつっかえしゃべる彼は、頬を赤らめ、納戸色の耳をひくつかせる。
そんな対局の様子など構わずに酒をあおる者がふたり。
「あ、これ美味しいー!これ何てメニュー、シグマ?」
「え?何だっけ、もう覚えてねえや」
小さな体躯の彼はイプシロン。
彼がいくつもの瓶を瞬く間に空けてゆくさまを面白そうに見る銀髪の男性は、名をシグマという。
それとおまけに、
「…、」
テーブルに突っ伏して眠る、石膏像のように白い大男。
オメガである。
ゼータは、長いメロウグリーンの髪をゆわき、彼らに駆け寄る。
「お待たせ!」
オメガは寝っぱなしだが、残る4人は顔を上げた。
「遅いです」
ファイが眉を寄せる。
「待ち合わせ時刻は32分も前ですが」
「ちゃんと時間通りに来たの、ローとファイだけだけどね!」
イプシロンは得意げに胸を張った。
威張る事じゃありません、と、ファイがイプシロンをたしなめる。
「す、すまないな、…
皆、忙しいのに…、おれに来た話に、…付き合わせて、」
ローが肩をすぼめた。
いいってことよ、と一笑し、シグマが酒で喉を湿した。
「困ったときの同業者組合、ってな」
ロー、シグマ、イプシロン、ファイ、オメガ、そしてゼータ。
そう。
彼らこそ、このエルニースきっての変人と悪名高き、“魔法屋同業者組合”である。
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