炎の復讐劇

伊勢志摩

第1話

   

  


死体が3つ、床にころがっている。

一人は強欲そうな白髪まじりの男、あとの二人はその息子夫婦だ。

父親のほうはカッと眼を見開いて宙空をにらんでいる。

三人とも日本刀で殺されていた。

特に父親のほうはメッタ突きで、ガウンが真っ赤に染まっていた。

夫婦は抱き合うように倒れている。

 騒ぎに気がつき、ようすを見にきたところを暴漢に襲われたようだ。


毛あしの長いじゅうたんに、鮮血にまみれた日本刀が投げ出された。

 ちょうど父親の死体の脇だ。


さらに透明な液体がまきちらされた。

石油か灯油か、とにかく殺人犯は放火罪もおかすつもりらしい。

父親の死体にはとくに念入りにふりかけている。


三本のマッチがまとめて擦られた。


たちまち炎がたちあがり、応接間に火の海がひろがった。

じゅうたんからカーテン、天井へと、火炎は生き物のように這い上がる。


血の色に部屋が赤々と染め上げられる。

犯人の姿が浮かび上がる。

若い男だ。

ジャンパーを着込んでいるのは判るが、炎をバックにしているため影法師と化してしまい、細かい人相風体までは確認できない。


「きゃーっ!」

細い悲鳴があがった。

犯人の肩がギクリとすくんだ。

奥に通じるドアの透き間、そこからのぞく小さな人影が視野の端にはいったのだ。


幼女がそのつぶらな瞳をみひらき犯人に向けていた。

 年齢は五才前後。可愛い顔立ちをしている。

 すでに眠りについていたのか、花柄のパジャマを着ていた。

名前は稲沢京子、この物語のヒロインだ。

 小さな手を口もとにあてがい、おびえたように凍りついている。


犯人の男が首を絞めようと手を構え、前へ踏みだした。

血にまみれた両腕だった。

幼い女の子にせまる魔手。


そのとき二人のあいだに炎の壁ができた。飛び散っていた油に引火したのだ。

火勢に幼女の髪が逆立つ。


炎がフラッシュのようになって犯人の顔貌が浮かびあがった。

やはり若い男だった。

返り血を浴びた悪魔のような面相だ。

さらにメラメラと燃えさかる炎によって、不気味な陰影が隈取られている。

幼女にとって生涯、忘れることのできない鮮烈なヴィジョンとなって記憶の底に焼きつく。


「キャアアーッ!」

長袖のパジャマに火が燃えうつった。

驚きと熱さに京子はさきほどよりも、さらにさらに凄まじい悲鳴をふりしぼった。


「ちーっ!」

熱風にひるむ犯人。

腕で顔をおおい、きびすをかえして逃げ出す。幼女殺しはあきらめたようだ。


野次馬もまだ集まっていない夜の住宅地。立派な三階建ての家屋から煙があふれ炎が吹き出している。

消防車のサイレンが夜のしじまに高く低く響き渡ってくる。


~~~~~


鉛色の曇り空のした、街路樹の枯れ葉が歩道を埋めつくしている。


法廷ではいままさに判決がくだされようとしていた。

老眼鏡を鼻先にひっかけた裁判長が咳払いをする。


被告は緊張しきっていて、その表情はこわばっている。

 視線をやや下にむけ腰掛けている。

裁「これより判決をいいわたす。被告、津島啓一、立ちなさい」

「はい」


あの惨劇を目撃した京子もいる。いまは少女めいて髪も伸ばしていた。小学校にあがろうかという年頃だ。

傍聴席にかしこまっている京子の隣、ふくよかな女性がそっと小さな肩のあたりに手をまわした。

唯一の生き残りにして目撃者の両腕の先、袖口からは火傷の跡がのぞいている。

隣席の女性とは母方の叔母と姪の間柄だ。

「……事件当時、証人の稲沢京子はわずか五才、しかも寝起きであり、また部屋は火の海、本人も火傷をおうという状況の中において、その記憶は信頼するにたりず……」

 判決文が淡々と読み上げられていく。

少女の顔がみるみるひきつっていく。

「しかも第三者により被告を犯人と特定され、先入観をあたえられた可能性もあり、その証言能力はないものと判断される」

膝においたこぶしがギュッとスカートを強く握りしめる。


強い木枯らしが吹いた。

枯れ葉が乱舞して道行く人たちの行く手をさえぎった。

「また凶器の入手経路、借金の有無についても不明確であり……」


「……よってここに被告、津島啓一を無罪とする!」

裁判長のこえが無情に響く。


被告の津島啓一はホーッと長く溜め息をついた。

そして笑みを浮かべた顔を背後の傍聴席へとめぐらせた。

京子と視線が合った。偶然かそれとも意図したものなのか……。

京子の瞳が憎しみと怒りに燃え、ひるむことなくにらみかえす。

しかしこらえようとしても涙があふそうになるのだった。

「この男がぜったい犯人よ!わたしは見たんだから!」

気がついたときには立ち上がって叫んでいた。

「ちゃんとおぼえてるんだから!」


~~~~~


時が流れさっていく。

春、桜吹雪のなか真新しい制服を着た京子が照れくさそうに立っている。

「きょうからは稲沢京子じゃなくて岩倉京子」

叔母も和服で着飾っている。入学式の朝なのだ。

 京子の襟のあたりを愛しそうになおしてやっている。

「うちの子になったのよ」

京子は無言でうなずく。はにかんでいるようにもとれる。

父親となった叔父がカメラを構え、複雑な表情の京子をファインダー内におさめた。

シャッターがきられた。京子の笑みはかたい。ひとり嬉しそうな叔母とは対照的である。


~~~~~


「京子ーっ!」

新興住宅地である。まだ空き地が多くあり、少しはずれると造成中の場所があったりする。声がかかったのは公園予定地の前だ。

造園業者のダンプやクレーン車、ショベルカーの騒音よりも大きな声だった。

「京子ったらー!」

また名前が呼ばれる。

呼びかけた少女はやたらと元気のいい、明るい感じの娘だ。

 学校帰りらしくセーラー服姿だ。息をはずませ駆けてくる。

三つ編みのおさげがおどる。丸い眼鏡がトレードマークだ。

京子が振り返った。手入れのよいセミロングの髪がふわりと舞う。

「秋絵ちゃん」

秋絵よりやや大人びた、ととのった顔立ちをしている。

 色気のようなものさえ漂わせていた。

それはどこなく暗い、蔭のようなものが醸しだす雰囲気なのかもしれない。


「すぐにひとりで帰っちゃうんだからー、もう」

秋絵が横にならび不満そうに言う。

「ごめん」

「ふたりで受講の手続きをするって約束してたじゃない」

植込みを積載したトラックが通り過ぎる。


~~~~~


神栄進学塾の看板が掲げられたビル。真新しい白いビルだった。

新興住宅地の需要をみこんで進出してきた教育産業のひとつだった。


「そう、高校一年生……」

睦というネームプレーを胸に付けた受付の女子事務員が、優しい微笑みをたたえて京子と秋絵をむかえてくれる。

「ネオシティ団地ね。わたしもあそこに住んでいるのよ」

申込書を手にそうつげた。

「うちはさいきん、引っ越してきたばかりなんです」

その京子の後ろを講師の一人が通る。

教科書などを小脇に抱えた男だ。

「あ、津島先生」

窓口から睦が呼び止める。

なぜかその頬が赤くなっている睦。


「さっき電話がありましたよ」

「誰から?」

尋ねながら事務室のドアを開ける。

(津島?)

京子からは扉のかげになり、ちらりとしかその顔貌は見えなかった。

「奥様からです」

睦の声が聞こえる。窓口からはのぞきこまなければ中の様子はわからない。

「また保育園にむかえにいけというのかな」

(この声……)

「さっ、行こっか」

京子の腕をひっぱる秋絵。

「あ……うん」

津島とよばれた講師のことが気になりながらも京子は進学塾をでる。



「きみたち、忘れ物だよ」

外にでたところで呼びとめられた。

振り返る京子。

「ほら、これだよ」

津島はポシェットを手に玄関の階段をおりてきた。

(津島啓一!)

頭の中が真っ白になった京子。

「京子、あんたのでしょ」

たちつくす京子を秋絵がうながした。

「なにボーッとしてるの」

「あ、ありがとうございます」

おそろしくてまともに顔をあげられない京子。

 お辞儀のふりをしてうつむいている。

「数学を教えている津島だ。よろしく」

そういってポシェットを手渡した。


~~~~~


進学塾の看板がかかるすぐ横手の三階窓。

 教室では数学の授業がおこなわれていた。講師は津島だ。


「つぎは証明をしてもらおう」

黒板に描かれた図形。

教室には京子と秋絵もいた。

京子は上目づかいに津島を見ている。

「えーっと」

名簿に目をおとす津島。

「岩倉京子……か、やってみろ」

「はい」

伏し目がちに立ち上がる。緊張の糸がいっきに張りつめる。


(この男、わたしが稲沢京子だと気がついてない……)

黒板の前に立ち、チョークを走らせる京子。

 傍らでは津島がのんびりながめている。

京子には冷汗のでるおもいだった。



手洗い場の鏡にむかっている京子と秋絵。

「ねえ、京子。もう津島先生の噂ってだれかから聞いた?」

手を洗いながら秋絵は、長い髪をとかしている京子に尋ねた。

「うわさ……?」

「不倫してるんだってー」

いかにも楽しそうにささやいた。

「だれと?」

ブラシをあやつる手をとめ、おもわずききかえした。

「受付の事務員」

「睦さんね」

ハンカチで手を拭う秋絵につめよりそうになる。

「めずらしいわね、京子がこんなゴシップに興味をもつなんて」

鏡をのぞきこんでからかう。

「あーあ、またフラレニキビ……」

頬にできたニキビを発見しつぶやく。

「……」

秋絵に背をむけるようにして物思いにしずむ京子。


~~~~~


津島と書かれた表札がかかっている。

身分不相応なくらい立派な一戸建ての家だった。

やや日がかたむきかけていた。

門扉に細長く人影がおちた。

睦だ。ジャケットにセミタイトスカートを着用している。


犬が吠えたてる。柴犬である。


「睦……!」

睦の頭上から津島がとがめた。

おびえたような睦の表情。


トレーナーを着た津島と、申し訳なさそうにしている睦がガレージの中で言葉をかわしている。

というより一方的に津島が責めているようだ。睦は涙ぐんでさえいた。

いきなり平手打ちが睦の頬にとんだ。はずみで髪を束ねていたリボンがほどけた。

「とっくに縁はきったはずだ!」

「そんな……わたしはただ……」

頬をおさえながらリボンを拾いあげた。

「迷惑なんだよ!」

愛車に目をむけたまま言いはなった。

「こんなところまでノコノコと……」

「ごめんなさい」

謝って外に飛びだす睦。

津島「おい、そこまで送って……」

振り返りもせず、白いハンカチを目もとにあて、小走りに去っていく睦。


角にたっている、コンクリートの電柱の陰からこっそりそれを見つめる人影。


津島は近所の人間に見られなかったかと、あたりをキョロキョロと見回し、門の中に入っていった。


しかし、にらみつけるような京子の眼差しには気づかなかった。


~~~~~


京子の自室。

ベッドに身をなげだしているパジャマ姿の京子。掛け布団の上に寝ていた。

呆けたように天井を見上げている。

照明がまぶしいのか、右手を額にあてるようにしていた。

「人殺し……」

ポツリ、つぶやく。

毛あしの長いジュウタンの敷かれた床には大きなクッションがころがっている。

ローボードにはミニコンポやマスコットが置かれ、壁には洋服が何着か掛かっている。

枕許の時計だけが動いていた。

時刻は午前一時過ぎ。

パチパチという何かはぜるような音が聞こえてきた。

飛び起きる京子。

胸の鼓動が恐怖にたかまる。

ドアの隙間から煙が溢れていた。

「煙……たいへん!」

廊下に飛び出した京子はたちまち煙にまかれた。


「おとうさん!」

はげしく咳こみながらも両親をさがす。

「おかあさん!」


つきあたりのドアをあけるとそこは火の海だった。

「キャアーッ!」

おもわず悲鳴をあげる京子。


そこに血まみれの日本刀をさげた津島がいた。

 津島の狂暴な眼は京子を見つけた。

床には京子の{産みの親}が倒れていた。

「いやぁーっ!」

絶叫した。


悪夢にさいなまれていたのだった。

ベッドの上に起きあがり、荒い息のした血走った眼が虚空をさまよう。

「さいきん、やっと見なくなったとおもったのに……」

両手で顔をおおって鳴咽する。

「忘れることなんてできるわけない!」

体が小刻みにふるえている。

「わたしは、わたしは……見たんだから」

京子の両手がシーツを握りしめた。

「津島啓一め!」

鬼女の面相に変わりはてた京子がそこにはいた。


~~~~~


ざわめく教室。

あちこちで人の輪ができている。

「睦さん、退職したんだって?」

「なんでも自殺未遂したらしいわよ」

「エーッ!」

「原因はやっぱりあれかな」

「あれって?」

「不倫よ、不倫」

秋絵ら少女たちも声をひそめるようにして情報を交換している。


京子だけはただ独り、窓辺で外の景色を眺めていた。

それでも無責任な噂話は耳にとどいてくる。

「ガス自殺ですって……」

「ちがうわよ、手首をカミソリでぇ」

「まさかデマじゃないでしょうね」

ザワザワと、あるいはヒソヒソと。

京子の表情はなにも聞こえていないかのように動かない。

瞳にはいつものかげりすらなく、それどころか青白い炎がやどっているような不気味な印象さえある。

京子は知っていた、睦の自殺の経緯を。


あのあと睦は発作的に橋から身を投げたのだ。

そして運よくすぐに救助され事なきをえていた。


その時、橋の上に残されたバッグと靴を届けようとして、京子は睦のスマートフォンが鳴っているのに気がついた。津島からだった。


いまスマートフォンは京子の手にあった。


~~~~~


葉桜が枝をならしてもだえる。

風はつよく、きょうは白いリボンで束ねてある京子の髪がうねるようになびいた。

造成中の公園予定地である。

根ついてもいない植え込みや芝がそらぞらしい。

京子の眼前、足元に風にめくれあがったシートがひるがえる。シートの下には深い穴がポッカリと口をあけている。

もちろん立入り禁止の札と金属ネットがまわりを囲んでいる。

穴から数メートルはなれた場所にはトイレの巨大な浄化槽が用意されている。公衆トイレが建てられる予定なのであろう。

ショベルカーなどもまだ放置したままだ。

京子は紺のツーピースに白のブラウス、黒のジャケットという服装をしている。

ジャケットの大きなポケットに両手をつっこんでいる。

右手がそのポケットの中で、なにか長い物をにぎりしめた。



風が電線をかん高く鳴かせている。

おびただしい黒雲が夜空をわたり、新興団地の家屋もまばらな造成地は、ほとんど闇にとざされてしまっている。

街灯だけが心細い光をなげかけていた。



一台の乗用車が公園の前に停まった。

津島のガレージにあった車だ。


津島が降り立った。

眼が人の姿をさがしている。


公園の中に女の姿をみとめた。

遠く暗いが、たしかに女性の人影だ。


「ったく、自殺のつぎは訴えるだと?」

口の中でグチをこぼす津島。右手のスマートフォンを握りしめる。

「なにを考えているんだ、あの女は!」

険しい表情で歩をすすめる。


「睦……!」

背中を向けている女に呼びかけた瞬間、違和感にとらわれた津島の声。

「いや……だれだ、おまえは?」

白いリボンに問いかけた。


あやしい微笑をたたえた京子がふりかる。

「た、たしかきみはうちの生徒の……」

「岩倉です」

挑むような口調だった。

「これはなんのいたずらだ!」

詰問する津島。てっきりからかわれていると思いこんだのだ。

「いたずら?」

心外だとでもいうように眉をひそめる。

「とんでもない誤解だわ。わたしはただのつきそい」


「ほら、睦さんならあそこに」

「え?」

暗やみを指さす京子。

いるはずもない睦の姿を求める津島。


ナイフが険呑な光をはなって京子のポケットから出現した。

「死ね!人殺し!」

津島の背後から体当たりするようにナイフを突きたてた京子。

「ぐあっ!」

右の脇腹がえぐられた。

鋭い痛みに前方へ逃れようとする津島だが、突然に足元の地面が陥没した。

落とし穴だ。シートの上に土をかぶせてあったのだ。

「うわあっ!」

たまらず頭から穴に落ちる津島。

底の水溜まりにはまり泥にまみれてしまった。


酷薄な眼差しでぶざまな恰好の津島を見おろす京子。

「う、う、う……」

ぬかるみに這いつくばってうめく。


「こ、これは油?」

苦痛に耐えながら京子を見あげた。

「どう、十年前のあの事件をおもいだした?」

「十年前……?」

もちろん津島もおぼえていた。

「まさか、きみは……稲沢……京子」

「そう、あなたが殺しそこなったね」

京子は四、五本まとめたマッチに火をつけた。

 炎に鬼女の顔貌がうかびあがった。

「両親や祖父とおなじように死んでもらうわ!」

「まて、おれは無実だっ!」

泣き叫ぶ津島。

「裁判でも無罪だったじゃないか!話をきいてくれぇ!」


「むだよ、わたしはあなたの顔を見たんだから」

マッチが投げ込まれた。


「ギャアァァーッ!」

悲鳴とともに火柱がたちあがった。



「ねぇパパー、どこいったのー?」

子供の声に驚いて振りかえる京子。

そこにはあどけない男児がたたずんでいた。

保育園の服とバッグをさげている。

「どうしてこんなところに……」

凍りついたように顔をみあわせてしまう京子と津島の息子。

津島の断末魔の悲鳴がふたたびあがる。

そのひょうしに我にかえり、慌ててその場から逃げ出す京子だった。

(まさか子供を車にのせていたなんて……)

駆けながら津島をのろった。


~~~~~


京子はおびえきっていた。

自室でベッドにもぐりこみ、布団を頭からかぶってふるえていた。

目の下に青黒くクマが浮き出ている。

 頬もこけ、わずかなあいだにやつれはてていた。

パトカーがサイレンを鳴らしながら外を通過していった。

(ひいーっ!)

さらに布団の奥へともぐりこみ丸くなる。

遠ざかるサイレンの音。

家並はなにごともなかったかのようだ。


自室から出てくる京子。ジーンズにトレーナーといういでたちだ。

「自首するしかない……」

精神的にかなり消耗している。

「津島の子供に見られてしまったいじょう、警察に捕まるのは、もう時間のもんだいだわ」

ダイニングキッチンにあるテレビをリモコンでつける京子。

そしてインスタントコーヒーをいれる。

「昨夜おきました、進学塾講師殺人事件についての速報です」

耳にとびこむワイドショーの声。


画面に映しだされる犯人逮捕の模様。

「けさ逮捕された犯人は、殺された津島さんの元同僚で愛人の……」

フラッシュの嵐の中を連行される睦のアップであった。


「睦さん……」

 マグカップのコーヒーがこぼれた。

驚きに眼を見ひらく京子だった。


「つづきまして事件を目撃した津島さんの長男へのインタビューです」

シーンは変わり、記者会見の現場だ。

母親の膝に乗せられている子供の姿。

「ぼく見たよ、ちゃんと覚えてる!」

きっぱりと言い切る子供。

「あの女の人がパパを殺したんだ!」


呆然と立ちすくむ京子の周囲で世界がグニャリと歪んでいく。

                     

終わり

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