第152話魔王の息子 其の三
セイツェルに連れられて離宮にやってきたザインは、真っ先に妻達が休んでいる部屋に入る。使用人の悪魔の案内で入室した時に彼が見たものは、椅子に座って放心しているアンネリーゼと、それを困ったように慰めるルルだった。
「大丈夫か?何があった?」
「あ、ザイン様!私にも解らないんです。お産自体は二人で協力してうまく赤ちゃんを取り上げたんですよ?それから王妃様に赤ちゃんの顔を見せに行ったらアンリちゃん、王妃様を見た途端にこうなっちゃって…。」
お産の間、王妃は胸から上をベールで隠していたらしく、赤ん坊の顔を見せる段になるまで彼女の顔は見えなかったのだという。そして二人で赤ん坊を抱えて王妃の側へ寄った時、アンネリーゼがこうなったらしい。
「王妃様は何かされたのか?」
「わかりません。でも、私もビックリしたんですよ。だって、王妃様とアンリちゃん、瓜二つなんですもん。」
「じゃあ王妃様は何か仰ったか?」
「ごめんなさい。私も余裕が無くって…でも、凄く驚いておられたように思います。」
「…なるほどな。話が見えた。なんて偶然だろうな。」
ルルの話と先程のセイツェルの話、そしてアンネリーゼの記憶を総合すると一つの仮説が成り立つ。そしてアンネリーゼほどの肝の据わった女性が放心している姿を見ればそれが真実だとわかるだろう。
「どういうことです?」
「ああ。十中八九、王妃様はアンネの母親だ。」
「えぇ!?」
アンネリーゼの母親が王国の謀略によって死んだとされる時期と、先代の魔王が死んだ時期はそう離れてはいない。また、彼女の母は娘と同じく魔術の天才だったと聞く。彼女がどんな魔術が得意だったのかは解らないが、娘が強力な精神干渉魔術の使い手である事から、その母にも適性があってもおかしくない。そうであれば精神生命体である悪魔王と張り合えたのも合点が行く。さらに顔がそっくりで髪の色も同じ赤という外見まで似ているとなれば、断言出来るというものだ。
驚きを隠せないルルの頭を優しく撫でてから、ザインは未だに虚空を見つめるアンネリーゼを何も言わずに抱きしめる。すると彼女は堰を切ったように号泣し始めた。アンネリーゼは子供のように泣きじゃくったが、しばらくするとようやく泣き止んだ。
「落ち着いたか?」
「…ええ。お見苦しい姿を晒してしまいましたね。」
「ふん。女房の涙くらい受け止めてやる器量は持ち合わせてるつもりだ。ルルも辛い時は言うんだぞ?」
「ふぇっ?ふえぇ!?はいぃ…。」
突然話は振られたのと、冗談めかしてはいるがとてつもなくキザな言い回しのせいでルルは真っ赤になってしまう。そんな彼女の可愛らしい仕草に、ようやくアンネリーゼは笑みを浮かべてくれた。
「ふふっ、全く…。あなた達といると調子が狂いっぱなしです。」
「なるほど?調子を乱してやれば可愛げのある態度を見せてくれるって訳だあああああ!!?痛い痛い痛い!」
ザインは少々調子に乗りすぎたらしい。せっかく何時になくアンネリーゼが素直になっていたのに、余計な一言で照れ隠しの魔術を食らう羽目になったのだから。ちなみに、彼女が使ったのは相手に『痛い』と錯覚させる精神干渉魔術だ。故にザインの強靱な肉体を以てしても、精神に直接加えられた痛みを軽減することは出来ないのである。
「もう…バカな人なんだから…。」
「だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫、なハズだ。なんだか解らんが痛かったぞ。」
「自業自得です。それよりも、詳しく聞かせていただけますね?」
「おう。つまりだな…」
ザインは王妃がアンネリーゼの母親である根拠について、彼の知りうる限りの情報を事細かに伝える。ザインの話を最後まで聞いた後、アンネリーゼは天井を仰いだ。
「なんて事。お母様が生きていらっしゃる。じゃあ私が取り上げた男の子は、弟、なのですね。」
「王子様だったのか。まあ、そういうことだな。父親は違うが。魔王様と王妃様が落ち着いたら会いに行くといい。積もる話もあるんだろ?」
「ええ。そうしますわ。」
心の底から嬉しそうなアンネリーゼに、ザインとルルも思わず顔がほころぶのであった。
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