第146話幕間 王国歴225年

 王国歴225年。これはダーヴィフェルト王国が滅亡した年であり、魔王による覇業が始まった年でもある。後の世に『歴史上最も平和で戦乱無い時代』と呼ばれる時代の幕開けであった。

 王族を皆殺しにして王家を滅ぼし、同時に勇者を討ったことで王都の住人は反抗することを諦めた。ありとあらゆる拷問を受けた王族の無惨な死体が城門に吊されただけでなく、勇者と魔宰相の空中戦は多くの住人が見ていたのが大きい。王家と勇者の敗北と魔宰相の武勇に恐れを成したのだ。

 次に魔族は王都に残っていた貴族には直接、領地にいる貴族にはメッセンジャーの悪魔を送った。細かい要求は省略するが、最大の命令は二つ。一つは貴族制度の廃止、もう一つは魔族に服従するならば今の領地の総督として認めるという一方的な通告であった。そして最後に妥協は一切受け付けず、要求を飲まない場合はその一族を滅ぼすと添えられていた。

 このとんでもない命令に素直に従ったのは、王都に残っていた貴族だけだった。勇者を消し炭に変えた恐ろしい魔宰相ザインに逆らえる阿呆は流石にいなかったのである。それは貴族連合軍を率いたパルトロウ侯爵も例外ではなかった。

 命令への返答は一週間という期間を設けたので、逆らう者達は急いで戦争の準備を整えていた。だが、そうなることを知っていたザインは王国の全ての街や村の有力者の下へ秘密裏に悪魔を派遣。魔王の支配下での平民の税率や義務について詳細に説明させた。

 それは平民にとって喜ばしいものであった。税率の軽減に始まり、土地の所有の自由化、開墾地の所有権など多岐に渡るが、最大の目玉は選挙・立候補する権利だろう。自分のリーダーを選ぶことが出来ない貴族制から、選ぶことの出来る選挙制の導入はまさしく上からの革命と言えるだろう。

 魔族の言うことを信じられない者も多かったが、選挙への希望を持つ者もまた多い。何より悪魔とはとても口が上手い種族だ。学のない平民を手玉に取る事など朝飯前である。結果として続々と魔族に従う平民が増えていき、中には自分達を魔族との無謀な戦いに駆り出す領主の一族を捕縛して差し出す者まで出る始末だった。

 しかも既に王国北部と南部の都市は大体制圧しているので、参戦出来る有力貴族自体ほとんど残っていない。そんなこともあって反抗する貴族は戦う前からボロボロで、一週間の期限が過ぎて集まったのは一万にも届かない小勢のみ。しかも指揮系統の統一すら出来ていないので、同数の盗賊にも負けるであろう烏合の衆であった。戦闘開始から一時間もかからずに、ダーヴィフェルト王国として最後の戦いは呆気なく終わった。




 王国滅亡と魔王侵攻の急報は、大陸全土に轟いた。王国の実質属国だった大陸西部の小国は戦々恐々とし、すぐさま魔王へ友好の使者を送った。一方で東のルカンティア帝国は出兵の準備を始める。新たな戦乱は、既に水面下で始まっているのだった。


第一章 復讐編 完

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