第131話朱の白城 其の二

 王城で真っ先に異常に気が付いたのは当然ながら近衛騎士だった。彼らは轟音と共に破壊された跳ね橋と、百人近い侵入者を見て迅速に対応した。


 「侵入者を排除せよ!近衛騎士団の名誉と誇りに賭けて一人も討ち漏らすな!」

 「ヤレるもんならやってみやがれ!ド腐れボンボン共ォ!」

 「ガオォ!」


 近衛騎士に突撃していったのはガルン率いるドワーフとエルガ率いる獣人であった。これは事前に決めた対応である。城内に入るのは人間とエルフの方が都合が良いのだ。


 「行くぞ。時間が惜しい。」

 「おう!」

 「ああ!」


 ガルンとエルガ達が近衛騎士を押し分けてこじ開けた道を、ザインを先頭にした一行は一気に駆ける。城内に突入した時、彼らを出迎えたのはどこか様子のおかしい近衛騎士であった。全員の目の焦点が合っておらず、幽鬼のように立ち尽くしているのである。


 「時間通りですね。」

 「ああ。女を待たせる訳にはいかんだろう?」


 ザインが軽口を叩いたのは他でもないアンネリーゼである。近衛騎士は彼女が掛けた精神干渉魔術によって催眠状態にある。これもまた作戦通りであった。


 「嘘とは思ってなかったけどよ、まさか本当にお姫さんがザインの協力者とはな。」

 「あら?心外ですわ。私はザインの共犯者です。」

 「より非道いもののような気もするが…そんな事よりもさっさと着替えるぞ。アンリ、国王はどうしてる?」

 「近衛長とその直轄部隊が逃亡の準備を進めているそうです。」

 「…此処にいていいのか?」


 ザインの質問は至極当然だが、アンネリーゼは微小を浮かべて首を横に振った。

 

 「ご心配無く。私の使い魔に幻覚魔術を掛けて私に見える影武者を用意しています。それにあの男とその家族は私など政略結婚の駒としか見ておりません。私のことなど放置して逃げるようですし。」

 「そうか…いや、そうだな。」


 ザインは己の頭に映された彼女の記憶を垣間見てそう言うしか無かった。彼とは方向性が違っても、彼女の憎悪はザインに負けず劣らず根深いものなのだ。


 「ザイン、話しているところ申し訳ないが着替え終わったぞ。騎士共はどうする?」


 微妙な空気が流れる二人に話し掛けたのは、近衛騎士の装備を脇に抱えたアルであった。後に必要になる騎士の装備だが、今はまだ着る訳にはいかないのだ。


 「生かしたままその辺に放り込んでおいてくれ。作戦の為には生きていてもらわにゃならんからな。ああ、使用人とは別の部屋にしてくれよ?」

 「そう来ると思ってもう使用人は彼らの部屋に閉じ込めてある。勿論、使用人も拘束してあるぞ。」


 付き合いが長く、気が利く仲間がいることに感謝しつつ、ザインは使用人の住み込む部屋に魔術を掛けて封じ込めた。アンネリーゼの知識はこんな事にも役に立つのだ。


 「予定通り、次は王族の捕獲だ。アンリ、道案内は宜しく頼むぞ。」

 「ええ。此方です。優雅に行きましょうか。」


 機嫌良さげなアンネリーゼはくるりと翻り、今にもスキップしそうな軽やかな足取りで先頭を歩き出した。その姿を見た者がいたならば、嫌でも王城が陥落した事を思い知らされたであろう。ザイン率いる屈強な剣闘士達は勝利を確信しつつも油断することなく王族の元へとついて行った。

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