第14話幕間 王国歴215~224年

 ダーヴィフェルト王国正史における王国歴215年から224年は戦乱の歴史だ。

 まず、大前提としてイーフェルン大陸には大別して六つの勢力が存在する。


 大陸西部のダーヴィフェルト王国

 東部のルカンティア帝国

 中央部のグ・ヤー大森林にエルフの大集落サル・エマルト

 同じく中央部のキフデス山脈にドワーフの王国ラジャ・フ・ビレン

 南部の草原地帯に獣人の氏族連合であるパシャール・グネ

 北西部のワクジャス半島を占領する魔王の一派


 他にもいくつか小国がちらほらあるのだが、例外なくいずれかの勢力の傘下に入っている。国に属さない集団も存在するが、どれも特筆するほどの力はないので割愛する。

 人間の王国であるダーヴィフェルト王国は魔王領と隣接していることもあって他の勢力に比べて昔から軍拡に励んでいた。その一環として亜人種やはぐれ魔族を奴隷化させていたのだが、勇者が竜の討伐に成功し、魔族に勝利したことで上層部が勢いづいた。

 王国歴216年、王国は魔王への最低限の備えを残して戦争を起こしたのである。具体的な相手はパシャール・グネの獣人達だ。適当な大義名分をでっち上げると、一年かけて準備したこともあり、王国は草原地帯を蹂躙し、屍の山とそれ以上の奴隷を勝ち取った。

 獣人という労働力兼戦争時の捨て駒を得た王国の勢いは止まることはなく、王国歴219年、王国はグ・ヤー大森林のエルフに宣戦布告、同時に総攻撃を仕掛けた。如何せん大森林はエルフのテリトリーなので攻略は至難の業であり、遅々として進まなかった。ここでも勇者は活躍したが、思わぬ横槍が入った。ドワーフである。

 本来不仲であるはずのエルフとドワーフが王国を相手に共同戦線を張ったことを知った時にはもう遅かった。エルフの森に関する知識を、ドワーフの造り出す強力な魔具を共有した連合軍は王国軍を完膚無きまでに叩きのめしたのである。

 このことに激怒したダーヴィフェルト王サンフォルト・タルス・デアン・アジェルヴォルンは王国の威信にかけてエルフとドワーフを滅ぼすよう下知を下した。人間と比較して数が少ないエルフとドワーフ連合軍だったが、王国の猛攻に一歩も引かずに戦い続けた。

 連合軍にも疲労の色が見えたが、彼らを支援する勢力が存在した。ルカンティア帝国である。帝国は連合軍の物質・情報面で支援していたのだ。これは王国がこれ以上勢力を拡大することを阻止し、同時に連合軍に恩を売るための策である。

 長期戦になれば補給線の伸びきった王国が不利になるのは明らかで、帝国のスパイが情報を入手し、連合軍が容赦なく補給部隊を襲撃した。結局、帝国の思惑通りに事は運んだ。王国歴224年に王国軍は大森林と山脈の攻略を一時断念し、しばし国力の充実に努めることになった。

 この一連の侵略戦争で人間・亜人合わせた死者は数万にも上った。五年以上にもわたる戦争だったが王国はそれほど疲弊してはいない。というのも、それ以上の奴隷という労働力を大量に得たことが大きいのである。

 戦争奴隷は王国に所有権があり、欲しければ国に金を払わねばならなかった。決して安い値段ではないものの、大規模な農場や鉱山の経営者はこぞって奴隷を購入した。ドワーフは優れた冶金技術を鍛冶場で発揮するように強制された。獣人の一部やエルフは非常に見目麗しいので、性奴隷としても人気がある。奴隷の売買によって王国の国庫は戦争による損失を容易く回収し、商人は無料の労働力を大量に入手したのである。

 しかしながら、奴隷によって大量に失業者が生まれてしまった。給料いらずの奴隷が、農夫や鉱夫として働いていた平民から職を奪ったのだ。路頭に迷った彼らは街で仕事を探すものの、学のない彼らに出来る肉体労働は奴隷でも出来るので誰も雇ってはくれない。結果として王国の主要な都市のスラムの住人はこの十年で十倍以上に膨れ上がった。




 この期間、王都では王国歴213年に新建造された新しい娯楽施設が大好評であった。剣奴を戦わせる闘技場である。

 剣奴とは闘技場で戦う奴隷だ。剣奴の約半数は戦争で捕縛されて奴隷となった獣人やドワーフ、男のエルフ。そして残りの半数が借金を筆頭に、様々な事情で剣奴とならざるえを得なかった人間だった。

 先に述べた通り、短期間で大量の奴隷を獲得したせいで多くの平民が職を追われた。食いはぐれた者たちは糊口を凌ぐために借金を繰り返し、返せなくなった場合は奴隷に身をやつすことも多かった。その中でも健康かつ屈強な男は優先的に剣奴として売り飛ばされたのだ。

 王国における闘技場のシステムは基本的に不殺だ。奴隷はタダではないし、いつ戦端が再び切られるかが解らない情勢で一人前に戦える者を無為に死なせることはもったいないからである。一対一、一体多、多対多など様々な形式で剣奴に戦わせる。どちらかが降参あるいは戦闘不能となったら終了だ。不殺といっても武器の刃引きはしないので死人は出る。ちなみに、死者が出た場合のペナルティーは無い。

 マンセル村から去った後、ザインは剣奴として腕を磨いていた。彼のファンは大勢いたが、その存在が大陸中に響き渡る事件が王国歴225年の真夏に勃発する。それは彼の復讐の狼煙であった。

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