第7話魔蟲の将 其の二
村長宅には村の長老衆とザイン、そして彼の父がケグンダートとの会談に同席することが許されていた。会談の結果がどうあれ、村の今後に大きな影響を及ぼすに違いないのだ。村長一人というわけにはいかないだろう。
ザインはケグンダートの細かい質問にも答えられるように、そして未だにショックから抜け出せない彼を支えるためにその父を呼んだ。
「ケグンダート様、こちらへ。」
「失礼する。…ん?」
二人の共を外で待機させて村長宅に入ったケグンダートは、会談に参加する者達とその人数についての説明を予め受けていたので問題はない筈なのだが、彼は入り口でザインを凝視したまま立ち尽くした。
「どうかされましたか!?も、もしや誰かが無礼を?」
「い、いや。何でもない。では、早速話を聞かせて頂きたい。」
村長はザインから聞いた白竜と勇者の戦闘と、その経緯をケグンダートに語って聞かせた。ケグンダートが疑問に思ったことはザインが逐次答える形式をとった。
彼の質問は多岐に渡った。特に勇者とルクスの戦闘についてかなり細かく聞かれた。勇者は自分達にとって脅威に成り得る存在自体だからに違いあるまい。そして、ケグンダートの最後の質問はザインが意図して村人に隠した内容であった。
「少年では最後の質問だ。その五人の下手人は瀕死の白竜の何を奪った?」
村長達はギョッとしてザインを見つめている。話すのもおぞましく、あの光景を思い出したくも無かったが、ザインは震える声で正直に答えた。
「鱗と殻、血、太腿の太い骨、角。最後は…眼。」
村人は顔面蒼白になり、ケグンダートは納得しつつも怒りに震えているようだった。
「ありがとう。よくわかった。村長殿、我は二日後の正午、もう一度ここに参上する。それまでに村の意向を固めておいて貰いたい。…それと少年。」
席を立ったケグンダートはザインの前に立つとしゃがんで目線を合わせてから頭を撫でた。
「汝は白竜からその力を授かったのだ。ならば白竜の分も生き、笑わねばならん。それが彼の竜の意思だ。強くなれ。…では、失礼する。村長殿。」
「は、はっ!」
そう言うと話は終わったとばかりに出口付近で村長を待っている。慌てて立ち上がった村長に先導させて村人の怯えを少しでも和らげようという心遣いだ。
ケグンダート達を見送った後、自宅に帰った村長を待っていたのは非常に重々しい空気であった。父祖の代より自分達を守護していた白竜ルクスの壮絶な最期を知ったのだから当然の反応だろう。
「さて、皆の衆。彼の御仁は明後日にまたいらっしゃる。儂らは村としての方針を決めねばならん。主らの忌憚なき意見を聞かせて欲しい。」
白竜ルクス亡き後、村の守護者を人間に任せるのかそれとも魔族に頼るのか。普通に考えれば同族である人間、つまり王国に救援を求めるのが正解だ。しかし、自分たちにとっての土地神であったルクスを殺し、あまつさえその体を切り刻んで持ち帰ったのが『高潔な』はずの勇者であったこと、そして蟲人であるケグンダートが堂々としつつも礼儀正しい『高潔な』武人であったことが村人の決定を後押しした。
ケグンダートが村を出てから一時間もたたないうちに、マンセル村の住民は満場一致で魔王の庇護を受けることを決定した。そしてその決定が、マンセル村の行く末を決定的にしたことをまだ誰も知らなかった。
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