第4話 10年後……

 俺が10歳頃に魔法実験を受けて、10年がたった。


 俺の体は、まるで時が止まったように、あの頃のままだ。


 成長すらせず、左手はなく、目は真紅に染まっている。左足は満足動かせず、車いすは絶対に手放せない。


 髪も真っ白に染まり、体には変な模様が浮かび上がっている。これでは、俺が人間でないと分かってしまう。特に、目が赤いのはいけない。人間の目が赤い奴は一人もいない。魔族だとすぐに分かる。


 俺は色つきの眼鏡をかけて、フードつきのローブを着て過ごした。陰気くさい、魔法使いのように。


 俺の生活は、あのころから一変した。


 研究所にあのままいれば殺されると思ったので、慣れない目と体を使って、必死に逃げた。一緒にいた仲間や子供たちを助けたかったが、目を合わせれば人が死んだので、俺は一人で逃げなければならない。


 近くにあった魔導式の車いすを使い、なんとか研究所を抜け出した。拘束用の奴隷首輪が邪魔したが、俺が魔力を込めると簡単にはじけ飛んだ。


 全世界に追われる身となったが、自由は手に入れた。自由とは呼べないような、自由を。


 逃げる時、必要な物資を研究所から出来るだけ持ち出した。時間が無かったので適当だったが、体を隠せる服もいくつか車いすのサイドバッグに詰め込んだ。


 ちょうど手術室には魔導式の車椅子があったので、逃げる時に役立った。レバーを倒すだけで前進、後退、左右への移動ができる。ちょっとした悪路も走れるので、俺はその魔導式車椅子を使い、遠くに逃げた。魔力がある限り動き続けるので、俺の魔力を使って走り続けた。


 どこかは分からないが、山奥の洞窟に身を隠し、転々と居場所を変えながら10年逃げた。逃げている間は、魔力の訓練を魔物を相手にしたり、盗賊を襲って全滅させたりした。追ってくる騎士団を壊滅させたりもした。


 出来るだけ人里に近づかず、山や森で盗賊と騎士を襲い、食料や金を奪った。小さな村では騎士もいないし結界もないので、そこで必要な物資を調達した。


 10歳の小さな子供でも、魔力は上級悪魔並み。毎日戦いに明け暮れた。


 俺は研究所を抜け出してから、本当の地獄を見た。自由という地獄を。

 

 あっという間に10年が経ち、つい最近だ。魔眼の制御を完全に出来るようになったのは。


 このおかげで、俺は魔力を最小に抑えることに成功した。街へ入るときの魔力防衛線を超えられるようになったのだ。


 魔力防衛線とは、魔物を防ぐための結界である。人間と認識しない魔力をはじく性質がある。


 俺はこの魔力防衛線の魔力波長を解析し、人間と偽ることに成功したのだ。


 俺はようやく、街で寝泊まりできるようになったのだ。


 盗賊団を倒して金もある。魔導式車椅子も新しく新調した。色眼鏡をかけているし、カツラもかぶっている。人間には、体の悪い子供と思われているだろう。


 思えばこの時からだ。人間への復讐心を思い出したのは。


 今まで放置していた親兄弟を殺す。殺しても何にもならないが、殺してやる。


 人買いも殺す。あいつらがいるせいで、罪もない人たちがひどい目に合う。


 研究所では良い生活は出来たが、あそこは必要ない施設だ。研究所の人たちは親切で優しかった。本当はやりたくないと言っていた。なので、施設を壊して回ろう。

 

 俺は人間の街へ入って、多くの人間を見て、ようやく復讐心を思い出したんだ。


 俺が住んでいた場所は分からない。売られた時は子供だったので、場所が分からない。名前も知らない。いつか必ず探し出して殺してやるが、親は後だ。


 まずは、このクリシュナ王国の王都に巣食う奴隷商人ども。


 殺しつくしてやる。また、それを容認する政府の要人もだ。俺には力がある。


 どうせいつかは破滅する。俺は勇者に殺されるんだ。悪魔だからな。それまでは好きなように生きてやる。


 俺は、街に入れるようなったその時、20歳を迎えたその時に、そう誓った。




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