第2話 魔法実験は死刑と同じ

 5歳時に、俺は両親に売られた。


 魔法実験の贄として。


 人買いに売られ、馬車でクリシュナ王国の王都に連れられて行った。目が見えないので、俺はよく誰かに話しかけたし、いろんなものを手で触ったりした。


 下手なものを触って殴られたりしたが、構わなかった。そうしなければ俺には理解するすべがないのだから。


 人買いの話によると、人体を使った魔術の研究所に売りさばかれることになった。一緒に馬車に乗っていた子供も、俺と同じように研究所に引きと取られるらしい。


 5歳の時は難しい話でよく分からなかったが、人体の延命や、魔法権利の獲得。臓器売買をする場所とのことだった。


 子供ながらに俺は悟っていた。魔法実験などの、難しい話の内容ではない。


 俺は、長くは生きられない。


 大人になる前に、死ぬ。


 一緒に乗っている馬車の子供と同じように。


 

★★★



 研究所で引き取られてからは、俺は目が見えないので特別扱いだった。


 車いすに乗せられ、研究員の誰かに面倒を見てもらった。それは束の間の幸せで、初めて誰かに親切にしてもらった。


 風呂で体を洗ってもらった時は、王様になった気分だった。


 いろいろな検査を受けた結果、俺には魔法を使う素質があるらしい。


 本当に、ごく微量だが。


 俺はその魔法の素質のおかげで、10歳まで生きられることになった。


 理由は、魔法実験に耐えられる精神と肉体を作る為。


 もしも実験が成功した時のことを考えれば、何も考えられない馬鹿な実験体では意味がない。それなりの教養が必要だ。


 10歳まで生かすのは、そのための措置であった。


 孤児を養う金は大した額じゃない。粗末な服に、最低限の食事。きちんとした運動をさせ、一日数時間の魔法勉強。簡単な軽作業もできるし、施設維持の金を稼ぐこともできる。


 俺と同じような障がい者はたくさんいたので、研究所には孤児院が作られていた。


 俺はその孤児院で、10歳の実験日(処刑日)まで安全に生きられることになった。


 孤児院では、殴られず、安全に生活出来る。飯も出るし、体も清潔に保てる。友達もできたが、10歳になった子たちが戻ってくることはなかった。


 ほぼ99パーセント、実験に耐えられず死ぬ。残りの1パーセントは精神崩壊して廃人。


 実験に行った子たちは、「自由になった」と研究員からは言われていた。


 子供ながらに、俺は分かっていたのだ。


 魔法実験は、死刑も同じ。


 死が理解できない子供もいたが、逆にそれは幸せだったかもしれない。10歳まで怯えずに、空腹になることもなく生きられたのだから。


 それでも、俺はここで束の間の休息と幸せを噛みしめていた。


 両親のもとにいれば、毎日罵倒され、馬の糞のような飯を食べさせられる。泥まみれになって、家畜小屋で眠る。


 そんな地獄ような日々を送らなくて済む。それだけにおいては、俺は感謝していた。


 もし最後に願うなら、苦しまずに死にたい。廃人になって生き残り、臓器を売る為にバラバラにされるのは嫌だ。このまま、苦しまずに死にたい。


 俺は、その時が来た。


 自由になる日だ。


 車いすで手術室に向かい、俺は魔水を飲まされる。飲むと気持ちよくなって、眠くなるのだ。

 

 完全に眠ったころには、すでに手術が始まり、起きた頃には終わっている。


 起きれば、廃人。起きなければ、死んでいる。


 俺は、起きたくなかった。


 自由に、なりたかった。


 この体では、両親や兄弟に復讐などできない。俺がもし、健康な人間に生まれ変わったら復讐する。そう誓っていた。


 10歳の子供だったが、すでに心は大人で、俺は死を希望していたのだ。


 それなのに。


 いるのか分からない、この世界の神は。


 俺に対して残酷だった。


 俺は、“起きたのだ”。化け物になって。



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