プラン「S」-2
とある日の夜、広樹が仕事から帰ってから、拓真と広樹はリビングのテーブルにいくつかの紙を広げ、何やら話をしていた。景色のよく見える窓からは涼しく、心地の良い風が入ってきて、テーブルの上の紙の端を弄んでいた。
「これをプラン「S」と名付けた。」
広樹は自慢気な顔で拓真にそう言っていた。
「プラン…「S」?」
拓真は不思議そうに首を傾げている。
「そうだ。まあんまり深く考えないでくれ。俺の気分だ。」
「そう…なんですね。」
やはり拓真は不思議そうにしている。
「さて拓真、おさらいしてみようか。お前のスケジュールは?」
そこで拓真ははっとなりまるで単語の暗記を迫られた高校生のような表情になる。
「あ…えっと…まず自分は深夜二時頃、研究所の裏搬入口に向かいます。それから裏口のロックを解除して、まずはセキュリティーゲートに向かい、全自動警備を手動警備に切り替え、広樹さんが検体第一号を連れて来るのを待ちます。そして広樹さんと検体第一号がゲートを通過したら元に戻し、お二人を乗せてまずは広樹さんを降ろします。」
「あ、降ろす場所はまた後で指定するからな。」
「はい、了解です。それから検体第一号とまずは秋本さんの家を目指します。」
「地図は?」
広樹はそれこそ学校の先生が修学旅行のしおりを確認するように拓真に確認していく。
「これです。」
拓真が射した地図は正解だ。
「そこで秋本さんを乗せます。」
「はい、そこで注意することは?」
「えっと…そうだ、広樹さんのことが大事になっている可能性があるので、検問や職務質問には注意する。」
「グレイト!それから?」
「秋本さんと検体第一号と三人で福岡の菜月さんの家に向かいます。それから、検体第一号を菜月さんの家に預け、秋本さんには検体第一号とそこで検体第一号の生きられるまで思い出を作ってもらう。自分はそれをしっかり護衛する。」
「さすがは俺の見込んだ男だ。動きは完璧。後は、検体第一号に関する資料にしっかり目を通しておいてくれ。お前と…公一郎次第では長く生きられるかもしれない…。」
広樹は公一郎という名を最近あまり口にしていなかったことに気が付いた。それほど疎遠にしていたのに、いきなりこんなことを頼んで受け入れてくれるだろうか。広樹はなぜだろう、公一郎に対して少し距離を置いていた気がする、それはいつからだろう。大学を卒業してから…いや…もう少し前からだったかもしれない。なぜかは分からない。寧ろ公一郎の方が距離を置いていたようにも感じる、どちらにしろ、広樹が公一郎との距離を感じていたのは確かだった。
「あと、これを公一郎に見せて欲しい。」
そう言って広樹はメモリーカードを拓真に渡す。
「これに関してひとつだけ守って欲しいことがある。公一郎に見せるまでは、絶対にファイルを開かないでくれ。パソコンですぐに開けるから、公一郎に見せるまでは、絶対にな。」
「はい、分かりました。」
拓真はしっかりとした返事をする。
「あの、広樹さん。なんでわざわざ福岡まで行くんですか?思い出を作るなら、秋本さんと会ったとこでも…。」
すると、広樹はその質問に一瞬何かを思い出し、窓の外を見つめる。
「ああ…約束…したんだ。」
広樹はじっと外を見つめたまま何かを思い出しているようだった。
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