草林拓真ー3

 あれからしばらく、拓真と広樹は警備隊員から小学生のような嫌がらせを受けることが多くなっていた。ある時、広樹が勤務を終えセキュリティーゲートをでようとした時だった。

「おっと、今はゲート通過禁止時間帯になっています。」

そこに居たのはあの拓真を殴っていた隊員だった。

「何を言っているんだ?今は退勤時間帯のはずだ。俺の時計では後五分あるはずだが。」

「あなたの時計、遅れているようですが。」

そう言いながら隊員はニヤリと不気味に笑う。

「研究室内の時計も同じだったはずだが。」

「さあ。しかしゲートのタイマーは既に通過禁止になっています。申し訳ありませんがお通しできません。」

その時広樹は直ぐにゲートの向こう側にある操作画面の設定が点滅していることに気が付いた。点滅しているということは手動設定になっているということだ。通常ならいじれないはずだが、恐らく警備の権限で勝手にいじったのだろう。まるで小学生のような手口だ。

「悪いが、恐らく設定ミスか何かのようだ。僕は勤務を終えたから帰る。それだけだ。通してもらおう。」

「いいえ、それはできません。それにこの時間帯なら残業の証明書がなければゲートが開きません。」

「後二分ある。これ以上俺をここに留めておくなら、君が俺を勝手に残業させたことになる。俺の上長以外で残業をさせたとなれば、君には何らかの処分が下る。」

「それはあなたの時間管理が出来ていなかったというだけのことです。私には何も被害は及びません。」

隊員は勝ち誇ったような顔で広樹を見下ろしている。

「そうか、ならば明日にでもあの監視カメラで上長にでも確認してもらおう。このゲートのタイマーはいじれても、あの監視カメラの時間まではいじれないはずだからな。どっちが正しいことを言っているのか一目瞭然だ。後一分だな。」

それを聞くと隊員は監視カメラを見て泡食ったような表情になり、急いで操作画面に向かって設定を戻しているようだった。やがてセキュリティーゲートが開く。

「後三〇秒で通過禁止時間となります。お急ぎください。」

通過ゲートから無機質な声が響く。

「はは…おかしいな。間違えて手動設定になっていたようだ。」

隊員はそう取り繕うも顔は悔しさで満ちていた。広樹は振り返らず真っ直ぐとゲートを出て行った。

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