草林拓真ー2

 広樹は耳障りな騒ぎを聞いて実験棟のセキュリティーゲートまで出てきていた。

「おめえふざけんじゃねえぞ!!初日からやらかしやがって!!」

ゲートの前で広樹と同じ年くらいの警備隊員が、高校生くらいの若い隊員を叱っているようだった。

「すいません!初めてで…途中道に迷ってしまいまして!」

「言い訳すんな!」

そう言うと叱っていた方の隊員が頭を下げている若い隊員にひざ蹴りを入れる。すると若い隊員は身体を逸らせるようにして倒れてしまった。

「おら、立て!」

叱っていた方は若い隊員の胸倉を掴み無理やり起こす。

「お前先輩に対する礼儀も教わらなかったのか?もう一度ちゃんと謝れ。俺は使えない新人です。初日から使えない奴ですいませんってな!」

「す…すいまへん……。」

若い隊員は口から血を出しているらしくまともに発音できていないようだ。

「ちゃんと言えよ!」

そんな若い隊員に叱っている方は更に頬に拳を入れ、若い隊員はゲートの角に頭をぶつけて倒れる。その時だった、叱っていた方はようやく広樹の存在に気が付き目を丸くすし、素早く敬礼をする。

「お!お疲れ様です!すいませんが今はここを通過することはできません!」

知らんふりをしているようだが、本人もまずい状況だと理解しているようだった。広樹はじっとその隊員を睨み、黙ってゲートを出る。

「あ!困ります!この時間はゲートの通過は許可された者以外許されていません。」

そう言って隊員は広樹の前に立つ。

「すまないがどいてくれ。怪我人がいる、緊急事態だ。」

「それはできません。許可証、又は緊急通過指示を出して下さい。」

そう言って若い隊員の元に近づかせたくないらしい。

「なら、今ここに殺人未遂犯がいるとして上に連絡を入れてもいいかな。実際怪我人が出ている。」

「いや、殺人未遂って…人聞きが悪いですな。」

「殺すつもりだったのか?意識を失っているぞ。」

若い隊員は頭をぶつけたまま動かない。

「彼は頭をぶつけたようだ。一刻も早い処置が必要だ!君がそこをどかないなら今俺が救急隊員をここに呼ぶ。」

隊員は怯えるような表情で広樹を睨んでくる。

「俺は一部始終を見ていた。やったのは君だ。」

「これは教育ですよ。こいつは勤務初日に遅刻してきたんです。交代時間はもう三〇分も過ぎている!これは許されないことなんですよ!いくらあなたが研究員とはいえ、私達のやり方に口出ししないで貰いたい!」

隊員はもはや意地になってしまっているようだった。

「教育なら人の命を奪ってもいいって言うのか!これで彼が死んだら、その命の責任を君は取れるのか!」

すると隊員は怯むようにゲートから少し退く。その間にも倒れた彼の周辺には血の混じった嘔吐物が広がっていた。広樹は一回り大きい隊員の脇を抜け、倒れている若い隊員の元に行き、脈などを確かめると、若い隊員を安全な体制にし、外傷を調べる。

「頭に傷は無い、しかし嘔吐しているところから、内部に損傷がある可能性がある。直ぐに救急隊員を呼ぶ。」

「そんな大げさな!直ぐに治りますって。手加減したんですから。」

自分の行為がばれたらまずいとでも思っているのか、隊員は焦っている。

「あれのどこが手加減なんだ!思いっきりふっ飛ばしてたじゃないか!!今は命がかかってるんだぞ!ばれてまずいと思うなら君も上司からふっ飛ばされてみればいい!」

隊員はそれ以上何も言わずまずいことになったという表情を浮かべ、じっと若い隊員と広樹を見ていた。広樹は研究所内の救急隊員を直ぐに無線で呼んだ。

 その時だった、若い隊員が薄らと目を覚まし、その眼球が広樹を捉える。

「すいま…せん…。」

「喋るな、楽にしてろ。」

「自分…このまま死んだ方が…。」

若い隊員はそう言いながら目に涙を浮かべている。その表情に、広樹は何か重いものを感じた。

「バカ言うな!こんなクソ上司にやられたくらいで死ぬな!死ぬならもっと良い死に方をしろ!」

そう言うと若い隊員からは一筋の涙が流れる。

「ありが…とう…ございます。」

 それから直ぐに救急隊員はやってきて若い隊員は運ばれていった。幸い大きな損傷もなく、しばらく安静にしていれば治るということだった。これが、広樹と拓真の出会いだったのだ。

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