草林拓真

草林拓真ー1

 それから少しの間、拓真からは申し訳なさからなのか黙って運転をしていた。公一郎もやはり広樹が最後に何を言おうとしていたのか気になってしまうが動画のデータが消えてしまってはどうしようもない。車内の空気は重くなる。

「なあ、草林…だっけ?」

拓真は急に話しかけられてビクッとなる。

「は、はい、草林拓真です…。」

「拓真…か。なあ、そういや福岡に行って何するんだよ。」

福岡に行くと言って出てきたものの、その目的はよく聞いていなかったことに公一郎は気が付いたのだ。

「はい…菜月さんの実家へ行きます。」

「な!?」

時雨の実家と言えば公一郎の実家の隣なのだ。二人は家が隣同士ということもあって幼馴染だったのだ。

「おいちょ!!なんで時雨の実家に行くんだよ!」

「それは…。」

拓真は再び言葉を詰まらせる。

「自分も詳しくは聞いてないんです。行けば分かると言われました…。」

「まじかよ…。」

公一郎は急に憂鬱になった。公一郎は最初の会社を辞めてから実家に連絡さえ取っていなかったのだ。だから会社を辞めたことさえ伝えていない。今実家に帰るのはかなり気まずかった。

「どうか…しましたか?」

「いや、ちょっとな、俺の実家がとなりなんだよ。あんまり実家に帰りたくないんだ。」

「そう…なんですか?」

しかし公一郎には、この状況の中もうどうにでもなれという投げやりな気持ちも出てきていた。

「ああ、いいよ。どうせいつかはちゃんと帰らなきゃならないと思ってたしな。」

「なら…丁度よかったですね。」

公一郎は一瞬拓真を睨むと、拓真はそれを直ぐに察知し、固まってしまう。それを見て公一郎は話題を変えようとする。

「なあ、お前、広樹とはどういう関係なんだよ。」

確かに世話になったと入っていたが、広樹も信頼を寄せるほどだ。そんな細い関係ではないだろうとは思っていた。

「そうですね…広樹さんには色々と助けてもらったり、とにかく自分にとってはどんな上司よりも尊敬できる存在でした。」

拓真は前をしっかり見ながら、しかし何かを懐かしむ様な表情を浮かべ、広樹とのことを話し始めた。

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