必殺!? ワルキューレパンチ!
戦乙女はきゅう子の前に降り立つと、きゅう子を優しく抱きしめる。
その前に、私をぶん投げた事について一言あっても良いのでは? と、思うところはあるのだが、二人が良い雰囲気なので目をつぶろう。
私は寛大だからな!
「何が風邪よ……。心配するじゃない……! 」
「えっ!? あ……ご、ごめんね? 乙女ちゃん。」
そうですよ、きゅう子。私もとっても心配したのです。
だからこうして駆け付けた……いいですね? 私はとっても……とーっても心配したのです。
……戦乙女は、私が何も察せなかった事を、きゅう子に言ったりしないでしょうね?
お、落ち着きません。
「人の屋敷に無礼な奴らだ。これだから星の犬共は気に入らん……! 」
首を捻り後ろを向く。
そこには、眼光鋭く私たちを睨む男。
貴様こそ何だ!? 初対面の相手に犬だとお!? 貴様の方が無礼ではないか!
「兄さん……! 」
……きゅう子のお兄さんであらせられつかまつりましたか!
これは失礼、私、きゅう子……じゃなくて九鬼さんと仲良くさせて頂いております……。
「……兄さん? きゅう子の? 」
何故か訝る戦乙女。
確かに、あまり似てはいないな。髪の色など特に顕著だ。
黒髪のきゅう子に対して、彼は白……いや、灰色か?
瞳も金色で、醸し出す雰囲気も、大人しそうなきゅう子とは似ても似つかない、獣のようなギラギラしたモノを感じる。
だが、似ていない兄妹など珍しくもないだろうに……。
戦乙女は何に納得出来ないのだろうか?
「……まあいいわ。あんた、きゅう子の兄かなんだか知らないけど……妹相手になにしてんのよ!? 」
「口の利き方を知らん奴め……見てわからんか? 躾だ。」
彼はただ淡々と応える。悪びれる様子など一切ない。
冷徹……。
「分かったらそこをどけ……! 俺たち兄妹の……。」
戦乙女の拳が顔面を打ち抜く。
きゅう子の兄は、水切りのように庭を転がり、外壁に激突した。
あっけにとられる私ときゅう子。
だが一番驚いたのは、彼であったのは言うまでもないだろう……。
鼻息荒く、肩を震わせる戦乙女は、どうやら酷くご立腹のご様子。
「うっさいバーカ! 何が躾よ! お兄ちゃんていうのはねえ! お兄ちゃんて言うのは……えー……妹を守るのがー、なんだっけ? ……と、とにかく! 先に生まれてきたからお兄ちゃんなのよ! 」
その通りだ戦乙女! 先に産まれた男児ならお兄ちゃんだ! 後に産まれた男児は弟だ!
……おまえは何が言いたい?
瓦礫の中、きゅう子の兄が不気味に立ち上がる。
彼の身体から湧き出すような青紫の陽炎のようなモノが、彼の背後の景色を不確かにする。
「意味はよく分からんが……はっ! 言いたい放題言ってくれる……! 」
彼は嘲笑するように口元を歪め、こちらを見据える。
「丁度……妹に集る蠅をどうにかしたいと思っていたところだ……! 」
「っ!? やめて! 兄さん! 」
「ならばお前が俺を止めてみろ! ただ、お前の醜い姿をこいつらに見られてしまうがな!? 」
「くっ……! 」
きゅう子は兄の言葉に躊躇う。
自分がなんとかしなければと言う思いと、私が一瞬垣間見た姿を見られたくないと言う思いが葛藤しているのだろう……。
きゅう子の顔が、悲哀に染まる。
そんなきゅう子の頭上に掌をかざし、髪の毛に優しく触れる。
戦乙女は慈しむようにきゅう子の頭を撫でた。
「きゅう子ごめんね? あんたのお兄ちゃん、もう一回ぶっとばしてくるから……! だから明日も……屋上でお昼、一緒に食べよ? 」
「……乙女……ちゃん……! 」
戦乙女は向き直り、きゅう子の兄が睨みあう中、私は思った。
……私だけおいてけぼりだと。
しかし、埋まったままの私には、どうすることも出来なかった。
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