空飛ぶ僕らの夢

 戦乙女にしがみつき、共に空を飛ぶ。

 高所恐怖症と言うわけではないが、流石にこの高さとなると……。

 怖いわけではないぞ? 本当だぞ?

 私は下の景色を見ないように、戦乙女の胸に顔をうずめる。

 ……柔らかい。……軟らかい。……やあらかい!


「ちょっと! いつまでメソメソしてんのよ!? 」

「ひっ!? ごめんなさい! 」


 すまぬ……。

 だが、今だけ! 今この瞬間だけで良い!

 ……甘えさせて下さい。

 今日の一日は、まだ始まったばかりだと言うのに、私は踏んだり蹴ったり。

 自慢の刀身は刃こぼれ一つ無いが、私の心は折れそう……いや、折れた。

 きゅう子の家に着いたらちゃんとする!

 だから……。だから……!


「怒るよ!? 」

「っ!? うあ! あうあうあああ! 」


 弁解しようと必死に口を動かすが、しどろもどろになってしまい上手く喋る事ができない。

 私は、申し訳ない気持ちを、真っ赤になった目で一生懸命に訴える。

 そんな私の顔を見て、呆れたとでも言うように、戦乙女は大きなため息をつく。

 違う! 違うんだ、戦乙女! 私はただ……。


「はあ……もうわかったから、ちょっとブラのホック、外してくれない? 」


 ……何?

 いや……いやいやいやいや! 待て! 待ってくれ、戦乙女!

 確かに私は甘えたい。それは事実だ。

 だ! が! し! か! し! 戦乙女!

 ……そこまではあ……そこまでは、求めてないと言うか……何と言うかそのお……私にはそこまでのサイズは無いし……気にならないと言えば嘘になる……。

 まあなんだ、男の視線がいってしまうのも分かるな!


「な……なによ? じろじろ見て……。」

「……お! 」

「お? 」

「お母さあん! 」


 戦乙女が私に頭突きした。

 痛い! ……もう! 何なのだ!? ぬか喜びさせおって……!

 スパルタか! 貴様はスパルタ教育お母さんなのか!? 飴と鞭が下手くそすぎるだろ!

 

「い……痛いではないか! 」

「バカなことあんたが言うからでしょ!? 羽のつけ根が擦れて痛いから外してって言ってんの! 」


 ……そ、そんな事、今一度言われずとも分かっておるわ。

 えーと……あれだ! 本場仕込みの、ブリティッシュジョークではないか!

 ま、まったくもう……。

 私は、戦乙女が翼を出した事によって、ブラウスの背中に空いた穴に手をいれる。


「んっ……! ねえ、くすぐったいんだけど? 」


 へ! ヘンな声を出すな! 馬鹿者! ちょ……ちょっとぐらい我慢しろ……。

 この体勢では、上手く外せ……お? あ! やったあ! 外れたあ!

 その瞬間、支えを無くし重力に負けた大質量が、私の顔を包む。

 ……やあらかい!


「ふう、すっきりした! それにしても、この鉄くず重いわね。」

「な!? なんだ貴様唐突に! 私は鉄ではなくて神代に飛来した……。」


 不意に再びの頭突き。

 痛っ!? は……刃こぼれしたらどうする!

 

「いつものバカっぽくなってきたじゃない? 」


 戦乙女がからかうように笑う。その笑顔に、私は思わずはにかむ。


「あ……いや、その……。」

「次メソメソしたら、落っことすからね!? 」

「すまん……いや、ありがとう。」


 戦乙女は一際大きく翼を羽ばたかせる。


「飛ばすわよお! 」


 その言葉が終わるか否か、私の身体はあっという間に予想を遥かに超える速度に達する。まるで周りの景色が逃げていくようだ。

 だが、戦乙女よ。少々飛ばしすぎなのではないか?

 勿論、怖いわけではない。あえてもう一度言う、怖いわけではない。本当だぞ?

 ……だが聞いてくれアルトリウス。

 私はもう……ダメかもしれない。

 意識が飛びそうな速度の中、私はかつての友に助けを求めるのであった。

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