駄目な聖剣略して……

 戦乙女に手を引かれ、たどり着いたのは校舎の屋上。

 私たち三人のいつもの場所であり、私たち三人が出会った場所……。

 立ち入り禁止を無視して屋上に出ると言う行為。

 ただそれだけで、少し背伸びをしてイケナイコトをしている背徳感が、普通の女学生になれたような気がして、むず痒くも心地よい。そんな気持ちにさせてくれる場所。

 戦乙女は何かを探るように目を閉じる。


「戦乙女……その……私は。」

「ちょっと黙ってて! 」


 叱責され口ごもる。

 私は、只々、戦乙女の様子を眺める事しか出来ない。

 無力だ……。

 先ほどの事でもそうだ……。

 風邪と告げられ安心しただけの私に対して、戦乙女は何か違和感を覚え、ゼリーから言葉を引き出すことによって、きゅう子に何かあったことを悟った。

 だいたい私はきゅう子の家の場所も知らぬではないか!?

 エクスカリバーよ……。

 友達だ。などとよく言えたものだなっ!?

 私の視界が滲む。

 戦乙女の姿が上手く見えない。

 ははは……上辺だけの言葉で友情を語る私には、当然の報いかもしれないな……。


「見つけたっ! ……って、はあ!?」


 戦乙女は目を開き、私に身体を向けると同時に、すっとんきょうな声を上げた。

 せめて戦乙女の邪魔にならぬようにと声を殺し、子供のようにしゃくり上げながら、ぼろぼろと大粒の涙を流していた私。

 悲痛な胸の内を打ち明ける。


「わ! わだじはあ! ひっぐ……ほ! ほんどにい! とぼだぢだとおぼっでいでえ! 」

「え!? ちょ!? え!? 」


 ……急いでいるのは分かる。

 だが、少しで良い……私の気持ち……いや、私の自分勝手な言い訳を聞いてくれ……!

 戸惑う戦乙女にむかって、私は醜く叫ぶ。


「だ、だじかにい! わだじはあ! づがいでがいないどなにもでぎないダメなぜいげんりゃぐじでだげんだげどお! ふだりのごどがあ! だいずぎ……ぼふう! 」


 いつの間にか、戦乙女が私の前に立っていた。

 彼女は私の頬を両手で挟むようにはたき、そのまま挟み込むように力を入れ、私の顔を歪めると、お互いの鼻先が触れんばかりに顔を近づけ、真剣な表情で私を見つめる。


「うっさい! 」


 ごめんなさい……。


「何言ってるかもわかんない! 」


 私は、本当に友達だと思っていて……。確かに私は、使い手がいないと何も出来ない駄目な聖剣、略して駄剣だけど、二人の事が……大好きです。

 と言っているつもりでした……。


「まあでも……何となくだけど伝わった……と、友達だし?」


 え? 何だって?


「とにかく……あんたはそのまんまで良いの! 本当に馬鹿ね! 」

「……ば、馬鹿とは……酷いじゃないか……ぐす……。」

「黙れ! 聞け!」

「ひいっ! は! はい!」


 怖い……助けてくれ! アルトリウス!


「私もきゅう子も……なんて言うのかなあ? 過去の後ろめたい事……? みたいなモンが少なからずあんのよ! でもねえ!? 何も出来ないくせに自信満々で馬鹿なあんた見てると気が晴れると言うか一緒にいて楽と言うかあ……ああ! もう! 」


 戦乙女は顔を赤らめると、一度しか言わないからと強く前置きする。


「私もきゅう子も……あんたの事、大好きよ! 」


 い……戦乙女……。


「あ、ありがどおおお! わだじもずぎいいい! だいずぎいいい! 」 

「あーもー! まあ良いわ! そのまま掴まってて! 」

「……へえ? 」

「飛ぶよ! 」


 戦乙女の背中から美しい白い翼が生えたかと思うと、私たちは、空高く舞い上がった。

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