聖剣×戦乙女×吸血鬼=友達
戦利品のチョコクロワッサンを奴の眼前に突きつけ、私は勝利の笑みを浮かべる。
屋上に吹く風が心地良い。
大気の精霊たちが、私の勝利を祝福していると言ったところか……
くくく……当然だが、今日も私の勝利だ!
「どうだ戦乙女! 私にかかれば、いかにチョコクロワッサンと言えど……」
「あーすごいすごい。さすが聖剣。わかったからそれ、早くちょうだい。」
「ふふふ、よかろう。存分に味わうがよい。」
私の手から、雑な手つきで奪うようにもぎ取り、なれた手つきで包装を開け先端に噛りつく。なんとあさましい事か……腹ペコの獣でもあるまいし、北欧の神が聞いて呆れる。だがまあいいだろう、これが勝者の余裕と言うモノだ!
「うまー。」
弛みきった顔で幸せそうに頬張りおって……
「嗚呼……やっぱりミッドガルはいいねえ。」
その口でよく言えたモノだ。
はるか昔、神兵を集めるために下界に降りたくせに、仕事そっちのけで最近まで遊び惚けていたと言うのだから笑えない。
極めつけに、良い言い訳は無いかと考えた結果、主神の前にフツウノ・ダンシ・コウコウセイと言う一般人を連れてきて、したり顔で言ったそうだ。
『今年のエインヘリヤルのトレンドは、コレ! 』
神界追放はあたりまえである。
むしろ、追放で済んだことに感謝するべきだ。
私が主神なら、ついでに神格も剥奪してやる。
しかし、こんな奴でも私の数少ない友人……哀れむなとは無理があるが、せめてもに慈悲の眼差しを向けてやろう。
「なーにその目? 一口欲しいの? んふふ、あげないよー。」
可哀想な奴よ……
「ち……ちがうよ乙女ちゃん。お、お金お金……。」
良いのです、きゅう子。
それで奴がひと時でも幸せならば、百十六円などくれてやる。そして明日ミルクティーを買ってくれればいい……私はそれだけでよいのだ。
「あー忘れてた。ごめんごめん。」
ハイと手渡され、反射的に受け取ってしまった。だがこれでは……
「ミルクティーはどうなる? 」
「……は? 」
私の! ミルクティーは! どうなる!?
「す、鈴木ちゃん……きゅう子の、一口……飲む? 」
紙パックをもった両手を戸惑いながら差し出すきゅう子。
きゅう子、貴女と言うヒトは……
「よ! 良いのですかきゅう子!? 卑しいようですが……私の一口は大きいですよ!? 」
「自覚あるなら自重しなよ。」
「ええい! 貴様は黙っていろ! 」
茶々を入れるな茶々を! きゅう子の気が変わってしまったらどう責任をとるつもりだ! まあ、きゅう子に限ってそんな事はないと思いますが……。
いかんいかん! ……あ、焦るな……落ち着け……落ち着くのだ……鼓動を鎮めろ……鼓動なんてないけど……イメージ……イメージ……。
私は、恐る恐るきゅう子の顔を窺う。
「ふふ……い、良いよ? ……はい……。」
ミルクティー!
「きゅう子……以前から思っていたのですが、もしや……天使なのでは?」
この可愛らしさと自愛に満ちたきゅう子が、不死者の王の一族とはとてもとても……
「え!? えっと……ち、ちがうよ?きゅう子……吸血鬼……だから……。」
きゅう子の表情がすこし曇る。
しまった……彼女は自分の種族を、あまり良く思ってないのだった……
「きゅう子……あのですね……。」
「えへへ……でも、うれしいな……あ、ありがとう鈴木ちゃん。」
私の言葉を遮り、きゅう子は普段より少し大きな声だす。
私が気を遣おうとしたせいで、優しい彼女に気を遣わせてしまった……
きゅう子……こちらこそ、ありがとう。
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