学校の聖剣伝説

停止中

残念ながらビームは出ません

 人ならざるモノが人の世で生きるためにはどうすれば良いのか?

 人類を皆殺しにする。これは現実的では無い。

 人より強いと言っても、七十億人を相手に近代兵器とやりあうなど馬鹿げている。敵うわけがない。仮に出来たとしても、やがて我々も消えるだろう。

 どこかに隠れながらひっそりと暮らす。こんなのもごめんだ。我々にだって、人と同じように感情がある。

 ならば、木を隠すなら……?

 だから、人に紛れた。

 あるモノは化け、あるモノは隠し、あるモノは模った。

 無論、聖剣と誉れ高き私と言えど例外ではなかった――。


「おい、鈴木……鈴木! ……起きろ! 鈴木エクスカリバー! 」


 担当教師の怒声と共に振り下ろされた教科書を受け止める私……そう、鈴木エクスカリバーです。おはようございます。


「寝込みを襲うとは感心せんな……。だが、まあ良いだろう。して御仁、何かお困りか? 私でよければ話を聞くが? 」

「……いや、いい。はあー……。」


 教師はため息をつくと、肩を落として教壇へと戻る。あの様子、よほどの事であったのか? まるで期待を裏切られたような……。

……もしや!?


「御仁! 」

「……なんだ鈴木? 」

「私は聖剣……エクスカリバー……だが! 」

「……だがなんだ? 」


落胆する教師の顔。

追い打ちをかけるが如く、この真実を伝えても良いものか? 逡巡する答え……。

しかし、真実を偽り続ける事など私には出来ん!


「……び、ビームは出せん! 」

「……わかったから座れ鈴木。」

 

 無慈悲にも教師に現実を突きつけてしまったその時、四時間目の授業の終了を告げるチャイムが鳴った。チャイムが鳴ったと言う事は、すなわち昼休み。ならばこそ、教師の座れと言う指示に従うわけにはいかない。


「悪いが従えない……授業中以外で私を従えたいのならば、私に選ばれる事だ。その時は、勝利を約束しよう! では失礼する。私は購買部でチョコクロワッサンを買わねばならないのでな。」


 身を翻し教室を出てると、投げやりに終了を促す教師の怒鳴り声。

 寝込みを襲えば反射的にビームが出るとでも思ったのだろうか? 

 残念ながら、見当違いだ。

 すまない……期待に副える事が出来なくて……。

 アルトリウス、私は過ちを犯してしまったのだろうか……?


「おい! 急げよ!? 購買売り切れちまうぞ! 」

「悪い悪い! チョコクロ買えるかなー? 」


 物思いに耽る私の横をクラスの男子が追い越して行く。

 まったく……いつの世も男と言う生き物は落ち着きが無いと言うか……。

 しっ、しまった!

 おのれ、蛮族男子共め……! チョコクロワッサンは……!


「私のモノだっ! 」


 ここが三階だろうと構うものか! 私は廊下の窓を乱暴に開け、そこから勢いよく飛び降りた。

 下着を見られてしまうかもしれないが、背に腹はかえられない。

 チョコクロワッサンは……誰にも渡さん! ……んふ、良いダジャレだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る