第16話・会長、邪魔


「わたし!?」


 彼女の得物はレイピア・・・スピード重視の戦闘スタイルだろう。

しかし、七代にも及ぶキャラで改良を重ね極致に至った剣術”月守夢想流剣術”が学生のトップ程度相手にスピードだけ取っても負ける可能性はゼロに等しい。

逆に一騎討ちでは過剰火力と言っても等しいと言わざる得ない。


「あなた正気? 魔法使いがこのわたしを指名する?」

「まぁ、良いじゃないか。 でも、言っておくが彼女はこの学校でも随一のレイピア使いだ。 そんな彼女に勝機はあるのかい?」

「問題ありません」

「はっ、言うじゃない。 良いわよ。 やりましょう」

「彼女の方が良いと思うよ。 ほんとに良いんだね?」


 会長はしつこく無口エルフを指差しながら念を押して来る。

ムッとなったのは俺だけではない無口エルフも同様だ。

鋭い眼差しで会長を見る。


「会長・・・、それは、私が、と言う事ですか?」

「え!? あ、いや、そういう意味じゃないよ。 ほんとに」

「・・・」


 無口エルフの目が見るからに据わっていく。

そして、見るからに会長の顔から冷や汗があふれ出す。


「こ、この話はまた後で話そう。 ね?」

「・・・」


 無口エルフは目を伏せ大きく溜息をつく。


「ま、まぁ、副会長もOKみたいだし始めて貰えるかな」


 会長のその言葉と共に赤髪美少女は、フェンシングの様な構えを取る。

というか、やっぱり赤髪美少女が副会長だったんだ。

対して俺はロッドを左腰に差す様に添え股を開いて腰を落とす。

そして、柄と鞘を離す為に若干捻った後、刀で言う鍔の部分である装飾を親指で押すとカチッという小さな堅い音と共に何時でも抜刀できる状態にする。

見た目ロッド故、周りからは変な構えに見える様で「あいつ何やってんだ」という様な声が聞こえる。


「安心しなさい。 死以外ならあの子が回復してくれるわ」


 副会長の視線が無口エルフへ向けられる。

彼女がそこまで言うぐらいだ。

無口エルフの天術は、学生にしてはかなりの使い手になるのだろう。


「安心した」

「そ、じゃ行くわ、よっ!」


 副会長の身体が前のめりに傾く。

”来る”と俺は判断し”縮地法しゅくちほう”によって彼女よりも先に間合いを詰める。

異世界に転生して初の”縮地法”だったけれど何の違和感なく使え思い描いた通りに副会長のふところへ瞬時に移動する。

彼女は反応する事が出来なかった様だが刃を鞘走りさせた辺りで懐へ踏み込まれた事を察するが所詮そこまで、俺は柄頭えがしらを彼女の脇腹へ軽く叩き込む。

無論、これは列記とした”月守夢想流剣術”の技で『伍乃太刀ごのたち』という。

とはいえ、太刀と銘打っているが抜刀しておらず寸勁すんけい発勁はっけいと同じ特性を持った打撃技だ。

そして、ゲームとの違いは、手加減が出来る事。


「っ!?」


 副会長は、驚きの表情を見せた後、苦痛に歪み膝を付いてうずくまる。

俺は素早く少しだけ抜かれた刃を誰にも見られる事なく鞘へ納める。

余程スピードに慣れた者でない限り、俺が何をしたのか分らない筈だ。

ちなみに開始から彼女が倒れるまで一秒足らずの出来事である。


『・・・』


 会長以下周りを囲んでいた全ての生徒は、俺が何をして副会長が倒れたのか全く把握できず十秒近くの静寂が辺りを包む。

周囲の目からは俺が開始と同時に副会長の横に立ち、逆に彼女が何故かうずくまった様にしか見えない筈だ。


「・・・え? ちょ、え?」

「会長、邪魔」


 いち早く立ち直った無口エルフが副会長へ走り寄る。


「大丈夫?」

「・・・だ、大丈、夫、よ」


 あの技は手加減したとは言え内臓へ相当のダメージがあり、言葉を発する事自体苦痛の筈なのに無口エルフを安心させる為に苦痛に歪んだ顔を上げ無理やり答える。

ちなみに本来の威力だと喋る事はおろか意識を保つ事さえ困難で大概気絶する。


「あ、っ・・・」

「喋らないっ。 診断するからジッとしておいて」

「・・・」


 副会長は、コクッと頷くと正座の様な姿勢で固定させる。

小声で何かを詠唱した無口エルフの両手から淡い緑色のオーラが現れ、彼女の腹部へと添える。


「内出血しているけど痛いだけで大した事ない。 良かった・・・」


 ホッと安心した後に先ほどとは違う魔法を詠唱し、淡い緑色のオーラと共に少し複雑な魔法陣が副会長の腹部へと出現し次第に表情も和らいでいった。


「ありがと・・・」

「ん」


 そして、二人とも立ち上がり無口エルフは定位置に副会長は俺の方を向く。


「気になる事はあるけど、・・・貴方を推薦するわ」

「・・・」


 複雑な気持ちであったが勝負に勝った事でクロとの契約が切れなくて安心した。

俺は特に返事する事なく顔の上下で頷き、それを返答とする。


「ん? まぁ良いけど」

「じゃ、次の挑戦者はいないかい?」

「俺だ」


 厳つい声と共にフルプレートを纏った大柄の男子生徒が人の垣根を押しのけて中央へ入って来る。

その男と交代する様に俺は副会長の方へではなくクロの方向へ向かって歩く。


「ちょ、ローグライトさんどこへ行く気?」

「帰る」

「はぁ? 勝手な事しないでこっちへ来なさい」

「まぁまぁ、良いじゃないか。 どうせ今日はこれだけだし、ね?」

「そうですけど・・・、仕方ないわね。 後日、連絡するし絶対に来なさいよ!」

「了解」


 振り返らず適当に手を振ってクロと共にその場を後にする。

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