第15話・がんば、リントくん

「だいぶ集まった様だね」

「会長、そろそろ始めましょう」


 会長と呼ばれた生徒は、銀髪長髪の美形でヒト族の少年だ。

若干小さめの眼鏡をし、どこか理知的な雰囲気を持っている。

その両隣には三人の美少女と言っても過言ではないヒト族とエルフ族そして獣人の少女が立っている。 生徒会と言っていたしその役員達なのだろう。


「だね」


 会長は彼女達より一歩前に進み周りを見渡した。


「私どもの余興に集まって頂き誠に有難うございます。

私ども第十一生徒会は、課外活動のメンバーを一人募集したいと思い、この場を設けた次第です。 さて、その内容ですが、ズバリ冒険者予備活動であります」

「冒険者予備活動?」


 人だかりのどこからかそういう声が上がった。

俺も含めた大勢が同時に思った言葉と言って良い。


「簡単に言えば、冒険者のお手伝い、冒険者予備軍と言ったところだね」

「冒険者学校の許可の下、一時的に冒険者としての資格を得るという事です」


 赤髪のヒト族の美少女が会長の言葉に付け足すように言った。


「勿論、これは別に私どもだけの特権ではありません。

三学年のAクラスに所属している生徒がリーダーに限り許可を得る事が出来ます」

「ちなみに生徒会って銘打っているけど、これただのパーティー名なんで、そこんとこヨロシク~」


 つまり、生徒会のメンバーで構成されたパーティーなので新たに名前を付けるよりそのまま使っちゃえという事だと、この金髪赤目のネコミミ美少女が言った。


「だから、気負う事はない、遠慮なく申し出てくれ。

ただし、当然だけど条件がある。 一つ目は、Aクラスである事」

「学年、職業は問いません」

「二つ目は、この場で私どもと戦って頂く」

「勝ち負けは問いません。 私どもが満足出来ればそれで結構」

「んで、あたい達四人一人ずつ推薦者を出し、新たに別の場所で対戦して貰うよ」

「そこで勝ち残った者が五人目となりますです」

「以上の事を踏まえて、どなたか挑戦する方はいませんか?」


 会長は人だかりの中に視線を投げる。

ざわざわとしているが誰一人前に出ようとする者はいない。

中には会長と目が合った者は視線を反らす。

耳を澄ますとその原因が分った。

つまり、この四人はこの学校の中でもトップの実力も持つ者達だという事だ。

そんな人たち相手に満足させられるほど腕の自信がないのだ。


 そんな時、聞きなれた声が右の方から聞こえてくる。


「ん~っ、見え、ない」

「ちょ、だからって押さないでよ。 テイラー」

「でも、気になるよ」

「あ、あぁ、あぁぁぁぁ~」


 そんな間抜けな声が人だかりから前方へと飛び出る。

その声の主は勿論リントくんである。


「お、挑戦者だね」

「ぇ、えぇ!?」

「がんば、リントくん」


 困惑声のリントくんとは対象的に彼を押し出した本人が訳も分らず応援している。


「テイラー!?」

「その・・・ネクタイの色は一年生だね。 クラスと名前は?」

「え? えっと、一年Aクラス、リント・アルブレンド、です・・・」

「OK。 条件は問題ないな。 誰を指名する?」

「指名?」

「そ、この四人の中で誰と戦いたい?」

「え? 戦うのですか?」

「そう、戦うんだよ。 で、誰が良い?」

「ぅ、ぇ、あ、えっと・・・」

「誰、誰?」

「えっと、じゅ、獣人のお姉さん・・・」

「ぉ、あたいかい? OK、いいよ。 言っておくけど優しくないよ」


 リントくんは、ネコミミ美少女と対峙すると共に盾を前面に突き出した構えを取る。 ダンジョン内では一度もこの構えをしていなかった。

恐らく、防御を主体とする構えなのだろう。

右手は後ろへ引き剣先をネコミミ美少女へ向ける。

防御と同時にすぐさま反撃出来そうだが大したダメージになりそうにない。


「来ないなら、あたいから、行くよっ!!」


 まさに猛攻、鋭いパンチとキックの襲撃、何とか盾で防いでいるが衝撃を吸収し切れずその都度顔をしかめている。


「ぐっ」


 反撃出来る隙間が微塵もない。

リントくんの身体が少しずつ後ろへ押されている。


「ほら、ほらぁ!」


 鋭い牙を煌かせて無茶苦茶嬉しそうに攻撃をしている。


「うらぁ、うらぁっ!!」

「くっ、腕が・・・」

「ホァッチャァァッ!!」


 深く身体を沈めバネの様に上へと飛び上がりながらアッパーを繰り出すネコミミ美少女は、リントくんの盾を上に弾きがら空きとなった胸部に向けて流れる様な動きでエルボーをする。 その攻撃をまともに受けたリントくんは勢いよく後方へ弾き飛ばされ、人だかりの中へと突っ込んだ。


「ケホッ、ケホッ、ぁぐっ、痛・・・」


 咳き込み肘の当たった箇所を押さえる。

ブレストアーマーを着ているとは言え、まともに受けたし相当痛いだろう。

着ていなかったらこんなものではない筈だ。


「どうした? もう、終わりかい?」


 ネコミミ先輩は、前後にステップしながら指をチョイチョイと動かし挑発する。


「ま、まだまだぁ~!」


 また、盾を前面に押し出し構える。

そして、その体勢のままネコミミ美少女に向けて突撃をする。


「ぉ、お?」


 後方へ左右ステップで体勢を整えようとするがリントくんの突撃がネコミミ美少女に追尾するかの如く突き進んでいく。


「うおぉぉぉぉぉ」

「ちょ、ま」


 恐らく前を全く見ていなかったのだろう。

接触するまで突撃しネコミミ美少女を巻き込んで覆い被さる様に倒れる。


「ぁ、痛った~」

「っっ、あ・・・」


 流石、リントくんである。

倒れた拍子にネコミミ美少女の胸を鷲掴みしている。

俺の胸を鷲掴んだ時は気付かなかったリントくんでも美少女の大きい胸を掴んでいる事に気付いた様だ。


「すすすすす、すみませんっ」

「ぁははは、良いよ良いよ。 油断したあたいが悪い。

でも、どいて貰えると助かるかな」

「そうですよね。 すいません、でした」


 リントくんがネコミミ美少女の上からどくと続いて彼女も立ち上がり、おもむろにリントくんの肩に手を置く。


「ぇ?」

「って、事でこいつ推薦するんでヨロシクッ」

「あ? ああ、まぁ、良いだろう」

「推、薦?」


 会長の前置きを聞いていなかったリントくんは、この対戦がどういうものなのか全く理解しておらず急かされるまま戦ってしまった様だ。


「ヨロシクな。 リント」

「はぁ、よく分りませんけど分りました」


 リントくんはネコミミ美少女の横へ立つ。


「じゃ、次の挑戦者はいないかい?」

「はい、なのじゃ」

「え?」

「ん?」


 突然、クロは俺の左手を掴み上を持ち上げる。

つまり、傍から見れば俺が手を上げている様に見えるという事だ。


「クロッ!?」

「何事も経験じゃ」

「ぇー」

「キミ、クラスと名前は?」


 こんな面倒な事やりたくなかったのに・・・。


「一年Aクラス、アキラ・ローグライト」

「条件は問題ないな。 相手は誰を指名する?」

「誰、か・・・」


 もうネコミミ美少女を選べない。

残りは騎士っぽい会長、レイピア使いっぽい赤髪美少女、無口エルフ。


「キミは、ロッドを持っている事だし魔法使いだよね。 なら、相手は同じ魔法使いにした方が良いと思うよ」


 つまり、無口エルフを相手にした方がやりやすいと言いたいのだろう。

だが、昨日ちょろっと図書館で齧った程度なので魔法での対抗は難しい。

いや、俺としてはこんな面倒な事には参加したくないし魔法対決であっさり負けるのもアリだな。


「そうそう主殿、負けたら契約解除じゃ・・・」

「ぇえ!?」


 となると無口エルフとは戦わない方が良いな。

何と言っても無口エルフは俺と違い純エルフだろう・・・とすると、天術師(神官)か精霊召喚師となる。

選択科目の授業の際、この無口エルフは教室にいなかった・・・となると精霊召喚術を使えたとしても間違いなくメインは天術だろう。 

この世界の天術は、正直まだよく知らないが治癒魔法だけとは考え難い。

となると、近接戦闘となる。

生徒会の四人はどの程度の実力なのか正直よく分らない。

周囲の反応からしてこの学校の中ではトップの実力なのは間違いない。

俺の剣術がどこまで通用するか・・・。

盾持ちの会長では万が一がある・・・となると、赤髪美少女が良いか。


「じゃ、貴方で・・・」


 って事で俺は赤髪美少女を指名する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る