第14話・はて? 妙じゃの
「はじめますよ~。 みなさん席に着いて下さいね」
イケメンエルフとの話も一段落した時、扉が開き教師と思われるエルフが入ってきた。 例に漏れず美人である。
たった二十名しかいないこの教室、反して百席以上もある座席という事もあり各々好きな席に座り、ついでとばかり常時召喚型の精霊が術者の隣席に座る。
俺とクロもちょうど良く空いている場所へと座った。
「えーと、アキラ・ローグライトさんね?」
「はい」
「精霊召喚術科目担当の一人、シネリー・ヴェリサルよ」
「一人?」
「あー、えっとね。
選択科目の担当講師のほとんどは私の様に本業を持ってるのよ。
私の場合は、冒険者・・・ていうか、大体みんな冒険者ね。
精霊召喚術の科目担当は、私を含めて三人いるわ。 よろしくね」
「よろしくお願いします」
「はい、じゃあ、アキラさんは、始めての授業だし自己紹介しましょう」
パンッと手を叩きバラバラだった視線を自分へ向けさせる。
「先生。 自己紹介は初日に終わりましたが?」
「みんながアキラさんの事を知らないのと同じ様にみんなもアキラさんの事を知らないでしょう? それに二十二人しかいないのだし、すぐ終わるわよ」
「まぁ、それはそうですが・・・」
「そう長々と自己紹介しろと言わないわ。
そうね。 自分の名前と学年、
じゃ、アキラさんからお願いね。 後の子は同じ様に紹介してね」
指名されたので俺は席から立ち上がり、教室中央を見る感じに姿勢を正す。
「アキラ・ローグライト。 一年に編入して来ました。
よろしくお願いします。 えっと・・・」
「ワシの名前はクロ」
俺がクロの紹介をする前にクロ自身が立ち上がり同じ様に教室中央を見るように姿勢を正す。
「正式にはクロウリー・クロウリーの書、武具精霊じゃ。 宜しく、なのじゃ」
俺とクロは二人揃ってお辞儀をし席へと座る。
「はい、ありがとうね。
ここで少しおさらい。 武具精霊という言葉が出てきたわね。
ストラウドくん説明できる?」
「は、武具精霊とは、過去の英雄が使っていたとされる武器・防具・道具の精霊です。 英雄の対として生まれた存在であり、英雄もまた精霊化していると言われています」
「はい、正解。 少し加えるとしたら武具精霊は、元が無機物という事もありクロさんの様に基本的に常時召喚型の精霊となっています。 また、伝承や信仰そして人による噂に影響されやすく精霊化する前よりも強力になっている事が多々あります。 じゃ、アンネさんから順に自己紹介お願いします」
「はい、アンネ・バンジョーヤ。 三年に在籍。
こっちは、炎の精霊ダイダリアン、
あれ?
この人、日本人じゃないの?
名前もそうだけど、黒髪黒目。 でも、エルフ特有の長い耳があるし勘違いか。
ちなみにダイダリアンは、炎の鷲でアンネが右腕を上げるとどこからともなくそこへ泊まった。
炎だけど燃える事もなく、かなり大型の鳥だけど重さがないみたいだ。
「万象精霊とは何?」
「万象精霊とは、火・水・風・雷・地・光・闇の七大属性どれかに属した自然界の現象が人の信仰などで動物や魔獣の形で具現化した精霊です」
「正解。 人の信仰は、無から有を作り出せるという訳ね。 はい、次」
「ルルオト・オーグランド。 二年に在籍。
こっちは風の精霊エフェリア、
ルルオトの言葉と同時に隣に結構際どい衣装を纏った美人さんが出現する。
「偉人精霊とは?」
「英雄とは別種の元が人の精霊。 生前何かしらの偉業や特異能力を持っていた事から精霊化したと言われてる」
「正解。 英雄精霊と違い精霊化した条件が曖昧過ぎて明確な理由が分らないらしいわ」
「俺のエフェリアは、大陸間戦争時の歌姫だ。 治癒と
「唱歌?」
聞きなれない言葉だ。
女神のお詫びにはなかったと思う。
「二百年ほど前まで多く使われておった軍隊を鼓舞する歌の事じゃ。
才のある者が歌うと傷を癒したり力が増したりしたもんじゃから、古代の人間が魔法へと昇華させたのが始まりじゃな。 今は冒険者の時代という事もあって衰退しておるようじゃな。
ちなみに美男美女が多くての、お主風に言うとアイドルというヤツじゃな」
そう言えば、この学校の選択科目になかったな。
図書室のカテゴリーにもなかった。
「スヴェント・ソラシアン。 二年に在籍。
こいつは地の精霊ベルベント。 自然精霊だ」
スヴェントと名乗ったのはあのイケメンエルフだ。
ま、イケメンと言ってもこの教室内では標準だけど・・・。
そして、横にあのゴーレムが出現する。 最も赤熱化はしていない。
「はて? 妙じゃの」
「・・・何が言いたい」
スヴェントは苛立ちを隠そうとせずにクロを睨む。
「そういきり立つな。 小僧」
「で、何が妙なの? クロ」
「ベルベントと言ったか、お主」
「・・・」
「自然精霊ではないな? 何故、召喚主に隠しておる?」
「自然精霊では、ない・・・だと!?」
「こやつは
「っ。 だ、だが、現にこいつはゴーレムではないか!」
「精霊は人の信仰や伝承であり方が変わるものじゃ。
生前、相手方にゴーレムかと思わせる様な戦い様だったのじゃろう」
「・・・」
「・・・ぼっちゃん、申し訳ありません」
「謝罪などどうでも良い。 何故、黙っていた」
「・・・生前我輩、ただの一兵卒でした。
そんな我輩が何を間違ったのか精霊となり、ぼっちゃんと契約となりました。
生前から英雄精霊とはどういった者か知っております。 ですので、ぼっちゃんにいらぬ期待をさせるぬ為に自然精霊と偽っておりました」
「いるのかいらないか俺が決める。
ベルベント、良い機会だ。 お前の事それをこの場で話せ。 良いな?」
「分りました。
我輩は、バラン大陸の出身でここベリア大陸生まれではありませぬ。
確か今から二百年前でしたか、あの大陸間戦争に一兵卒として参加しましたが、なにぶんそれまで戦闘の経験が余りなかったもので後方支援の部隊へと配属となりました。 こちら側が不利な戦況へと陥ると本体を逃がす為の
「戦友に聞いた事があるわ。 アルクィット浜追撃戦の事ね」
シネリー先生によるとアルクィット浜に敵方の王族と将軍クラスが集結していた所らしく、追撃戦の中でも最も兵が多く投入された地らしい。
詳しくは一般授業で習うとの事だ。
ちなみにシネリー先生は、エルフの森周辺にいる残党の掃討任務についていたらしい。
「アルクィット浜追撃戦に参加していた知り合い結構いるし、もしかしたら誰か貴方の事を知っている人がいるかも知れないわ」
「・・・申し訳ないが我輩が使っていた武具は大量生産の安物、精霊化しているとは到底思えない」
「貴方が精霊化している以上どういう状態であれ武具精霊として存在しているわ」
「先生・・・」
「ええ、スヴェント君の精霊について私の知り合いに聞いてみるわ」
「ありがとうございます」
「いいのよ。 これも授業の一環よ。
では、話が逸れてしまったけど続きをしましょうか。
じゃ、スヴェント君、英雄精霊とは?」
「はい、古代から現在に至るまでのあらゆる英雄の精霊です。
架空の英雄も含まれているという報告もある事から信仰や伝承、噂話までが精霊に影響を与えていると思われます。 また、必ず対となる武具精霊が存在します」
「正解。 よく英霊と略されています。
英霊と契約できるのは非常に稀なケースね。
もしも、精霊召喚術の奥義『精霊憑依』が出来る様になれば強力な武器になるわ。
じゃ、次」
自己紹介はつつがなく終わり簡単な座学をして初めての選択科目の講義が終了し、自分達の教室へと戻り通常授業を受け何事もなく帰宅の時間となった。
その帰りは、クリスが先輩達に会いに行くと途中で別れ為、一人で正門を目指していた所、やけに目立つ人だかりを見つけ覗き見る事にした。
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