第13話・で、この部外者は誰だ?

『クッカッカ、現代での挨拶は愉快になったもんじゃ』

「いや、違うから」

「んぐぐぐぅ~・・・」


 契約したクロを連れAクラスの教室に入ると昨日面々と挨拶を交わした。

その内の一人言わずもがなリントくんは、こちらへ来るなり自分の足で躓きクロを押し倒す様に倒れた。

その拍子にクロの右足首と左手首を掴みゴシックドレスのスカートを物ともせずに中へ頭を侵入させ股間へと頭を埋める。


『小僧。 ワシは精霊ゆえそんな行為に及んでも感じる事はないぞ?』


 クロはこの状況を楽しんでいるかの様にニヤついている。


「うぐぅんぐぐ・・・」

『カッカッカ、何申しておるのか分らんわい』


 笑っている場合ではない。

もうすぐミランダ先生が来る時間だ。

この状況を見たらどうなるのか想像に難くない。

委員長とクリスとアイコンタクトしクロとリントくんを引き剥がそうとする。

そんなにクロのあそこは気持ちが良いのか足首と手首を掴んだ手を放そうとしない。


『こらっ息を吹きかけるでない。 そんな事をしても無駄だと言っておろうが』


 リントくんはスカートの中でナニをしているのやら・・・。


「リン「なんだ? この騒ぎは・・・」来ちゃった・・・」

「誰かこの状況を説明しろ。 それと部外者をここに入れた者は誰だ」


 俺は黙って手をあげる。

勿論、説明する為と彼女の契約者だからだ。


「ローグライトか・・・、で?」

「リントくんのいつものアレです」

「それでは説明になってないぞ、と言ったもののそんな事だろうとは思っていた。 はぁ~」


 ミランダ先生は肩をすくめて盛大に大きな溜息をつくとクロのスカートを掴み上げ逆の手を中に突っ込む。

そして、頭頂部をアイアンクローで掴み上げ、後ろへとリントくんを放り投げる。


「痛っ・・・ぐふっ!?」


 仰向けとなったリントくんの腹に足を乗せ身動き出来ない様にする。


「で、この部外者は誰だ?」


 ミランダ先生は、身だしなみを整えたクロを指差す。


『ふぅ・・・助かったわい。 ミランダとやら感謝じゃ』

「・・・」


 ミランダ先生がイラついているのが手に取るように分る。


「ボ、ボクと昨日契約した精霊・・・です」

「ほう、契約精霊か・・・、そういう事なら仕方ないな。

だが、分っていると思うがもう授業中だ。 元に戻しておけ」

『クッカッカ、ワシは常時召喚型なのでな。 すまんがこのままでいさせて貰う』

「常時召喚型・・・ち、仕方ない。 大人しくしておけよ」

『分ったのじゃ』

「よし、朝礼をはじめる。 自分の席へ戻った戻った。 委員長」


 戻れと言いながらリントくんを踏んでいる足をどける素振りがない。

リントくんに限ってはそのままの体勢で朝礼を受けろという事なのだろう。


「はい。 起立、敬礼、着席」


 足を肩幅程度に広げ後ろで手を組んで少しを顎を上げ教壇の先生を見るという一連の動きがこの世界いやこの学校での敬礼の基本となる様だ。

また、二通りある様で中には、敬礼の掛け声と共に持って来た武器を両手で持ち、刃先を上に持ち手部分を胸の高さまで持ってくるパターンも存在する。

ちなみにミランダ先生は、この一連の流れを省く事がある様だ。


「あー、ローグライト。

今日はダンジョン実習はないがその代わり選択科目がある。

詳しくは委員長か魔法科生に聞け。

それとぼちぼち課外活動の勧誘が始まるだろうから余計なトラブルを起こすなよ。 特にアルブレンド、上級生に対しての変態行為はやめて置け。 いいな?」

「・・・ど、努力、します」

「よし。 自分の席へ戻れ」


 漸くミランダ先生が足をどけて立ち上がる事が出来たリントくんは腹を擦りながら自分の席へと着く。


「選択科目は、昼休みが終わった後の五限目にある。 それまでは通所授業だからな。 それでは朝礼終了だ。 委員長」

「起立、敬礼、着席」



 昼休みが終わる五分前、教室内にいる生徒が慌しく準備を始める。

普段携帯出来ないような長物をロッカーに入れている生徒達が自身の武器を取り出している。


「やっほ、アキラちゃん」

「あ、クリス」


 魔女帽にローブ、ブーツまで黒一色に纏めたクリスが自分の背丈より大きな杖を持って俺の席まで来る。


「確か精霊召喚術だったよね。 教室は違うけど同じ棟だし一緒に行こ」


 選択科目を受けるであろう教室までの間、クリスに魔法棟について教えてもらった。 魔法棟とは試合を除く実技と座学を主に教わる所らしく、学生が使う生半可な魔法ではビクともしない防御結界によって内も外も守られているとの事。

そして、教室と言っても普段の教室とは全く異なり百名以上が座れる広さ・・・つまり、大学の講堂の様な所・・・と魔法の試射などが出来るそこそこ大きな舞台が中央教壇の正面に設置されているらしく、それはどの教室も同じらしい。

また、各魔法に一つの教室が割り当てられ一学年から三学年まで一緒くたに授業を受ける事になるそうだ。

魔法科寮の食堂にいた先輩方は、魔術の選択科目で知り合った人らしい。

渡り廊下を経て魔法棟に入った所で立ち止まる。


「私、一階だから、んで精霊召喚術は・・・、二階の一番奥っぽいよ?」

「二階の奥、ね。 ありがとう」

「いいよいいよ。 じゃ、終礼で」

「了解」


 クリスと別れ右端に設けられた大階段を上り二階へと辿り着く。

そこから奥の教室へと歩いていく。

一階は色んな装備をした生徒でごった返していたが二階はあまり生徒がいない。

確か学校案内の書類によると魔法棟二階は、精霊召喚術、占星術、忍術の教室があり魔法の中でも習得人口の少ないものが集まっている。

その中でも精霊召喚術は、エルフ族にしか習得出来ない事もあって特に少ないみたいである。

この二階ならエルフ族がかなりいるのではと期待したが、そんな事もなくただでさえ疎らな生徒の中でもほとんど見られなかった。

そして、二階一番奥精霊召喚術教室へと足を踏み入れた。

 教室の中はクリスが言っていた様に百人以上が座っても余裕がありそうな広さで教壇前に大きめの舞台があった。

んで、空席が目立つなと一番初めに思った訳だが、教室の中には二十人ほどのエルフがおり俺が入ると一斉に視線が向けられた。

ヒソヒソと話し声が聞こえるのだが、どうもこの二十人ほどが精霊召喚術科目の全生徒の様で授業のチャイムが鳴っていないのに教室のドアが開いてビックリした様子だ。


「見ない顔だけど教室を間違えたのかな?」


 言葉は丁寧だけど表情が少しキレ気味なエルフの少年が近寄ってきた。

俺の身長より頭二つ分身長が高い為、いくらイケメンでも少し恐い印象だ。


『ぼっちゃんの言う通りである。 部外者は早々に立ち去るが良い』


 全身が赤熱化したゴーレムの様な精霊がイケメンと俺との間に突如現れる。

赤熱化しているが間近にいるのも関わらず熱さを感じない。

恐らくは精霊の意思で自由自在なのだろう。

 一般的なゴーレムではなく、人に例えるならばボディビルダーの様な体型をしている。

召喚された形跡がないのでクロと同じ常時召喚型で今まで姿を消していたのだろう。

 ゴーレムは完全に通路を塞いでいる為、ドア付近から中に入る事が出来ない。


『若造、邪魔じゃ。 下がっておれ』


 ゴーレムと俺との隙間にクロが現れ見上げながらゴーレムの精霊を挑発する。


『若造とは、我輩の事を言っているのか』

『それ以外に誰がおる』

『ク、ハハハ』

『クッカッカ』

「精霊・・・、同胞か。 中に入れてやれ」

『ヌゥ・・・』


 通路をあけるイケメンと姿を消すゴーレムをよそに、クロは当然とばかり堂々と中へ入っていくが、逆に俺は日本人の習性か、頭をペコリと下げてから入っていく。


『初めからそうせい』


 相手が道を空けてくれたにも関わらずクロは挑発をやめない。


「ご、ごめんなさい」

「いい。 こちらもすまなかった」

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