第12話・何かイヌネコに付けそうな名じゃな
再び図書館へと入り、彼女達が言っていた禁書エリアがある二階へと視線を向けると、その噂の子が魔導書を持って奥へ消えていくのが見えた。
その格好は制服とは全く違うもので黒を基調として紅いアクセントが目立つゴシックドレスだった。
見た目の年齢は十二・三歳あたりで髪は漆黒を思わせる様な黒髪でドリルだった。
俺はその精霊と話してみたくなり少女の後を追う様に二階へと上り占星術エリア、オリジナル魔法エリアを抜け禁書エリアの前に立つ。
吹き抜け側は明るいが奥には灯りがなく薄暗い。
その薄暗い場所の一番奥に精霊の気配があり、俺は視線を向ける。
『・・・お主ワシに何か用でもあるのか?』
薄暗い奥からヒタヒタと黒いゴシックドレスを着た少女が歩み寄ってくる。
「・・・」
『ほう、ワシが見えているようじゃの? それもはっきりと・・・』
「まぁ・・・」
『ワシは、クロウリー・クロウリーの書、じゃ』
「クロウリー・クロウリーの書?」
『そうじゃ』
少女がふと取り出して見せたのは、禁書指定された魔導書そのもので古代語で『C・クロウリーの書』と書かれている。
それを確認したのが分ったのか瞬きした瞬間に魔導書が消える。
まぁ、つまり、彼女は魔導書(無機物)の精霊という事だろうな。
『で、お主は?』
「アキラ・ローグライト。 精霊召喚師・・・の卵」
『の割にはワシの姿をはっきりと見ておるようじゃが?』
「まぁ、同年代よりは霊力がある方かな」
『つまり、出来ればワシと契約したい、そういう事じゃな?』
「そんなところかな」
『ワシとの契約は簡単ではないぞ。
「読むだけで良いの?」
『そんな訳なかろうて。 読み理解し想像するのじゃ』
つまり、第一章に書かれている魔法を実際に使える状態になれという事か。
普通の人なら困難極まりない事だろうが俺には『同時翻訳』というチートスキルがある。
暗号化された古代語の魔導書だったがチートスキルによって解読され翻訳された古代語は、正直に言って普通(現代魔法)の魔導書よりも読みやすい。
現代魔法の魔導書は、ご丁寧に舞台背景から注釈まである物語で読むのに時間の掛かる代物であったが、古代魔法の魔導書は、要点をまとめた参考書の様なものだった。
読み理解まですんなりと終わり、後は想像するだけだが、ゲームや漫画やライトノベルなどで培った想像力はこの程度屁でもない。
「終わりました・・・」
『・・・え? 早っ!? っとゴホン。 えー流石に早すぎじゃろぅ?』
C・クロウリーの書は同じ棚にある別の魔導書へ手を伸ばしていた所だった。
『ワシは怒らんから正直に申してみよ』
彼女にとってまだ読み終わっていない事が決定しているのか、視線を手に取った魔導書に向けたままペラペラとページを捲り出す。
「いえ、ほんと終わりましたよ?」
『なら、試してやるわい。
心の中で読んだ内容を復唱し、詠唱から発動までを想像してみせい』
第一章に書かれていたのは『サンダーレイン』とこの魔導書に書かれている魔法で広範囲に対しての落雷魔法だ。 巨大の落雷を一つ落とすのではなく、無数の小さな落雷、それこそ雨の様に降り注ぐ魔法だ。
また、自分中心に発動させるのではなく、座標指定してから発動をさせるものでその中に詠唱者がいても見えないバリアで守ってくれるという素敵仕様は備わっていない。
「どうかな?」
『バ、バカな。 理解しておる。 想像も完璧じゃ・・・』
「ところで今読んでる魔道書は何なの?」
『これか? これは魔導書などではなくイセリア・マーキュリーの日記じゃな』
「だれ?」
『古代人じゃしお主が知らなくて当然じゃ。
ちなみにクロウリーのヤツに片思いしておって、この日記にはその思いが綴られておる。 ちなみにこの禁書エリア、だったか? ここの蔵書の内六割は魔導書ではなく日記とかメモ帳だったり現代で書かれた偽物じゃよ』
「そ、そうなんだ・・・」
『ま、古代語読めるやつなんてほとんどおらんからのう。
それはさておき、お主とワシの契約条件は満たされた。
本当に契約して良いのじゃな?』
「うん。 お願い」
『では、対価じゃ。 お主の記憶を共有させてもらおうかの』
「共有?」
『そうじゃ。 お主のその想像力、現代人としては非常に稀じゃ。
お主がどういう人生を歩み、どういう環境で育ったのか興味がある。
それ見せて欲しいのじゃ』
どこまで覗かれるのだろう。
俺はこの世界に来てまだ日が浅い。
地球にいた頃の記憶も共有されてしまうのだろうか。
『心配いらん。 興味があるだけで取って食いはせん』
少女の小さな手が俺の頭へと伸びる。
そして、一秒もしない内に手が放れる。
『興味深い・・・、何とも興味深い記憶じゃ』
この反応からして地球時代の記憶も覗かれているな。
ついでに俺が元男というのもばれたのは間違いない。
「あ」
『・・・ん、なんじゃ?』
「C・クロウリーの書じゃ呼び難いし、名前を付けようよ」
『ん? ワシは何でも良いのじゃが、まぁ、付けて良かろう』
「じゃぁ、・・・クロで」
『何かイヌネコに付けそうな名じゃな。 まぁ、良いじゃろう。
ワシはこれからクロじゃ。 宜しくな。 主殿』
と言ったものの、クロはその場に留まり不思議そうに俺を見上げていた。
「あれ?」
『どうしたのじゃ?』
「いや、契約も完了したし、こうぶわぁってボクの中に入るんじゃないの?」
E/O(ゲーム)では、契約が完了したと同時に精霊の意識が俺の意識の中へ吸い込まれていく演出があった。
勿論、ここは現実なので同じって事はないだろうけど何もアクションがないのはどう言う事なのだろう。
『ああ、ああ、、そういう事か。 ワシは常時召喚型の精霊じゃよ。
本体がこの魔導書じゃしな』
「常時召喚型・・・」
って、常に魔法力(MP)が消費されているという事じゃ・・・。
『心配するでない。 消費する九割の魔法力はこの魔導書から賄っておる。
主殿から供給される魔法力は微々たるものよ』
まぁ、確かに俺の魔法力が減っている感覚がない。
恐らく、俺の自然回復力よりもクロへ供給する魔法力の方が少ないのだろう。
『では、行こうかの主殿』
「あ」
『今度は何じゃ?』
「魔導書の持ち出し禁止・・・」
『なぬ!?』
「大丈夫ですよ」
第三者の声が突然聞こえた。
「司書さん・・・」
声の方へ振り向くとエルフの司書さんが通路からこちらを覗きこんできた。
「こんな夜遅くに人の声がするので気になったんですよ」
「すみません」
図書室の営業時間ギリギリだという事は把握していたのだが申し訳ない事をした。
「いえいえ、これも仕事ですから。
それに彼女の事は私も気になっていたんですよ」
『ほう、お主、ワシが見えるのじゃな』
「ええ。 霊力は高い方なのです。 精霊召喚師としての才能はありませんけどね」
『して、大丈夫というのはどういう事じゃ?』
「あなたが精霊だという事が分ってから、いつかこういう日が来ると思っていました。 ですので、セリナさんから貴方の持ち出し許可が委任されています」
「じゃぁ・・・」
「ええ。 彼女と一緒に行ってください」
「有難うございます。 司書さん」
「いえいえ」
さて、クロは常時召喚型の精霊、つまり、図書館から部屋に入るまでゴシックドレスを着た幼女が館内を歩きまわるという事である。
それはもう多数の好奇な目が俺達に注がれたのは間違いない。
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