第11話・わかる。 わかるよ

「334、ここだな」


 セリナさんに渡された鍵を鍵穴に差し込むと魔方陣っぽいものがドアノブの周辺を囲むがそれだけで普通に回すと呆気なく開き部屋の中へと入る。

入るとそこは寮の一室?と疑うほど広く寮の外見と同じくホテルの一室ほどの広さがあった。


 玄関からの突き当たりに大きめの部屋があり、書棚や学習机っぽいものなどが見受けられるがそれだけで家具がほとんどなく買い足す必要があるかも知れない。

玄関近くには水場が集中していて、トイレ、風呂、洗濯室(手洗い)がある。

キッチンは、突き当たりの大部屋に隣接していてこじんまりしたリビングもある。

また、用途自由っぽい部屋も二部屋用意されており、ここが一人部屋というのが信じがたいところだ。 もちろん、ベランダおよび物干し台も完備している。

ちなみに俺の持ち物は服以外は仕込み杖ぐらいしかないので、この部屋には本当に何もない状態だ。


「さて・・・」


 魔導図書館、この世界の魔法とやらに興味が湧かない訳がない。

それに二ヶ月遅れでの入学だから、基本中の基本的な授業はもうすでに終わっている可能性がある。 その事も踏まえてちょっと読みに言ってみようと思う。



『魔導図書館』


 そう書かれたプレートの横のスライド式のドアを開け中へと入る。


「・・・」


 いや、これ学校にある図書館とかいうレベルじゃないから・・・。

国立図書館だって言われても納得できる広さだよ。

しかも、二階まであるので教員用のエリアを削っているのだろう。


「何かお探しですか?」


 司書と思わしきエルフの男性に声を掛けられる。


「いえ、今日編入して来たので入門書あたりないかなぁと」

「それでしたら各棚のトップとエンドに入門書置いてますよ」


 ほらっと指差した先に棚の端に数冊ずつ確かに置いてある。

各部門で大体六冊前後と言ったところか・・・。


「ありがとうございます」

「いえいえ」


 この世界の魔法の分類は思ったより多い。

『魔術』『天術』『精霊召喚術』『錬金術』『死霊術』『占星術』『忍術』『呪術』

『古代魔法』の九つとなる。 さらにそこにオリジナル魔法が加わる感じだ。

この図書館の恐ろしい所は、そのオリジナル魔法が一つの部門として存在している所だ。

オリジナル魔法は、つまり個人秘匿魔法で門外不出のものなのでここにあるのは、何かしらの方法で露見してしまったものか贈与されたものという事になる。


 取りあえず、『魔術』『天術』『精霊召喚術』『古代魔法』そしてオリジナル魔法から各一冊ずつ計五冊を取りカウンター前に設けられた自由スペースへ持っていく。


 ざっと読んだ感じだが、この世界の魔法について少し分った。

まず、この世界の魔法には基本的に詠唱が必要ない。

魔法についての知識とイメージさえあればワンスペルで発動が可能だ。

なら、習得が簡単というほど単純な話ではない。

一つ魔法を習得する為には文庫本一冊ほどの魔導書を熟読した上でイメージをより鮮明に思い浮かばねばならない。

勿論、理解できなかったりイメージが曖昧だと習得出来ない。

 次に『古代魔法』、全ての魔法の原点でありあらゆる分類の魔法が『古代魔法』に集約されており言うならば総合魔法だ。

じゃぁ、習得するのは『古代魔法』だけで良いのではないかという事になるが、そこまで簡単ではない。

なぜなら『古代魔法』は古代語で書かれているのでそれを解読する必要がある。

ま、俺はそこをクリアしている。

どうやら固有技能の『同時翻訳』が古代語を翻訳している様だ。

それだけではない。

オリジナル魔法は、個人秘匿魔法という事もあり例外なく暗号化されているのだが、その暗号も翻訳(解読)してしまっている様なのだ。

例えば、空間収納魔法は、表向きカバンの歴史から個人見解やら考察などが永遠と書かれているだけなのだが、各所に暗号が仕込まれており、その暗号順に読み進めていくと空間収納魔法の習得方法に辿り着けると入門書に書かれている。

それに翻訳の力が介入すると、注釈として解読結果が淡々と書かれているのだ。

これは実際にテキトーな魔導書で試して確認している。

ま、魔法に関してこんなところだろう。

 取りあえず、『魔術』と『天術』から数冊選んで読破する事にしよう。

初級のものはそんなに分厚くない様だしものの一時間程度で読める筈だ。



 さて、『魔術』からフレイムアローとウィンドミサイルを『天術』からファーストエイドとキュアを読破した後に鍛錬所で実際に試し発動出来る事を確認した。

自分が思っていたよりも集中していた様で気付いたら夜の九時になっていた。

その後、ブティックいや衣服類の購買へ向かいシャツを二着と下着を数点、制服をもう一セット購入した。

そして、少し遅めの夕食となった。


「おーい、アキラちゃんこっちぃー」


 食後なのだろうかクリスは、数名の女性徒と談笑していた。

がっつりとした肉料理が乗ったトレイを持ってクリスの方へ向かう。


「遅めの夕食?」

「まぁね。 図書館で魔導書読んでたらこんな時間に・・・」

「わかる。 わかるよ」


 他の女性徒も「分るわー」と相槌を打っていた。

取りあえず、クリスの隣が空いていたので俺はそこに座る。


「クリスちゃん紹介してよ」

「うん。 今日、私のクラスへ編入してきたアキラ・ローグライトちゃん」


  テーブルへトレイを置き取りあえず会釈した。

俺やクリスとネクタイの色が違う事から上級生なのだという事が分る。


「へー。 クリスちゃんのクラスってAよね?」

「うん?」

「つまり、この・・・アキラちゃんもAクラスに相応しい実力者って訳ね」

「まー、そうなるのかなぁ」

「へー、ちなみに図書館で何を読んでいたの?」

「んんんぶふんぶぶ・・・」


 先ほど、少し大きめのサイズに切り分けた肉を口に入れたばかりだ。

俺は口を抑え必死に飲み込もうと努力する。


「あー、ごめん。 待ってるからゆっくりとね?」

「・・・んぐ、ぷっは。

えーと、フレイムアローとウィンドミサイル、ファーストエイドにキュアかな」

「今日だけで四種類も!?」

「へー、魔術と天術に適正あるんだ?」


 先輩の目がキラリと光った様に見えた。


「ほぇー、集中力あるんだねー。 羨ましいなぁ」


 相変わらずのクリスで安心した。


「でも、確かアキラちゃんって精霊召喚師志望だったよね?」

「そうだね」

「そっちは読まなかったの?」

「基本は読んだけど、それで精霊と契約出来るわけじゃないしね」

「なるほどねー」


 こちらの精霊召喚術(精霊魔法)は、契約形体が定まっていない。

つまり、E/O(ゲーム)では精霊に名前を与える事で契約を行ったが、その文言がこの世界にはないというべきだろうか。

精霊によって対価が様々なのはE/O(ゲーム)と同じだ。

そして、契約後、精霊との信頼関係が大事なのはこちらも同じだ。

違うのは、信頼度が上がりきった後となる。

精霊は信頼しきった召喚師に対して自身の持つ技能を一つプレゼントする。

また、召喚師は、精霊になる前の全盛期の力を持った彼らの力を自身の身体へと憑依させ再現できるようになる。

後、E/O(ゲーム)と違うのは、こちらの精霊は元生物だけではなく無機物も精霊となる。

精霊武具と呼ばれるらしく単体でも強力らしいのだが、それを生前使っていた精霊とセットで契約するとその力は絶大となる・・・らしい。

もちろん、精霊憑依時も同様だ。

また、生物の中には人も含まれており、この世界の過去の英雄達も中にはいるとかいないとか。

結構、この世界の精霊は自由という事かな。


「うふふ、良い事教えてあげよっか」

「「良い事?」」

「誰も信じてくれないんだけどね。 この図書館には精霊がいるんだよ」

「気にしなくていいからね。 この子の妄想だから」

「妄想じゃないし! ヒントはここの制服を着ていない子、そして、禁書エリア」

「時間帯は?」

「二十四時間いつでも!」

「私達も行ってみたけど、結局見つけられなかったし、嘘だよ嘘」

「ふーん」


 俺には契約している精霊がいない。

その噂の女の子が幽霊なのか精霊なのかはっきりしない。

もし、精霊なら契約出来ないだろうかと彼女達と別れた後、図書館へ再び足を運んだ。

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