第10話・・・・な、なにこれ?

 魔法科寮に足を一歩踏み入れると、そこは・・・ホテルだな。

エントランスは広々としており正面に受付カウンターがないという以外は、どこぞの高級ホテルと違いはない。

入り口から入り左手側には、四人掛けのテーブル席が十組程ある喫茶店の他、購買という名の店舗群が並んでいる。

制服やら衣服を扱っている購買なんてまんまブティックじゃないか・・・。

しかも、男女別で店舗が二つ並んでいる。

冒険の役に立ちそうな道具を売っているコンビニっぽい何か・・・いや購買。

杖やら触媒など安っぽいのから高そうなまで揃っている本格的な魔法具店ぽい購買。

外では見られなかったスーパーっぽい食料品を扱った・・・購買。

 み、右は!?

寮母室、管理室、鍛錬場、図書館、ふむふむ、良かった普通だ。

で、次は、食、堂・・・?

せつこ、それ食堂やないレストランや・・・。

えーと後はプー・・・ル、プール!?

はぁ、それに大浴場か・・・なになに天然温泉!?


「・・・な、なにこれ?」

「ははは、外から来たらびっくりするよねぇ? 私も同じ反応したよ。

じゃ、寮母さんに挨拶しよっか?」

「う、うん」


 寮母室、ホテルなら受付カウンターがある位置に丁度ある。

外見での大きさは、分譲マンションの一室並にあるんじゃないかな。

クリスは扉をノックする。


「どうぞ」


 扉の向こうから澄んだ綺麗な声がした。

俺のイメージでは寮母=おばちゃんなのだが、声から察するとかなり若いんじゃないかと思う。


「失礼しま~す」

「失礼します」


 入った部屋は、事務室やら校長室みたいな実用的なレイアウトの部屋だった。

恐らく、後ろの扉の向こうが生活空間なのだろう。


「ようこそ。 アキラ・ローグライトさん」

「は、はい。 よろしくお願いします」


 銀髪ロングで赤目そして尖った耳、つまりエルフのお姉さんが寮母さんらしい。

寮母のイメージを根こそぎ覆したかのような非常に綺麗な人だ。

右手で長い髪を掻き揚げながら俺の書類らしき紙を見ていたが視線をこちらへ向ける。


「セリナさんは、この寮が建築されてからずっとここの寮母さんなんだよ」

「へぇ~」

「ハーフエルフの子とは珍しいわね。 ここが出来てからあなたが二人目よ。

セリナ・ローエングリンよ。

寮母でもセリナでもでも好きなもので呼んでくれて良いわ」

「はぁ」

「まぁ、座って」


 お偉いさんが座るような革張りのふかふかソファーにクリスと共に座る。


「じゃ、早速この寮について簡単に説明するわね。

魔法科寮は名前が示す様に魔法科の生徒が三年間暮らす事になる場所よ。

他の科の生徒をこの寮へ入れる際は、ここで私から許可を取ってね。

地下一階は、基本的に立ち入り禁止。

一階は、公共の施設、ショッピング、それに私を含めた従業員のエリア。

二階は教員用のエリア。 魔法科の教員がこの階に全員いるわ。

三階から四階は、二年生のエリア。 五階から六階は、三年生のエリア。

入学から卒業まで自室の移動はないから安心してね。

そして、七階から八階は一年生のエリアで最上階が展望エリアよ。

全て一人部屋で家具は一通り揃っているけど最低限の物しかないから後で買い足すと良いわ。 バス、トイレ、キッチン、金庫完備、防音防魔ともにバッチシ」

「至れり尽くせりって感じですね」

「一流の冒険者を育てるにはこれぐらいしないとね」

「全員が一流になんてムリですよ」

「それはそうよ。 私達からすればこの中の一割ううん一分でも一流になればそれで良いの。

一つの発見、一つの財宝、一つのダンジョン踏破これだけでも莫大な稼ぎになる。

それこそ一人の一流冒険者で一学年まるまる養えるほどにね。

だから、これは投資なのよ。 あなたはどんな冒険者になってくれるのかしら?」

「・・・」


 神様から貰った一般常識によるとこの世界自体の踏破率は、驚く事にまだ三十パーセントほどらしい。

ちなみに百年と少し前に起きたとされる戦争は、勇者が生まれる筈の大陸の国家連合軍とこの大陸にある(ウルバロス帝国含む)国家連合軍間の戦争の事だ。

つまり、この二つの大陸以外は未踏破であり、それが世界の七十パーセントという事になる。


「あとは・・・図書館だけど、正式名称『魔導図書館』。

つまり、古今東西の魔導書、禁書から個人の研究成果が集約された暗号化魔導書までありとあらゆる魔導書が集まっているわ」

「へぇ~」

「ふふ、顔つきが変わったわね。 興味があるならあとで行ってみなさい。

持ち出しは出来ないけど制限などはないから好きな物を好きなだけ読むと良いわ。

説明はこのぐらいかな? 手を出して」

「手?」


 部屋の鍵を貰えるのだろうか?

俺は右手を彼女へ差し出す。


『かの者は探求と真理を追究する者、必要とするは秘匿の部屋なり。

ルームマスター「334」』

「これでよし。 はい、これ」


 渡されたのは「334」と書かれた鍵だ。

では、さっきの魔法は何なのだろうか。


「いくらでも偽造できる鍵には秘匿性なんてないでしょ?

だから、魔法での施錠(解錠)を付け足したわけ」

「私達の部屋は、魔法の研究室でもあるんだよ。

他人には知られたくない知識や魔法とかない?」

「今は、ないかな」


 こっち(ミリアネス)の魔法、全然知らないし。


「私もほとんどないけどね。 にはは」

「魔法使いの秘匿性とか後々授業で習うと思うわ。 後はこれを見なさい」


 渡されたのは施設利用にあたっての注意事項と書かれた紙だった。


「はい、出て行った出て行ったー」


 クリスと共に寮母室を追い出された俺は、個室があるという三階へ向かった。



「さて、ここが三階。

私の部屋番は311だから左側で、アキラちゃんは334だから右側のアッチね」


 通路を挟んで部屋が配置されており、北側に300から349、南側に350から399。

そして、俺達が上ってきた階段は、通路のだいたい中央にある。

だから、クリスと俺の部屋は階段を中央としたら逆にあるという訳だ。


「んじゃぁね~」


 クリスに手を振り見送る。

ぶかぶかのローブを着てちょこちょこと走るクリスの姿に癒されながら俺は自分の部屋へ向かった。

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