第9話・じゃ~ん、ここが魔法科寮~♪♪

「さて、休憩もこの辺で良いだろう・・・。

出発、と言いたいところだがタイムリミットだ。 戻るぞ」


 この世界にも時間と時計がある。

しかも、地球と同じ一日二十四時間で回る。

さすがにアナログだし秒針もなく時と分だけだ。

それでも日時計や砂時計よりはましだ。

とは言え、貴重なものなので携帯が出来る時計となれば教員しか所持できない。

特例としてパーティーリーダーに実習時のみ貸し与えられるらしい。

上質な武器を買うよりは安く買えるが、そんなものよりも武器、が冒険者だ。

それに壊れやすくドワーフにしか直せないとされている。

そして、ドワーフはエルフと同じく引き篭もりで自分達の集落からあまり出ない。

時計を作ったのは世俗に出てきた僅かなドワーフだと言われている。


 現在のフロアを出てすぐの十字路を右へ行き突き当たりまで進むと半径二メートルほどの魔方陣が床に描かれていた。

これは転移魔方陣らしく、乗って”帰還”と発する事によってダンジョン入り口にまで飛ぶ仕組みらしく、ミランダ先生は全員乗ったのを確かめると即座に発動させた。

ちなみに初級ダンジョンは一階毎にこの魔方陣が用意されているが中級以上は十階毎らしい。


 入り口に戻ると他のパーティーが何組か先に到着していた。

戻ってきた俺達を見て女子生徒は顔を赤らめ、男子生徒はニヤけた顔で俺らを見ていた。 いや、正確にはリントくんヘンタイを見ている。


「おいおい、リント、お前また何かやらかしたのか?」

「ブレザー似合ってるぜ。 リントちゃん」


 そして、明らかな嫌味を行って来る生徒までいる。

嫌味を行って来る一部の男子生徒以外の生徒からもあまり良く思われていない様だ。


「帰ってきてないパーティーはどいつらだ?」

「アルドリッジ班、ジョルジーニ班、メイズリーク班の計三パーティーです」

「そんなにもか・・・。 遅れたらお仕置きだな」


 時間内ギリギリに全パーティーが揃った事で俺の初ダンジョン実習は終わった。

残すは終礼と課外活動のみでそれが終わると寮に戻るだけである。


「面倒だし、ここで終礼するぞ。

お前らも入学して二ヶ月が経とうとしている。

そろそろ、課外活動の勧誘期間が始まるが、ローグライトだけでなく、どういったものなのか理解していない者もいるだろう。 詳しくはこの用紙に記してあるから寮に帰ったら見ておけ。 以上だ。 委員長お前から何かあるか?」


 ミランダ先生が用意していた紙の束を委員長と呼ばれた女子に渡す。


「いえ、私の方から何もありません」


 見た目から委員長と言う感じの女子は、金髪ロングの碧眼をした美しい顔立ちをしており、どう見ても良い所の出だと分る美しい意匠の長剣と鎧で身を包んでいる。

背も女子としては高い為、アキラと同じ様なアーモンド型の眼つきであるが高飛車的な印象を受ける。 まぁ、印象であって、そうではない確率の方が高いが・・・。


「では、後は任せる」

「はい」

「解散!」


 ミランダ先生が去った後、委員長は各パーティー毎に用紙を渡し、最後に俺らのパーティーの方向へ歩いてくる。

ティルをチラッと見た後、少し微笑みリントくんの方を一切見ずに俺の前に立つ。


「はじめまして。 委員長を務めているレイフォン・メイズリークよ」

「こちらこそ、はじめまして。 アキラ・ローグライトです」


 委員長改めレイフォンさんは、平時の印象と違い暖かい笑顔が似合う美人さんだった。


「ティル、これ配っておいてくれない?」


 俺との握手を終えると持って来た課外活動についての紙をティルに渡す。


「ん、分った。 レイ」


 お互い愛称で呼び合うほどだし、仲が良いのだろう。

それに比べ委員長はリントくんを視界に入れようともしていない。

完全な無視である。


「ローグライトさん?」

「はい? あ、アキラで良いですよ」

「分ったわ。 アキラさん、寮にまだ一回も行ってないでしょ?

私のパーティーの魔術師に寮まで案内する様に頼んでおいたから用が済んだら彼女に声を掛けてね」

「分った」


 委員長のいたパーティーの方を見ると視線に気付いたのか三角帽とローブに杖と魔女ルックの女子が笑顔で手を振っていた。

格好からして彼女で間違いなさそうだ。


「じゃね」


 委員長が去った後、ティルが紙を俺とリントくんに渡す。

渡された紙には課外活動についての簡単な概要と、課外活動に参加するかしないかの欄と参加するパーティーの代表者のクラスと名前と自分のクラスと名前を書く欄だあった。

 さて、肝心な課外活動の内容についてだが、要はパーティー単位のクラブや同好会みたいなものと解釈して良い。

活動内容は限定されておらず、何をしてもいい。

校内はもちろん校外での活動も許されている。

校外での活動は、基本的にパーティー単位での鍛錬(冒険)となる。

その際、学校へ申請する事で冒険者と同じ権利を一時的に与えられる。

また、課外活動なのでクラス、学年での縛りがなく自由にパーティーが組める。

しかし、最大五名と決まっているし、代表者が卒業すると共にそのパーティーは必ず解散しなければならないとも書かれている。 

つまり、一年間に限って固定パーティーを許されているが、三年間同じ人とパーティーを組み続けるのは許されおらず色んな人と組めという事だろう。

まぁ、そうは言っても解散してまた同じ人と組むという事も勿論あり得るだろう。


「ふーん。 よし、ボク行くよ」

「ん、また明日」

「おぅ、じゃな」

「また明日~」


 二人に挨拶を交わした後、魔女っ子の方へ向かう。

薄々感じていた事だが、中々のロリだ。

三角帽もローブも杖もどれも彼女の身体のサイズに合わないほど大きくブカブカで、その所為か余計幼く見えるのかも知れない。


「よろ~。 アキラちゃん」

「え、あ、よ、よろしく。 えーと・・・」

「クリスタ・ローゼンダール。 クリスで良いよ」


 大人しそうな顔つきだが、人懐っこくて軽い性格の様だ。

三角帽から時折覗く笑顔も可愛く癒される。


「じゃ、ここにいても仕様がないし寮行こっか~」



 正門を出て街中へと進み、大通りから外れ東の区画へと向かう。

大通りの中心部は、様々な店が建ち並び、少し裏通りに行けば店員達の住居が固まっている。

しかし、隣の寮区画になると大きく一変し、大きな広場の中心には、北と南に一棟ずつ巨大な寮が聳え立ち、それ以外の建物は一切ない。

ちなみにその広場は、寮以外のスペースが公園となっており生徒達の憩いの場となっている様だ。


「じゃ~ん、ここが魔法科寮~♪♪」


 寮の前まで来てクリスが振り返り両手を広げ自慢げに紹介をした。

遠くから見て巨大だと分っていたが改めて近くで見れば、それは一流のホテルと言って良いほどの巨大さを誇っていた。

あの杖と三角帽のシンボルがなければ見間違う自信がある。


「じゃ、入ろっか?」

「・・・うん」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る