第8話・すみません。気付きませんでした

「うぅ、ひどい目にあった」

「まぁ、自業自得だな。 それよりもその格好をどうにかしろ」

「どうにかしろと言われてもどうしたら良いんですか!?」


 股間を両手で押さえながら抗議をしているが、リントくんよりも後ろを歩いている俺は彼の尻が丸見えの状態で目のやり場に困る。

見なければ良い? そんな事は分っているけどチラチラ視界の端に見えて困ってるだよ。

ほんと、どうにかして欲しい。


「・・・」


 リントくんはおもむろにブレストアーマーを外し、何故か股間を隠す為器用に付けていく。


「これで良し」


 何が良しなのだろうか。

確かに前は隠せたが尻の丸見えは変わらない。


「リントくん、これ使って・・・」


 ティルは顔を背けながら彼女の着ていたブレザーを彼へ渡す。

これで大丈夫と思ったのか知らないが、堂々と歩くリントくん。

だが、よく見て欲しい。

女子用のブレザーを羽織り、ブレストアーマーを下半身に装着した少年を・・・。 紛れもない変態だ。


「サンキューな、テイラー」

「・・・うん」


 あまりにも堂々と歩くので気にするのもバカらしくなってきた俺は気にはなるけど気にしない様に心掛けた。

そして、今度こそ順調に進み、下の階へ進む階段を見付ける。

その後、二回の戦闘、三回の宝箱、一回の罠を難なくクリアし、しばらくすると目の前を歩いていたリントくんヘンタイが立ち止まる。


「ストップ。 ローグライトさん」


 彼より前に行きそうになった所で左腕で前を防がれる。


「テイラー」

「ん、ちょっと待って、調べる」


 偶にであるがティルよりも早くリントくんが罠を察知する事がある。

少人数ゆえお互いをサポートし合っていた結果なのだろう。

まぁ、それはそれとして・・・。


「ところでリントくん・・・、いつまでボクの胸をしているつもりかな?」


 そう、左腕で制止されたところまでは良かったのだが、彼の左手は俺の左胸を少し痛いぐらいに鷲掴みしていた。


「え!? うあぁ、すみません。 気付きませんでした」

「・・・」


 それはどういう意味だ?

鷲掴みしておいて気付かない、だと!?


「それは・・・、ボクの胸が気付かないほど小さいと言いたいのかな?」


 俺があえて胸の大きさを濁していたのに、その努力をこいつは木っ端微塵にしてくれやがった。

わざわざしているとまで書いたのにとは是如何に。


「け、決してそんな事思っていませんよ。 ほんとですって」

「じゃぁ、その鷲掴んでいたものは何だ? あぁん!?」

「はい、ストーップ」


 ミランダ先生からリントくんと俺は軽く脳天にチョップを貰う。


「ローグライト、気持ちは分るが熱くなり過ぎ」

「・・・はい、すみません」

「アルブレンド、流石に鷲掴みして気付かないは言い訳にならんぞ」

「ですよね。 すみません」

「謝る相手が違う」

「ごめん。 ローグライト」

「もう、・・・いい」

「リントくん、サイテー」

「ぐふっ!?」


 この際だ、認めよう。

確かにアキラの胸は大きくはない。

前世の好みを理想とするならば、ティルぐらいの胸が良かった。

大き過ぎず小さ過ぎず形の良い円錐型の胸、BからCが理想的だ。

絶壁ではないがその理想から外れたAのは間違いないがは酷すぎる。


「ところでリントくんヘンタイは、どのくらい胸を揉みまくったんだ?」

「揉みまくった!?」

「ボクの胸に気付かないほどなんだ。 さぞかしたくさんの巨乳を揉みまくったに違いないと思うのだがどうだろうか?」

「教えてやろうか?」


 ミランダ先生から思わぬ援護射撃が入る。

Aクラスの担任でもあるから、それぐらいは把握していてもおかしくはないか。


「先生!?」

「凡そで言うと六十件ほどだな。 ちなみにその内五件は私を含んだ教員だ」

「へぇ~、手当たり次第なんだね」

「何度も言うけど、わざと揉んでいる訳ではないですからねっ!」

「そうそう、尻が加わるともう三十件ほど増えるぞ」


 俺の尻が揉まれるのもそう遠くない未来の様な気がしてきた。

そして、俺たちの言い争いの間、黙々と罠を解除していたティルから「よし」という小さな声が漏れる。


「罠、解除できたよ」

「お、そうか。 おしゃべりは終わりだ。 二人とも行くぞ」


 ちょっとしたトラブルを除き順調よく進み、地下五階層まで来る。

ここまでの所要時間約二時間、ダンジョン実習は三時間なので残り一時間しかない。

ミランダ先生の話によるとダンジョン実習三時間の間に地下十階クリアする事で中級ダンジョンへの資格を得るとの事だ。

そして、三回目のダンジョン実習という事もあり、残り一時間でクリアは不可能と判断。

地下五階層、最初のフロアで俺達は休憩に入る。

リントくんは体力切れ、ティルは集中力切れ、ミランダ先生は超余裕。

俺? 体力に関しては問題ないよ。 精神的ダメージは深刻だけど・・・。 


「テイラー、このフロアに罠がないのは間違いないんだな?」

「はい、大丈夫です」

「よし、楽な姿勢で休憩して良いぞ」

「はぁ、もうヘトヘト・・・」


 リントくんは、背中にもたれ掛かりズリズリと腰を下ろしていく。

まぁ、それは仕方ないだろう。 ミランダ先生はともかく、ずっと前線で戦っていたのが彼なのだ。 格好は・・・変だけど。

ティルは、掛けていたメガネを外し、白い布でレンズ部分を拭う。


「よっこいしょ・・・あ」


 ティルが少しジジくさい掛け声で腰を下ろした直後、フロア全体に奇怪な音が響き渡る。


「な、何? この音」

「え、え?」

「またか、テイラー・・・」


 向かって右側の壁中央が綺麗に分かれていき奥に通路が伸びていく。

薄暗いので奥行きがどのくらいあるのか分らない。


「隠し通路?」

「前に言ったよな。 くれぐれも隠し通路を発見するなってな」

「わざとじゃないんですよ?」

「知ってるよ」


 もう諦めてるといった素振りでミランダ先生は溜息をつく。

どうもこの隠し通路は、管理担当の教員用通路らしくこの先にはモンスター管理部屋と宝物保管庫があるらしい。

いわゆるダンジョンに設置・配置する前の一時置き場だ。

基本的に管理担当の先生にしか開けられない様になっているのだが、その辺の過程をすっ飛ばしてティルは、偶然発見してしまうスキルを持っている・・・らしい。

 でも、見た所ティルが何かした様には見えない。 ただ単に座っただけだ。

いや、注意深く見るとティルの足下の一部が凹み隙間から何やら怪しい光が漏れているのが分る。


「何故、起動した?」

「スイッチを押し込んでから管理キーを差し込み魔力を流す仕掛けですね。

んー、何で起動したんでしょうか」


 ティルは仕掛けを見ただけで構造を理解した様だが、起動した理由については本人でさえ分っていないらしい。


「専門家のお前が知らないのに知る訳がなかろう」

「これ何回目なの?」


 二人は”また”と言っていたという事は、今日以外でも隠し通路を発見していた事になる。 俺はそれが気になり目を閉じて座っていたリントくんに聞く。


「僕が知る限り五回目かな。 内二回はダンジョン外って話だよ」

「ダンジョン外で?」

「親父さんの部屋で奥さんにも内緒の隠し部屋を発見したらしい」

「oh・・・」


 もう一回は入学式の日、学校のエントランスに飾られている花瓶を割ったついでに戦時下での利用を想定してある校長室まで直行する隠し通路を発見してしまい初日早々校長に怒られたらしい。


「末恐ろしい娘・・・」

「取りあえず、閉じるからお前達はアッチを向いてろ」


 管理キーを使用しないで隠し扉を閉じるには、特殊なやり方が必要な様で、それは教員以外には秘匿とされ俺達に見せない為にミランダ先生は視線誘導をした後に作業へあたった。


「閉じるの面倒なんだ・・・、本当これっきりにしてくれよ」

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