2.問題児二人

第6話・あれって<自主規制>だよね

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《プロローグ飛ばした方用》

 VRMMORPG『E/O』のプレイヤーだった俺、雨月あまつきあきらは、時代進行を経て三年目のオープンまでもう少しの所で自宅にいながら”不慮の事故”で死んでしまう。

気付いたらすでに異世界へ飛ばされており、その世界の神様と対面する。

曰く、『そっちの神様の手違い不慮の事故で死んでしまったから、勇者召喚のついでにキミもこちらで引き受ける事になったよ。

E/Oだっけ? そのプレイヤーキャラで転生させて上げるよ。 性別変わるけど』

そして、お詫び特典として自動翻訳と一般常識そしてちょっぴりのお金を貰い、異世界の定番、冒険者ギルドへ足を運ぶ。

しかし、ここで衝撃の事実が発覚する。

冒険者になれるのは十八歳から、転生したキャラは十五歳で三年足らない。

そこで受付のお姉さんから冒険者学校を推薦して貰う。

そうして、俺は冒険者学校へ入学し、適性検査の結果、適正優秀者が集まるAクラスへと編入する。

**


「ヨ~シ、ひよっこ共待たせたな」


 ミランダ先生は手に持っていた剣を肩に担ぎ、生徒達の前まで出る。


「先生、おそ~い」

「すまん。 すまん。 Aクラスに編入生が入る事になってな」

『マジ!?』


 Aクラスは、適正の高かった者達の集まりのようで他のクラスより生徒数が極端に少ないようだ。

そんなクラスに編入生なもんで皆一様に驚いている。


「まぁ、落ち着け。 アキラ・ローグライトこっちへ来い」


 早速、呼ばれた俺は第二グランドの中へ入る。

そして、ミランダ先生の横まで歩いていき、正面を向いて愛想笑いをした後に会釈をする。野郎共の「かわいい」とか「結婚を前提にお付き合い云々」の中に「うわっ、エルフだ。 珍しい」という声があった。

ユニ・バロスに来て最初に気になったのがエルフの少なさだ。

ほとんどが人と獣人でエルフを含んだ他種族はほとんど見なかった。

人が20に対してエルフが1という割合ぐらいだ。

Aクラスにはエルフがいない様だ。


「さて、各自の自己紹介は、勝手にやってくれ。 まずはダンジョン実習だ」


 ミランダ先生は、各チームを見回していく。

俺も視線の行き場がなかったので同じ様に見回す。

大体、各四名から五名という構成で前衛後衛がバランスよく配置されている様に感じる。

初級ダンジョンとはいえ、脳筋パーティーで行く事はないようだ。

それはそうとして・・・。


「まぁ、あれだ。 ローグライト、お前はあのパーティーに入ってくれ」


 大体予想が付いてたが、ミランダ先生が指し示したのは二名構成のパーティーだ。

他に二名のパーティーがない事から何かしら問題のあるのだろうなと予想できる。

あの二人がAクラスでも特別に強いという感じは二人の様相から見ても分らない。

一人は、童顔の少年、背は高くもなく低くもない。

装備は、剣と制服に上に革製のブレストアーマーという軽装で手入れが行き届いている様だが品質が良い物という訳ではない様だ。

視線が合うとニコリと微笑む。

もう一人は、メガネを掛けた小柄な少女。

こちらは武器らしきものは一切見えず、制服だけなので防御力が特別高いという訳でもなさそう。

視線は、下でどういう顔なのかよく分らない。

多分、可愛い部類なんじゃないだろうか。


「お前らは、準備が終わり次第、一斑から五分置きで順に入っていけ」


 ミランダ先生は、そう指示した後、俺の背中を押し「いくぞ」とあの二人の元へと向かう。


「あ・・・」


 俺らが彼らの所へ向かっているのに気付いた少年は、笑顔でこちらへ駆け寄ってくる。


「はじめまして、僕の名前はリ「きゃっ!?」え、ぅわぁぁぁ!!」


 リえうわぁぁくんの自己紹介途中に彼の背後から小さな悲鳴と共にドサッと倒れる音がしたと同時に強い衝撃を受け俺は後ろへ尻餅をついて倒れてしまう。


「あ、ッツ・・・、な、なに?」


 痛みで瞑っていた目を開ける。


「!!!???」


 リえうわぁぁくんが下半身モロ出しで二十センチというすごく近い位置に立っていた。

目を背けようにも両手で頭をしっかりと固定されてしまっており身動きさえ出来ない状態だ。

当然、そういう状態なので彼の棍棒が目の前にある訳で・・・。


「あ、え、アレ?」


 状況を掴めていないのかキョロキョロと辺りを見回す。

勿論、俺の現状は変わらない。

というか、これ見る角度によっては、リえうわぁぁくんの棍棒を俺が<自主規制>な訳でマジで放して貰いたい。

変な噂がたってはたまらない。

いや、もう遅いか・・・俺の背後には三十名の生徒がいるし・・・。


「あー、コホン。 アルブレンド、いい加減ローグライトを放してやれ」


 ミランダ先生は、人差し指を下に指し示し、俺の現状をアルブレンドくんに伝える。


「うわぁぁぁぁああ! すみません。 ほんと、わざとじゃないんですっ!!」


 だったら、早く手を放しズボンを上げてくれ。

やっと、アルブレンドくんは手を放してずり下がっているズボンを上へと上げる。


「あ、あれ? な、何で?」


 アルブレンドくんはパニック状態のままズボンを上に上げようと四苦八苦しているが一向に上がらない。


「って、テイラー!?」

「きゅ~~」


 アルブレンドくんが後ろを振り返る。

俺も釣られて視線を向けると、彼のズボンをしっかりと掴んで放さない気絶した少女テイラーさんが倒れていた。

恐らく、躓きこけた際、咄嗟に彼のズボンを掴みそのまま倒れ気絶したのだろう。

倒れた際に何かへしがみつくというのは人の本能として当たり前だろうけど、よりによってズボンを掴むだろうか。

いや、それよりもだ。

アルブレンドくんは、こけた拍子に何で俺の頭を掴むのか理解に苦しむ。

普通は俺に抱きつく・・・それも困るが・・・、ものではないだろうか。


「テイラー、ちょっと、起きてよ」


 アルブレンドくんは、声を掛けたりズボンを掴んでいる手を放そうと悪戦苦闘している。

まぁ、それは置いておいて後ろで不穏な声が聞こえる。


「三人目の犠牲者・・・」

「ねぇ、あれって<自主規制>だよね。 初めて見た」

「くっそぉー。 羨ましいぜ」

「いつもアイツばかり美味しい目に・・・。 代わってくれ!!」


 俺が代わってやるよ。

三人目・・・という事は、やはりそういう事なんだろうな。


「テイラー、起きてよ・・・。 お願いします」

「むにゃむにゃ・・・もう、食べれましぇん・・・」


 そして、まだテイラーさんは起きないようだ。

むしろ、寝ている!?


「はぁ、仕方ない。 起きろっ!!!」


 ミランダ先生は容赦なく剣の柄先で頭部を殴る。

ゴッと鈍い音がした。


「・・・ハッ! あれ?」


 テイラーさんが柄先で殴られた箇所を手で擦る為に手を放した事でアルブレンドくんのズボンから手を放し漸く下半身モロ出しから解放された。


「あ、えっと、はじめまして、ティティルイ・テイラーと言います。

よろしくお願いします。 ティルと呼んで下さい」


 ぱっぱと砂埃を払った後、視線をまっすぐ俺に向け掛けてメガネをクイッと上げてから自己紹介をする。


「よろしく。 ティル」

「はい」


 ティルと呼ぶと嬉しそうに返事を返す。


「彼女は盗賊だ」

「と言っても解錠、罠解除が専門で戦闘はからっきしなんですけどね」


 だからか、今からダンジョンへ潜るというのに一切の武器を持っていないのは。

でも、護身用の武器は必要だと思うのだけどその辺はどうするのだろう。


「盗賊と言ってもダンジョン専門でな。 彼女の家系はその方面で有名なんだ」

「テイラー一家と言えば誰でも知ってますよね」

「えっと、リえうわぁぁ・アルブレンドくんだっけ?」

「はい。 改めてよろし・・・って、違いますよ。 リントです」

「アルブレンドは見ての通り剣士だ」

「テイラーと違って親はただの農家ですし、剣だって学校の購買で買った代物です。 ただ、ちょっと人より剣の扱いがうまい、それだけなんです」

「とは言っているが、こいつには剣と盾の二つも才能がある。

もし、馬を扱えるようになれば立派な騎士となれるだろうな」


 この世界の騎士は、剣もしくは槍と盾を持ち全身鎧で固め馬の扱いも長けたタンク系剣士の事を騎士というらしい。 なのに、盾を持っていない上にブレストアーマーだし剣だけなのは何でなんだろうか。


「ははは、実は剣とブレストアーマーを買うのに精一杯で盾を買うお金がなかったんです」

「よし。 二人についてはそんなものだな。 次はローグライト、お前の番だ。

彼女は魔法科に入る事になっている。 精霊召喚師になりたいそうだ。

だが、適正検査とスキル適正を見させてもらった感じ、現段階だとアルブレンドよりも剣の扱いに長けているという印象だな」

「え? 精霊召喚師になりたいんですよね?」

「ああ、ボクの家は、月守夢想流剣術つきもりむそうりゅうけんじゅつという流派を親から子へと必ず継承する事が決まっているんだ。 だから、剣は人より扱える事を自負しているよ。

でも、母様は精霊召喚師として非常に優秀なエルフだった。

ボクは母様の様になりたいんだ」


 とまぁ、E/Oゲームでの話をこちらの世界風にでっち上げる。

ずっと剣一筋に時間を掛けていたが、せっかくエルフになれたんだから精霊召喚もマスターしたいところだ。


「へぇ~。 お母さんの様になりたい、か、良いね」

「ちなみに、彼女は剣士に負けないぐらい精霊召喚師の才能を持っているぞ。

よし、取りあえず今はこんなもので良いだろう」


 後ろを振り返るとすでに五組ほどパーティーがいなくなっている。

残りは四名のパーティーが二組と俺たちだけだ。


「取りあえず、お前達のパーティーが四人になるまで私が代わりをしてやる」


 男勝りだがどこかテキトウさが醸し出されていた雰囲気は、肩に担いでいた剣を腰に差し直したところで霧散し、リントくんよりも余程頼れる人に見える。


「ところでテイラー」

「はい?」

「銃はどうした?」

「え? あれ? テヘ、忘れました」

「はぁあ、早く取って来いっ!!」


 ミランダ先生は、深い溜息と共にティルを怒鳴った。

あの溜息から武器を忘れる事がよくあるのだろう。 

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