第2話・んじゃ、百万ギランな
「!!・・・ちゃん!!、嬢ちゃん」
「え・・・」
「こんな道端でボーとしてたら馬車に轢かれんぞ」
「あ、すみません」
どうやら神様は、ご丁寧に道のど真ん中へ俺を送ってくれたようだ。
さて、ここはどこだろう。
お詫び特典として一般常識を貰えたが地理はその中に入っていない。
「あの、ここってどこですか?」
「はぁ!? なんだ嬢ちゃんはおのぼりさんか・・・。
どこの田舎から来たか知らねぇが、ここはウルバロス帝国の帝都ロス・バロスの中央大通りのど真ん中だ」
そこまでは聞いていない。
「ま、そんな事より端に寄ってくれや。 そこの御者がさっきから睨んでるぞ」
「あ、すみません」
俺は慌てて道の端へと寄る。
そして、落ち着いた所で周りを見渡す。
目の端に先ほどのおっちゃんが見えたが今は見なかった事にする。
建物の造りは多種多様で木造からレンガ造りまで様々、流石に鉄骨は無いようだけど大半はレンガ造りと見て良い。
また、そのレンガも赤から白、その混成と多用だ。
意匠も様々で統一性がない。
「統一性がないのは、そんなに珍しいかねぇ。
ま、他国から来た旅人は大体そんな顔をしているがな」
「はぁ」
「この国は、まだ建国して三十年ほどの新興国なんだ。
いろんな国家・地域から職人・商人が入ってきて、まぁ、こんな帝都になっちまった訳だがその分、人と物は多様にあるし珍しい物・稀少な物も帝都を探せばどこかで見付かる」
「はぁ、何でそんな事まで教えてくれるのですか?」
「お、やっと、そこに行き着いたか。 これ、極東の島国から仕入れた木刀なんだが土産物にどうだい?」
おっさんは、木造な小さな店先に陳列されていた、どこかで見た事のある形をした木製の反りのある片刃の剣を持つ。
「刀?」
「ぉ、知ってるのか?
この大陸ではここでしか入手できない珍しい武器なんだが・・・」
「本物もあるの?」
「ああ、教えてやっても良いがこれ買ってけ」
まぁ、情報代として買うのは吝かではないが、俺、金持ってるのか?
俺は懐を探す。
神様の特典にはE/Oで手に入れたアイテムは一切含まれていない。
唯一、E/Oから持って来たアイテムが女性用初期装備一式だけで武具や消費アイテムを含んだ一切合財を失っている。
・・・特典にお金が付いていた様で俺は懐から全財産を取り出す。
白金貨一枚、金貨三枚、銀貨・鉄貨・銅貨十枚ずつ、特典から得られた知識から算出して全財産は百三十五万一千百円といったところだ。
中々に持っている。
ちなみに白金貨の上には、天貨と聖貨というのがあり一般的には流通していない。
天貨が一億、聖貨が一千万という感じであるが、果たして使う事があるのか疑問である。
「ぉ、嬢ちゃん、中々金持ってんな。 んじゃ、百万ギランな」
「はぁ!?」
ギランはこの世界のお金の単位。
とはいえ、大半が情報代だったとしても百万はぼったくりにも程がある。
白金貨一枚分ではないか。
「嘘々、そう睨むな。 千ギランだ」
意地の悪い笑顔と共に手を差し出す。
「もう・・・」
俺は手の平から鉄貨十枚を選んでおっさんへ渡す。
「毎度ぉ! んじゃ、その刀なんだがなぁ。 隣で売ってるぜ」
「はぁ!?」
「はっはっは。 これも商売よ」
というか、看板に大きく極東武具用品店と書かれている。
勿論、日本語ではなくこちらの言葉で書かれており、特典の自動翻訳により会話同様に瞬時に日本語へと(脳内で)変換されている。
ま、どっちにしろ。 こんなに大々的に書いていて気付かない俺が悪いな。
「取り合えず、ありがとう。 行ってみますね」
「おぅ!」
「失礼・・・しま~す」
入店した極東武具用品店は、非常に静かな店内で・・・というか、客が一人もおらず閑古鳥が鳴いていた。
カウンターには如何にもという頑固オヤジが陣取り入店した俺を一睨みした。
一睨みしたからといって何もなく、冷やかしに来た客だと思ったのか俺に興味を抱いていない。
客が一人もいないからと言って陳列してある武具がしょぼいと言う訳もなく、ほとんどが一級品だとE/Oで培った鑑定眼が示していた。
しかし、一級品に間違いはないけれど、どれもが普通の武器で聖剣や魔剣の類はほとんどない。
そして、僅かに存在する聖剣・魔剣の類は、E/Oで云う唯一級・叙事詩級に匹敵するものがあった。
「これは・・・すごい」
E/Oの様にはっきりと鑑定出来る訳ではなく、どのくらい凄いかぐらいしか分らない。 勿論、銘なども分らない。
あまり反っていない日本刀の様な片刃の剣、見る角度によって刃の部分の色が白にも黒にも見える。
持った感じ刀身が一メートル五十センチほどあるにしては軽く感じる。
何の属性か分からないが付与されているのは間違いない。
振ってみたい・・・使ってみないと本当の所どういった物か分らない。
「おyっ、うわぁっ!?」
カウンターの方向へ振り向くとすぐ近くそれこそ三十センチも離れていない場所にオヤジさんの顔があった。
そして、ギヌロという擬音語が似合いそうな視線が俺を睨む。
「お前さん、こいつの良さが分るのか?」
「え、まぁ、他の武器も一級品ですけど、これは格が全然違いますし分りますよ」
「人は見かけによらんと聞くが・・・、まさかエルフの嬢ちゃんが・・・な」
「あの・・・、差し障りがない様でしたら試し斬りさせて貰えませんか?」
「試し斬り、だと!?」
「あ、いえ、ごめんなさい。 やっぱり、無理ですよね」
「いや、構わんが、お前さんは刀を使えるのか?」
「はい」
「信じられん。
その鑑定眼から商人かと思ったがまさか使う者だったとは・・・。
カウンターの裏にスペースがあるから使うと良い。 こっちだ」
オヤジさんに案内されたスペースは、試し斬りする様の一本の太い丸太が立っていた。
斬り傷のない全くの新品だ。
この様子では開店してから一人も客が来ていない可能性がある。
俺は中腰になり右脚を前、左脚を後ろへと構え、鞘のない刀を腰の位置に持っていき剣先が後ろになる様にする。
簡単に言えば抜刀術の構えだ。
「その位置じゃ丸太には当たらんぞ。 もうちょっと前に行くと良い」
丸太から二メートルほど離れた丸太に届かない位置で構えている。
「大丈夫です」
神様の言うとおり
俺は目を閉じ集中力を高め、腰を捻り右肩が正面に来る様にする。
そして、一陣の凪が一瞬吹くのと同時に俺は抜刀する動作を行う。
『
月守夢想流剣術の中で最も基本的な技。
本来は『
あ、これダメなヤツだ。
勿論、良い意味で・・・。
刀としての基本能力が高いのは間違いないが、属性を付与された鎌鼬が丸太に命中してえらい事になっている。
その具体的な内容としては、紅い稲妻が走ると同時に丸太を木っ端微塵にし、微塵となった木片を赤黒い炎が炭も残さず燃やし尽くしている。
二属性持ちの刀はE/O時代にもあったが、属性効果が段違いに高い。
使った本人が絶句しているのだから、オヤジさんなんて白目を向いて顎が外れた様に口を開け気絶している。
「えーと、はは、こ、この武器、凄いなぁ~・・・」
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