6/ばっちり合法!(out law)


                    

 リチャード=ジノリは海賊である。異名なまえはまだない。



 紅茶色の髪はけっこう長め。


 瞳は深い夜の海をしている。


 焼けた肌は綺麗な小麦色で。


 首とか腕は丸太のように太い。


 左の腰には三日月刀を呑んだ鞘。


 右の腰にはフリントロックのピストル一挺。


 左の耳には珊瑚のピアス。


 右の頬には刀傷。


 パイレーツコートを肩に羽織って、船長帽をくいっと直す。


 どこからどう見ても、お手本のような“海賊”の出で立ちである。



 それだけの「お約束」を着こなしながら、彼には色々と不可解な事柄があった。

 いや、ものがいつくも。


 ひとつ。まず誰も彼の《海賊船》を見た事が無い。


 ふたつ。なので、彼の海賊団を示すシンボル――《海賊旗》も見た事が無い。


 みっつ。誰も彼のアジトを知らない。


 よっつ。誰が彼の海賊団に属しているかまったく解らない。


 ここが都市なら都市伝説の海賊、とかになっていそうなものである。


 それだけなら。



 それだけなら、彼は格好ばかりの《なんちゃって海賊》なのだが。


 ――困った事に、同業者たちは口を揃えてこう言った。


『解らない事がわからないことがあったら、リチャード=ジノリに訊いてみな。アイツはこの海の事ならなんだって知ってる。

 ……そのジノリ船長がどこにいるかって?

 だからそんなのは奴に訊けよ。海の事ならなんだって知ってんだ、ジノリは!』


 ――更に困った事に、生来の彼を良く知る海の住人達も、口を揃えてこう言った。



『聞いてるだけで夢見心地。の冒険話はキラキラ光る珊瑚みたい! ニンゲンは嫌いだけど、彼は好きよ? だってあんなに優しくて、あんなに面白い話を聞かせてくれるのだもの! ……でも、何度言ってもデートは良くて、その後は駄目なのよね……あの男を独占できる女なんているのかしら?』



 そして最後に、人間も人魚も口を揃えてこう言うのだ。





『この海では、皆がリチャード=ジノリに恋をする』



 /



 ぱしゃん、と桃色の尾ひれが海面を叩く。


 岩礁には胡坐あぐらをかいて、ボトルシップ造りに勤しむリチャード=ジノリ。


 フラメシアの拾った赤子は、いまやどこに出しても恥ずかしくない、立派なアウトローに育っていた。


「……なーんでこうなっちゃったかなぁ」


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