キレイな写真
学校からの帰り道。俺もあかねもたまたま部活が休みになったから、久しぶりに一緒に帰ることにした。
中学のときも部活は別々だったが、終わる時間帯が同じぐらいだったため、よく一緒に帰っていたりしたものだ。
「なんか直くんと一緒に帰るの久しぶりだよね!」
「あー確かに。活動日も活動時間も結構違うもんなー」
「そうだね。……まさか直くんが部活の掛け持ちをするとは思わなかったよ」
少しだけ不満そうにあかねは言う。
まあ、そもそも?俺も掛け持ちするつもりはなかったんたが成り行きでそうなってしまったのだから仕方がない。
「卓球部はわかるとして……なんで将棋部?」
「部活存続のために、人数が必要らしい」
「んーそれなら仕方がないのかな?直くん、本当に優しいよね」
同じ高校に入った同中の友人が眼の前で半泣き状態で懇願してきたら折れるしかないだろう。
俺はその時のことを少しだけ思い出してため息をついた。
ちなみに俺自身は中学時代から卓球部だ。それをそのまま継続する形となっているが、中高どちらも弱小部であり、活動も緩い。
だからかなんとか掛け持ちでもやっていけている。
「そーいうあかねも、結構忙しそうじゃん?」
「そうなの!写真部って意外と活動が多いんだね!」
「あーそれも意外だったけど、あかねはてっきり運動部に入るのかと思ってたから」
あかねは一見どんくさそうに見えるのだが、実は意外と運動神経がよく、中学時代はテニス部でそこそこ活躍していた。
てっきり高校でもテニス部に入るか、別の運動部に入るかと思っていたのだが、そういうわけではなかったので単純に驚いたのだ。
「ソフトテニス部がね、なかったから。硬式はちょっと……それにね!うちの高校の写真部って結構凄いんだよ?コンクールとかもよく入賞してるの!入学前にね、入賞したっていうすごくキレイな写真が飾ってあるのを見てから気になっていたんだよね!なんか透明感?みたいな感じがしてね、あんな写真撮ってみたいなーって思ったの!」
一気にまくしたてる様子に、思わずぽかんとしてしまう。
これまた意外とそれなりに思入れがあって入部を決めたらしい。
あかねは目をキラキラと輝かせている。
んー。なんかちよっと悔しいような。そうでないような。
なにかに夢中になる姿が可愛いと思うのと同時に、置いてけぼり感があって子供じみた嫉妬を感じてしまうのだ。
「あかねにキレイな写真が撮れるといいなー」
あ、これちょっと意地悪な言い方になってしまったと、反省する。
「むう。これから頑張るんじゃないの」
「それもそうだな。ごめんごめん」
少しむくれてしまったあかねをなんとか宥めた。
あかねが頑張りたいことはなんだって応援したいのだ。
「あかねはどんな写真が撮りたいだ?」
キレイな写真って、空とか、水とか、花とかかな?
なんとなくぼんやりとしたイメージはあるが、いまいちピンとこない。
「そうだねー。いろんな写真撮ってみたいけど……一番は直くんかな!」
「……んん?」
思わず変な声が出てしまった。
あかねはキレイな写真が撮りたいんじゃないのか。
少なくても俺を撮ったところでキレイとは程遠いだろうに。
あかねの考えがいまいちよく分からない。
「キレイな写真はもちろん撮れるようになりたいんだけどね。でもわたしは直くんを撮りたい。と、いいますか。直くんと一緒に写真を撮りたいんだよねー!」
とかなんとか。ニコニコ笑顔で言ってくるあかね。
なにこの子。
いや、待って。
つまり一緒に写りたいってことだよね?そもそもじゃあ、あかねが撮るの無理じゃないか?自撮りするってこと、か?
少し混乱してしまい黙ってしまったのだが、あかねもすぐに何かに気が付いたようだ。
「あ!直くんと一緒にってことは、誰かに撮ってもらわないといけないんだ!えぇーどうしよう。誰に頼もうかなあ?」
あーだこーだと本気で悩みだしている様子に、もはや論点がズレていることにさえ気が付いてない。
それでも、あかねの中で俺と一緒に写真を撮ることが大前提となっているのだろう。
なんだろう。
やばい。嬉しすぎる。
単純だと我ながら思う。
すごく嬉しくて、自分でもにやけるのが分かってしまう。
俺はただただ、この緩みきった顔を隠すことに必死になるのだった。
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