ぶらんこ勝負
ギーコ、ギーコ
家の近くにある小さな公園。ブランコとすべり台があるだけの、どこにでもあるような公園だ。
小さい頃よくあかねとこの公園で遊んでいた。
今でもたまに立ち寄ったりするほど、俺たちには思入れ深い公園でもあったりする。
ギーコ、ギーコ
ブランコが揺れるたびに軋んだ音がなる。
ちなみに俺はこの音があまり好きではない。
「……あかね。随分飛ばすんだな」
「えー?だって久しぶりにすると楽しいんだもん!」
そう言ってさらにブランコを大きくこぐ。
ギーコ、ギーコ、ギーコ
ブランコが大きく揺れる度に、軋む音も大きくなっていく。
「直くんも一緒にしよーよー」
「あー……そうだなあ……」
なんとも間の抜けたような返事だと我ながら思う。
思うのだが、仕方がない。仕方がないだろう。
目の前でブランコを立ち漕ぎしているあかねのスカートが勢いに合わせてヒラヒラしているのだから。
正直、目のやり場に困るというものだ。
「――なあ、あかね。スカートの中、見えそうなんだけど……」
ひとまず、親切心で声をかける。
そう。あくまでも幼なじみとしての親切心だ。
「〜〜〜っ!直くんのえっち!!」
酷い言われようである。
あかねは顔を赤くしながらそっぽをむく。ブランコの勢いは若干落ち着いたが、立ち漕ぎを止めるつもりはないらしい。
「……別に、見えても大丈夫なようにしてるからいいの!っていうか、直くん!分かっていて言ってるでしょ?!」
「まあ、そうだな」
「もうっ!」
あかねのスカートの中から、ちらちらと黒いスパッツらしきものが何度か目に入っていた。わかってはいたが、それでも見えるか見えないかのギリギリの感じが、どうしようもなくて、言わずにはいられなかったというところだ。
まあ、この男ゴコロを分かってもらえなかったみたいだが。
「――ねえ、直くん」
「……なんでしょう?」
にっこりと、あかねは笑っている。あれは何かを思いついた時の顔だ。
思わずゴクリと唾をのんだ。
「久々にさ、わたしと勝負しようよ。ブランコで」
「……え。嫌なんだけど」
「なんでそんなこと言うの!?」
何を言い出すかと思えば。
そんな勝ち負けの分かりきった勝負などしたくはない。
「いやーだって、さ。結局勝負って、ブランコから飛ぶやつでしょ?そんなのあかねが勝つの目に見えてるし、嫌だ」
「やってみないとわからないよー!」
確かにやってみないとわからないかもしれない。
しれないが、しかし。
今までの実体験が明らかだ。
あかねのいうブランコでの勝負とは、いかにブランコを大きく揺らして遠くに飛び、着地できるかというものだ。
この勝負を小さい頃から結構な頻度でしていたのたが、俺は一度もあかねに勝てた試しがない。
「わたしも久しぶりだし、本当にわからかいよ?ねーやろうよー」
「んーそうだなー」
どうしてもやる気がでずに、生返事になってしまう。
「じゃあね、勝ったら何でもお願い事を一つ聞いてもらえるっていうのはどう?」
「どうと言われても」
「直くんが勝ったら直くんのお願い事、なんでも聞いてあげるよー!」
その言葉だけを聞くととても魅力的だ。
だがあかねが勝つことがほぼ確定しているような状況で、その言葉になんの意味があるのだろうか。
というか。
あかねはそもそもそうまでして俺にどんなお願い事をしたいのだろうか。
そっちの方が正直、怖いというか、なんというか。
「ねえ、直くーん!」
「……わっかた。いいよ」
「やったー!ありがとう」
嬉しそうに笑うあかね。
別ね、勝負なんてしなくたって、あかねのお願い事はだいたい聞いてあげるんだけどね。
それともよっぽど難しいお願い事なんだろうか?
あかねには理由が必要なぐらいのお願い事?
しょうがない。ちょっとばかり付き合ってあげようじゃないか。
「じゃあ、行くよ!せーのっ――」
掛け声とともに、あかねが高く、遠くへ飛んでいく。
そんなあかねの背中を見て、勝負は決まった。
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