お花見したいな


 ぽかぽか陽気のある日。

 いつものごとく自分の部屋で寛いでいたら、これまたいつものごとくあかねが遊びに来る。

 高校生にもなったんだから、休みの日ぐらい他の友だちと遊べばいいのに、とか思う。


 あ、でも女の子の友だちね。男の子は俺だけでじゅうぶんでしょ、とかなんとか思っちゃったり。


 まあ、そんなこと今は置いといて。

 元気いっぱいにやってきたあかねは、ちょこんと俺の隣に座って、服の端をくいくいと引っ張ってきた。


「ねえねえ、直くん!」

「はいはい、なんですか」

「あのね、お花見したいなーとか思ったりしていますが、どうでしょうか?」


 あかねはにっこり笑って、窓の外を指す。

 部屋の窓からはピンクの花びらが揺られているのが目に入る。


 もうすっかり春なんだなー。

 桜が咲く季節だなー。

 今日はあったかいなーとか。

 そんな感想を抱きつつ、あかねの提案から、お花見もいいよなーって思ったりもした。


「お外、あったかいよー!桜きれいだよー!」


 グイグイと先ほどよりもさらに服をひっぱられる。

 いやいや、そんなに引っ張ると服が伸びるから。


「わかった。わかったから。じゃあ、お花見行こっか」

「やったー!」


 手を上に上げて喜ぶあかねは小さな子供みたいだな、と思う。

 まあ、そんなところも可愛いんだけど。


「あ、そうだ!直くんみてみてー」


 早速出かけようかと立ち上がると、あかねはニコニコ笑顔で少し大きめなカバンを見せてくる。

 いつも愛用しているものより大きいな、とは思うがそれがどうしかしたのだろうか。


「じゃじゃーん! 実はお弁当を作っています!」

「へぇ。準備がいいね」


 普段は結構ぬけていたりするのに、こういう時はなかなか用意がいい。

 俺が行かないと言えばどうずるつもりだったのだろうか。


 まあ、そんなこと言うはずはないし、あかねもそれをわかっていたんだろうけどね。


「なんと!直くんが大好きな唐揚げと卵焼きも入れています!」


 えっへん。と胸を張るあかねに思わず苦笑する。

 あかねがいつも俺にお弁当を作ってくれるときは、必ずといっていいほどその二つを入れてくれている。


「もちろん、あかねの手作りだよね?」

「当然」

「やった。あかねの作るお弁当って美味しいよね。俺、好きだよ」

「もう。そんなの知ってるよ」


 素直に褒めれば恥ずかしいのか、それとも嬉しいのか、えへへ、とはにかんだ笑顔を見せた。

 別に贔屓しているとかではない。

 本当に美味しいのだから、それが食べられる俺は幸せだなあ、って思うだけだ。


「よし。じゃあ、桜を見ながらあかねのお弁当を食べよっか」

「うん!」


 お弁当が入った、少し重たそうなカバンはもちろん俺が持つ。

 それがまた嬉しかったのだろうか「ありがとう」とニコニコしながら言って、俺の横に並んで歩く。

 

 外はぽかぽか陽気。

 桜の花は満開。

 本日は絶賛お花見日和。


 さてどこに行こうか。

 桜並木のある土手か、桜に囲まれた大きな公園か。

 

 まあ、結局のところ、あかねと桜が見られるのならどこでもいいか。

 たぶんだけど、あかねもそう考えているはずだ。


 自惚れなんかじゃない、と思うけど。

 それでもあかねが望むなら、どこにでも付き合いましょう。


 今日も俺とあかねは二人並んで歩くのだ。

 

 本当、俺って幸せだなあ。

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