肉まんと餡まんの間


「究極の選択です!」

「……なにが」




 目の前に突きつけられた肉まんと餡まん。

 幼馴染のあかねが真剣な面持ちで二つの食べ物を見る。

 何が究極か知らないが、とりあえずどちらでもいいから冷める前にありつきたいと心底思う。




***




 それは小腹が空いた夕暮れ時。日中は暖かい日もあるが、それでも太陽が隠れると寒さを感じる。肌寒さを感じて、何か温かいものが食べたいと思い、近くのコンビニに立ち寄った。


 コンビニに入ると偶然にも隣に住む幼馴染と鉢合わせる。


 何やら悩んでいる様子なので声を掛けると肉まんと餡まんどちらを買うか決めかねているとかなんとか。


「とりあえず両方買えば?」

「えっ?」


 レジの前でひたすら唸りながら悩まれると店員にも他の客にも迷惑だろうと思いそう提案する。


 優柔不断なあかねは一度悩み出すと長いから。


 それでも決断しきれないのか眉を寄せる姿にため息をつき、一つ分のお金をあかねに渡した。


「両方買って、あかねがいらない方を俺にちょうだい」

「……うん!」


 それでやっと会計を済ませる。レジの前でずっと待っていた店員がほっと一息ついたのがわかった。


 あかねが会計を終え、肉まんと餡まんが入った袋をそれぞれ片手にさげ小走りで寄ってくる。


 これで一つを渡してくれればそこで丸く収まるはずなのだが、それを決められないのがあかねだ。


 そして二つを見つめては至極真剣に言う。




「これは究極の選択なんだよ」

「うん。わかったから早く決めて」

「決められないから困っているんだよ!」


 最早泣き出しそうな顔をするあかねに呆れてしまう。


 肉まんか餡まんかでそこまで悩む必要が果たしてあるだろうか。いや、ありはしない。


 そしてあかねは一人嘆く。




「ジューシーなお肉も食べたいけど、あまーい餡も捨てがたいよね?!」

「……そうだね」

「ううう。もうわたしには決められない! だから決めてください!」


 ひとしきり叫んで肉まんと餡まんを差し出したあかねは、固唾を飲むように見つめてくる。


 その様にやれやれと首を振り、それぞれを半分ずつ割ってあかねに渡してやった。


「これなら両方食べられるだろ」


 そう言ってやるとぽかんとしたあかねの顔が嬉しそうに笑顔へと変わる。


 始めからこうしてやればよかったのだが、ついつい出来心で暫く黙っていた。我ながら少し意地悪だったか。


 だがそんなこちらの思惑など知るよしもないあかねは本当に嬉しそうな顔をして、見たかった笑顔を見せてくれる。


 あかねの笑顔を見るとこちらまで嬉しくなってしまうのだから不思議だ。


「ありがとう! わたし今凄く幸せだよ!」


 そう言いながら並んで歩き出す。

 あかねの幸せは簡単だね。


「だから直くん大好き!」


 先に餡まんを食べながら幸せそうな顔で言うあかねに苦笑する。


 はいはい俺もそんな素直なあかねが大好きですよーっと。


 俺の幸せも大概簡単なもんだよね。


 ああ、餡まんは甘いな。



 それは少しだけ寒い日にあった、あかねと直人のとある日常。


 春の足跡はもうすぐそこだ。



―――――――――――――――――――――――――

こちらは小説家になろうからの再掲載です。

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