第35話

 魔具が地面に崩れた道を抜け、ピスカたちは街へと戻った。外壁は崩れ落ち、地面は荒れ果て、建物は崩壊している。その中で人々は生気が抜けたかのように虚ろな視線を空に向けていた。その中で見慣れた顔がピスカたちを向いた。

「あんた……なんでここに」

 と、相談役は目を剥いて訊ねた。いつも綺麗に束ねていた髪は乱れ、頬は汚れ、心なしか顔にしわが増えていた。

「玩具で戦っていたんですね」ピスカは淡々と言った。

 きまりが悪そうに相談役は目を伏せた。ピスカは深く息を吸い込み、そして吐き出した。自分の感情を押し殺し、笑顔をつくった。

「おばさんは玩具の扱い方が下手ですね。わたしが教えてあげましょうか?」

 相談役は驚愕した表情でピスカと顔をあわせた。そして、笑い出す。

「うるさいね。あたしはこういうのは苦手なんだよ」

 地面を踏み鳴らす音。大祭司が杖をついて現れた。ピスカに近づき、一度ユイルを見たあと視線をピスカに戻した。そして深く、深く頭を下げた。

「すまない」

 ピスカは唇を小さく噛んだ。俯いて、声を震わせないようにピスカは言葉を吐いた。

「街が、なくならなくてよかったです」

 心を満たしていく感情は、初めて知り、また言葉では言い表せないものだった。

 大祭司は振り返り人々にいった。

「さあ、街をなおそう。エリツヘレムも一からやり直した」

 風に煽られて髪が流れた。空を見上げるとそこには雲ひとつ存在していなかった。光を発する太陽は、今は一つだけになっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る