第34話


 太陽のような輝き。巻き起こる光と風の中でピスカは父上が言った言葉を思い出していた。儀式の真実。そして、感じていた違和感の原因を悟った。

 パン種入りが人間、無酵母パンは玩具を表す。そこまでの解釈は正しかったのかもしれない。けれどそれだけでは十分ではなかった。決定的に足りてなかったものが存在していた。それは、儀式で振りかけた血の存在、それにオリーブ油の存在だ。その血と油こそが、父上が造った魔具とユイルとの圧倒的な差だった。

 血が表す肉体と契約。油が表す魔力の覆い。そして七回振りかけたことの意味。

 そう、この日この時、ユイルが魔具となってから七日が経過していたのだ。

 願い祈れば、祈願となりて祝福を得る。

 ピスカは両手で口許を覆った。そして震える瞳で光と化したユイルを見た。水の流れのように優しく力強い動き、そして閃光のような速さ。背中から流れる光明は、まるで羽のようだった。

 ユイルが剣を降ると、眩い光の粒が雪のように舞った。それに触れた魔具、玩具、そして人々までもが戦う意志を喪失した。剣を下ろし、矢を下げ、矛を落とし、人々はただ光を見つめる。

 突如現れた二つ目の太陽は、大地を揺るがすほどの争いを、一瞬にして終わらせた。

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