第29話

 丘の上を鹿毛の馬が駆け抜ける。足並みは軽く、疾走には喜びが感じられた。

「ねえ、勝手に乗ってよかったのかな?」ピスカが訊ねた。

「走りたそうだったし、いいんじゃない?」

 手綱を握っているユイルはそうこたえた。

 黒色のたてがみがなびく。風景が流れていく。乱れる髪を始めは手で押さえていたが、馬体のあまりの速さにそれを諦め、いまは両腕でユイルにしがみついている。

 王都の外にある畑を抜ける。風が身体の嫌なものを全部飛ばしているかのように気持ちよかった。めぐる景色の中でピスカは破壊された柵を見た。

 一瞬のことだったが、それでも魔具の強さを理解するのには十分すぎるものだった。

 頭だけで振り返った。離れていく王都を眺める。

「父上、いってきます」

 風のならす音に、その言葉は連れ去られた。

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