第23話
揺れている。意識が戻ったときに感じた。上下に身体が動く。瞳を閉じたまま考える。とても心地よい。身体に伝わる熱はなんだろう。懐かしいような、それでいて初めて感じたような安らぎ。このままずっとこうしていたいと思った。
ピスカは瞼を上げる。目の前に白髪の頭が見えた。背負われている。瞬時にそのことを認識した。白く透明な髪が揺れ鼻腔をくすぐった。嬉しいような、それでいて恥ずかしいような気持ちが沸き上がってきた。それを隠すように背中に顔を埋める。
「目が覚めた?」
と、背中越しにユイルは訊いた。頷きを皮膚を通して伝える。
「身体痛い?」
顔を擦りつけて首を振った。
「本当に?」
嘘ではなかった。頬から伝わる熱。耳に届くユイルの鼓動が心を落ち着かせた。痛覚がどこかに飛んでいってしまったみたいだ。上下の揺れが眠気すら催させた。
助けに来てくれたんだ。目頭が熱くなった。わたしは独りじゃなかったんだ。わたしにはもう魔力もなくて、なんの強さも残ってないけど。頼ってもいいのかなユイルに。瞼を背部に押し付けた。
でも、なんであの場所が分かったんだろう。一つの疑問が浮かび上がった。それを訊こうと身を捩り、耳に息を吹きかけるように言った。
「なんで、来たの?」
自分でも驚くほど掠れた声だった。けれどユイルには伝わった、そう思えた。と、動きがとまる。立ち止まったユイルは背中越しに振り返った。どうしたんだろう。なんだか緊張する。自分の体温が上がるのを自覚した。ユイルは言った。
「なんでそんな言い方するの?」
「えっ?」瞬きがとまる。
「僕は心配して助けに来たのにさ」
ピスカは目を白黒させた。なにを言われたのか分からない。予想もしなかった言葉に戸惑い、咄嗟に言葉が出なかった。ユイルはそのまま前を向いて歩き出す。
口を動かした。違う。気持ちが間違って伝わってしまったことに気づいた。わたしが言いたかったのは、ただ――。
ありがとう、という気持ちだったのに。
喉が音を鳴らさない。ユイルの背中が拒絶しているかのような壁に見えた。わたしが悪いんだ。今までユイルの感情を拒み続けた報いだ。声にならない嗚咽が漏れる。間違っていたんだ。全部独りでやろうとしてたことも、ユイルを魔具として扱っていたことも全部、全部。
わたし、酷過ぎることしたよね。
きっと、ユイルのことすごい傷つけちゃったよね。
最低だよね。
わたしのこと、きっと嫌いになったよね。
――ごめんね。
口の動きだけでユイルの背中に呟いた。
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