第21話

 路地に入り人通りが少なくなる。父上の住まいは日があまり差し込まない道に面している。もう少しで辿り着く。と、肩を叩かれた。振り返る。誰だろう。

「お久しぶり、ですね」

 ピスカは首を傾げた。王都に知り合いはいないはずだ。

「広場で何日か前にお会いしたのですが、覚えて――」ピスカと顔を合わせる。「いらっしゃらないようですね」

 広場。何日か前。単語を拾って頭の中で組み合わせた。一人の人物を思い出す。

「もしかして、娘が病にかかっている」

 老婆の表情が明るくなった。

「そうです。祭司様にお頼みして断られてしまった者です」

 老婆は顔にしわをつくって笑った。ピスカは笑わない。なんで今、声を掛けられたんだろう。

「あの、なにか?」

「いえいえ、祭司様にお礼がしたくてね。ずっと探していたのですよ」

「えっ? でもわたしなにも出来なくて……」

 ユイルを造った日からピスカは魔術が使えなくなっていた。当然、記憶の中でも老婆の願いを聞き届けてあげることは出来ず、見放してしまったはずだ。

「なにを言っているのですか。祭司様のおかげで娘は苦しむことをやめたのですよ?」

 気味が悪くてピスカはその場から立ち去ろうとした。しかし、老婆に腕を掴まれる。

「あの後この街にいる祭司にももう一度お願いしたのですよ。娘を預かると言われた。でも……娘は」老婆の握る力が強くなる。「戻ってくることはなかった」

「それがわたしとなんの関係が――」

「あなたは出てきたではありませんか! そこから!」

 ピスカの背後、父上の家を老婆は指差した。

「お知り合いなんでしょ? 二人して私を、私と娘を騙したんでしょ? きっと困っている私を見て笑っていたのでしょう。そうして娘を……あなたが殺したんだ」

 老婆は涙を流し、鋭い眼光を向けた。ピスカは振り払おうと身を捩る。

「わたしは何もしていない」

「いいえ! あなたは残酷なお人だ。私は見ていたのです。この目で! あの広場での騒ぎを!」

 ピスカの身体が固まる。老婆の後方から現れた二人の男。

「だからね。今日はみんなでお礼をしに来たんですよ。ぜひ受け取ってください」

 広場でユイルが腕を切った男。脇腹を貫いた男がいた。

「なんで……死んだんじゃ」

 金髪の男が言った。

「残念まだ生きてるさ」

 脇腹に巻かれた布から血が染み出ている。

「お前にやられたもんを返さなきゃ死ねないだろ」

 と、片腕の男が言った。

「さあ、一緒に行きましょう」

 老婆の顔が不気味に歪む。

「いやだ……」ピスカは首を振った。「行きたくない」

 三人の形相が歪な笑顔で染まった。

 男に両腕を掴まれて連れて行かれる。

「いやだ」ピスカは頭を後ろに向けた。「助けて……」

 誰か助けて、父上、ユイル。わたしを助けてよ。

 材料が手から落ち、地面に四散する。

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