到着


 後宮の回廊を進んでいた瑛凛えいりん王女一行。

 その先導を務めていた女官二人が、ふいに立ち止まった。

(…………どうやら、ついたようね)

 瑛凛は、そっと息をはいた。わずかな疲労感と共に。

 ここまでの道のりは、短いようで長かった。

 はるか昔からの名残なのだろう、そもそも後宮ここは、広すぎるのだ。その割には、実際によく使われている――――いわゆる王族たちの居住域は限られている。

 王女である瑛凛の通り道は当然、最短距離になっていたであろう、と思わわれる。

 実際、女官たち大人からすれば、大した道程ではなかったはずだ。

 しかし、まだ子どもの身である瑛凛には、ひどく遠いように感じた。

 あらかじめ、上官から言われていたのだろう。

 ある部屋の扉の前で控えていた二人の女官が、瑛凛の姿を認めると、うやうやしく一礼した。

 それから、案内役の女官の一人が軽く頷いたのを合図に、観音開きの扉を開ける。

 それを見届けた後、今までずっと後ろを見せていた二人の案内役が、瑛凛の方へふり返った。

『こちらが、姫様のお部屋でございます。大家たいか(齋王のこと。後宮では、齋王のことを大家、齋王の正妃のことを大娘と呼ぶ)のお召しがあるまで、しばしこちらでご休息くださいませ』

 そう、女官の一人が礼をして告げても、瑛凛にはどこか他人事のように聞こえた。

 どこか無意識の内に、あくまでも自分は後宮ここの招かれ人なのだ、客人なのだという思いが消えなかったからだ。

 そんな瑛凛は、短く『…………わかった。みな、ここまで、ご苦労』と、労いの言葉を述べた後、一人で部屋に足をふみ入れた。

 案内役をはじめとする女官たちや、瑛凛付きの女護衛は、それを無言で礼をしたまま見送った。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る