美少女鈴の設定
裏通りの一角で、月餅を食べている
少女姿をしている瑛明は、月餅を片手に持ちながら、何やらブツブツとつぶいていた。
「いいか………ではなく、いい? じゅあ……これも違う。…………そうか。こうね」
一人でブツクサ言っていた瑛明が、月餅をすべて食べ終わると。
美少女“
「いい、寿晏? わたしはね、お金持ちの商人のお嬢さま。名は、
「……………………………………………………すごいですね。ここまで化けの皮が厚ければ、誰も、気が付かないでしょうね」
いっそ感心するくらい、瑛明の演技はすごかった。
声の出し方も、話しぶりも、首の角度まで、すべて完璧。本物の女の子そのものだ。
ちなみに、今の瑛明は商家の良いところのお嬢さま、という格好をしている。
それに対し、晏如は珍しく元の性別の格好、つまり男装をしているのだ。さらに言うと、瑛明の変装・“美少女鈴”の設定に合わせるように、商家の下働きの少年がよく着ているような装いをしている。
だから、瑛明の設定は、十分に通用しそうだった。
まあこれも、瑛明も晏如も、まだ声変わりがまったく来ていないから、できる演技だが。
「たぬきの七変化もなんとやらってこのことを言うのですね。おそらく」
調子に乗った晏如は、言わなくてもいいほめ言葉を言う。
それに、両目をつり上げた瑛明が、
「う、うるさいわ、
両手を腰に当て、かわいらしくおこる。
この際だから、晏如も瑛明のおしばいに、とことん付き合ってあげることにした。
「ひどいですね。こんなに熱心に、お嬢さまと旦那さまにお仕えしているというのに。こんな孝行者のお給金を、下げるのですか?」
ああ、なげかわしい…………。といった風に、月餅の入ったふくろ(あの後結局、瑛明に持たされた)と着替える前の衣が入った風呂敷包みを持っていない方の手で、出ていない涙をぬぐうフリをする。
それを見た瑛明が、しばらくの間、晏如に背を向けた。壁に手を当てて、こみ上げてくる笑いを必死にこらえている。
やがて、鈴お嬢さまにどうにか戻れた瑛明が、晏如の方に向き直った。
「…………ふふふ。寿嘉、あなたおもしろいわね」
「…………おもしろい?」
「ええ。こんなにすぐ、私の調子についてくる人はいないわ」
晏如は、思わず首をかしげた。
おもしろ? 僕が? 君、お笑いの才能ないネ、と故郷で言われ続けたこの僕が?
(というか、今までどんだけいろんな人に、無茶ぶりを要求してきたんですか…………)
晏如は、何も言えなくなってしまった。
しかし、すぐに我に返ると。
「それよりもいいんですか、いつまでもこんなところにいて」
そう瑛明に問いかける。
瑛明も、思い出したように、うなずいた。
「あっ、そうね。そろそろ行きましょう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます