第2話

 君との初めてのデートは、今は亡き僕たちが憧れたミュージシャンが愛した街だった。私は右耳にイヤホンを差し、左耳で、昼休憩を楽しむ会社員たちの世間話を聞いていた。少し遅れるという君からの連絡を見ながら、私は先ほど私の横を通りすぎた銀行に勤めているであろう女たちが、悪口を言っていた上司について想像していた。その上司は男なのか、女なのか。あの女たちとはいくつの年の差なのだろうか。そんなどうでもいいことを考えた。そもそも私は、ああいう団体で行動する女たちが嫌いだ。なぜあんなにも大きな甲高い声で笑う必要があるのか。ああまるでサルのようである。私は、高校でもそれに悩まされ、だれもわかってくれないと嘆いていた。いま思うと、周りの人間から見るとかなり”イタイ”男であっただろう。しかし、私は悩んでいた。そんな時に出会ったのが、君の音楽だった。同い年の君が歌う音楽は鋭く私の胸に刺さり、君に会ってみたいと思った。君のライブに行くために、いまではもう慣れてしまったライブハウスに、緊張しながら入っていったのを覚えている。ライブが終わって、君はライブ中に着ていた白いワンピースを着替えて、デニムの短パンに僕が好きなバンドのTシャツを着てコーラを飲んで隅の壁に寄りかかって立っていた。その姿をみて同じだと思った。私は勇気を出して、フロアにいる君に話しかけた。ライブの時の鋭い雰囲気を持った君は拍子抜けするほど気さくで、近くにいくと柔軟剤の匂いに包まれる。ライブハウスのスタッフが片付けをし始めて、僕たちの間を通り、終わりだと行動で予測させてくる。私は君に連絡先を渡し、僕もそのバンド好きなんですと言って、ライブハウスの階段を駆け上がり、逃げるようにその日をおわりにした。

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交わった平行線 @00_2r

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